世界最大規模の空中決戦

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 ──世界最大規模の空中決戦



 魔獣猟兵の空中戦艦ブリューナクが迫る中、アンスヴァルトを含めた連合軍の飛行艇は最後まで地上支援を行うつもりで低空に留まっていた。


「艦長! 第1連合空中艦隊が到着します!」


「来たか」


 だが、そこで空中戦艦ブリューナクを目標にした空中艦隊が到着。


『こちら第1連合空中艦隊旗艦ミョルニル。これより敵空中艦隊と交戦を開始する』


 空中戦艦ミョルニル。


 これが連合軍が建造した空中戦艦ブリューナクに対抗できる巨大飛行艇だ。


 建造は帝国の航空機設計局であるブラウン設計局が指導し、帝国内のドックで行われた。そのため帝国空軍が運用する。


「敵空中戦艦ブリューナクと思しきものを確認!」


「よろしい。勝負だ」


 第1連合空中艦隊はフェルディナント・フォン・ホルツェンドルフ帝国空軍上級大将によって指揮されており、ホルツェンドルフ上級大将は戦艦ミョルニルの戦闘指揮所から指示を下していた。


「いよいよ本艦の真価を発揮するべき時が来ましたね」


「ああ。我々は何としても空中戦艦ブリューナクを落とす」


 魔獣猟兵の空中戦艦ブリューナクの主砲は口径51センチ3連装砲を装備している。


 対する帝国空軍の空中戦艦ミョルニルの主砲は口径66センチ3連装砲だ。異常なまでに巨大な手法をミョルニルは搭載していた。


「敵空中戦艦射程内です」


「よろしい。主砲撃ち方始め!」


 空中戦艦ミョルニルの弾薬庫から巨大すぎる砲弾がエレベーターで主砲塔に持ち上げられる。口径66センチの主砲弾の重量はあまりにも大きく、この主砲の発射レートは決して高いものではない。


 空中戦艦ミョルニルの主砲が持ち上がり、レーダー連動のそれが火を噴く。


「敵艦発砲!」


「慌てるな。こちらの方が射程は圧倒的に上だ」


 ホルツェンドルフ上級大将が命じ、空中艦隊決戦が続く。


「命中弾です!」


 ついに空中戦艦ミョルニルが命中弾を出した。空中戦艦ブリューナクの砲塔の上面装甲に命中した。装甲によって貫くことはできなかったものの、砲塔のターレットリングが歪み、射撃不可能となる。


 しかし、空中戦艦ブリューナクも迫り、空中戦艦ミョルニルに打撃を与えた。


「被弾! 被弾しました!」


「被害報告とダメコン急げ!」


 火災が生じた空中戦艦ミョルニルですぐまさ消火活動が始まる。


 空中戦艦による砲撃の応酬が繰り広げられる中、空中巡航艦を旗艦にした空中駆逐戦隊なども行動を開始。


 チャフと煙幕を展開して敵の攻撃を避けながら敵の空中艦隊に突撃する。


「空雷戦用意!」


 そして、肉薄した空中駆逐艦から空中魚雷が放たれた。


 扇状に広がる空中魚雷に向けて魔獣猟兵の飛行艇から両用砲や高射機関砲が火を噴くが全てを阻止するには至らず、次々に魔獣猟兵の飛行艇が被雷し、墜落していく。


「空中戦艦ブリューナクが爆発を起こしました!」


 ときを同じくして空中戦艦ブリューナクと交戦中だった空中戦艦ミョルニルも勝利を収めていた。空中戦艦ミョルニルが放った主砲弾が空中戦艦ブリューナクの上面装甲を貫き、弾薬庫を爆発炎上させたのだ。


「空中戦艦ブリューナク、撃墜!」


「よろしい。後はこちらのゲームだ。帝国の空は帝国の手に!」


 依然戦闘可能な空中戦艦ミョルニルが猛威を振るい始めた。


 魔獣猟兵の全ての飛行艇を完全なアウトレンジで撃破していき、魔獣猟兵は接近しての砲撃を試みるがその動きは空中駆逐戦隊と空中巡航戦艦によって防がれてしまう。


 ほとんど全て飛行艇を撃墜され、魔獣猟兵の空中艦隊は撤退した。


「友軍が航空優勢を完全に確保!」


「いいぞ。では、このまま地上支援を継続する」


 アンスヴァルトは魔獣猟兵の空軍戦力の空軍戦力がなくなったことで地上支援を継続し、魔獣猟兵トゥアハ・デ・ダナーン軍集団ウェンディゴ降下軍へと砲爆撃を続けた。


 アレステアたちは友軍が確保した空の下で進軍する。


 ウェンディゴ降下軍の陣地は砲爆撃によって破壊され、アルデルト中将の戦車部隊が突破し、ケルベロス装甲擲弾兵大隊とシグルドリーヴァ大隊が突破口を広げた。そうやって次々に突破を続け、ウェンディゴ降下軍の司令部がある駅に近づく。


「空はこっちが握った。こうなれば負ける方は難しいってものだぜ!」


「ええ。このまま勝利を!」


 シャーロットが上空を飛行する友軍空中艦隊を見上げて歓声を上げ、アレステアが“月華”を握り締めてそう頷いた。


 アレステアたちを乗せたカラカル装甲兵員輸送車は戦闘工兵が地雷原を切り開いて作った道を進み、魔獣猟兵の防衛線を次々に突破していった。


 ときおり小規模な魔獣猟兵の抵抗が生じるもほとんどが火力の差によって葬送旅団に叩きのめされた。


「葬送旅団! こっちだ!」


「第1降下狙撃兵師団の方ですね!」


 アレステアたちが暫く進むと手を振ってくる第1降下狙撃兵師団の将校が現れた。


 彼は数名の部下を連れてアレステアたちに近寄ってくる。


「敵司令部を確認したが既に装甲戦力が進出しつつある。我々が装甲戦力を空軍とともに足止めするのでその間に何としてもやり遂げてくれ」


「はい!」


 第1降下狙撃兵師団の将校の言葉にアレステアたちが頷く。


「進め! 勝利が待っているぞ!」


 アルデルト中将が号令を下し、再び部隊が前進を開始。


「敵の司令部には間違いなく魔獣猟兵の高官がいます。そして魔獣猟兵の高官というのは全てが旧神戦争の英傑たちです。我々はそれに対して勝利しなければなりません」


「そうですね。難しい戦いになるかと思います」


「ですが、アレステア君。君は真祖竜に勝利した。私はそのことから君は今や旧神戦争の英傑たちに並び立っていると思いますよ」


「だと、いいのですが……」


 レオナルドの言葉を受けてもアレステアはなお不安であった。


「いざとなれば近接航空支援で叩きのめしてもらえばいいさ。アレステア少年がひとりで気負うことじゃないって」


 シャーロットはそう軽く言い、カラカル装甲兵員輸送車がウェンディゴ降下軍の司令部を目指す様子を車内から眺めた。


「そうですね。幸い航空優勢は完全に友軍が握っています。友軍の支援を受けることもできるでしょう」


「友軍にも働いてもらわないと」


 レオナルドとシャーロットはそう言葉を交わし、そしてカラカル装甲兵員輸送車から鉄道駅が見え始めた。


「いよいよですね」


 あそこに敵の司令部が位置している。


 魔獣猟兵の、旧神戦争の英傑がいる。


 倒さなければならない敵がいる。


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