遅滞作戦
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──遅滞作戦
「葬送旅団アレステア・ブラックドッグです!」
「よく来てくれた、帝国の英雄。私は第1降下狙撃兵師団師団長のアリエル・ガル帝国空軍中将だ」
アレステアたちは第1降下狙撃兵師団司令部の天幕で師団長のガル中将と会った。
「我々は遅滞作戦を命じられていますが、具体的には何を?」
「戦況について先に説明する。D軍集団は機動打撃部隊を投入して橋頭保を潰すつもりだ。だが、魔獣猟兵はその前に橋頭保を固めようとするだろう。橋頭保が確保されてしまうとそのまま居座られてしまう」
魔獣猟兵はウェンディゴ降下軍などを使用してヴァルムカップを制圧したが、国家憲兵隊など警備に当たっていた部隊がクレーンの爆破などと実施した。
そのためヴァルムカップはまだ十位な揚陸能力を有さない。
しかし、それでも魔獣猟兵は揚陸を続けており、かなりの数の装甲部隊などが上陸した。このままでは魔獣猟兵は橋頭保を固めてしまう。
「よってレギンレイブ大隊がヴァルムカップに設置された魔獣猟兵の物資集積所を爆破。そのための陽動として我々は敵の降下軍の司令部を襲う」
「わお。また冒険的な作戦だ」
ガル中将は戦力的にただ守勢に立っているだけでは与えられた任務が達成できないと判断した。そのため攻撃に出ることにしたのだ。
「攻撃的にやらなければ敵は進み続ける。オストゴルフが落ちてからでは遅い」
「了解です。やりましょう」
アレステアがガル中将の言葉に頷く。
「敵降下軍の司令部は判明している。ヴァルムカップからオストゴルフに向かう鉄道駅のひとつに今は司令部を設置している。敵の降下軍は今のところ前進できていない。連合軍の反撃に備えている」
ガル中将がそう言って地図を示す。
「我々第1降下狙撃兵師団は重装備を有さない。よって密かに後方に浸透し、そのまま司令部を強襲する。そちらは重装備があるのである程度敵を引き付けておいてほしい」
「了解しました、中将閣下」
ガル中将の指示にシーラスヴオ大佐が頷く。
「では、武運を祈る。作戦開始だ」
そして、アレステアたちは行動を開始した。
アレステアたちは密かに攻撃開始位置へ向かう。
「しかし、厳しい戦いになりそうですね」
「我々には装甲戦闘車両などの重装備があります。しかし、敵の降下軍にはさほど重装備はないはずです。その点我々は有利に戦えるでしょう」
「敵の装甲軍は?」
「重量のある装備の揚陸には時間がかかります。友軍がサボタージュを実施したのであれば揚陸はそこまで順調に進んでいないでしょう」
「なるほど」
レオナルドの説明を受けてアレステアが頷く。
「とはいえ、降下部隊は精鋭歩兵だよ。重装備なくても必死に抵抗するはず。厄介な話だよ、本当にさ」
「そこはこちらの精鋭歩兵である第1降下狙撃兵師団の活躍に期待しましょう」
シャーロットが作戦について愚痴るのにレオナルドがそう言う中、アレステアたちは配置に就いた。
「アンスヴァルト含めた空中艦隊が支援可能とのこと」
「よろしい。そろそろ時間だ。始めるぞ」
シーラスヴオ大佐が指揮を執り、作戦が開始される。
「戦車前進、戦車前進!」
アルデルト中将の戦車部隊が先方を進み、その後にケルベロス装甲擲弾兵大隊、シグルドリーヴァ大隊が続く。その後からアレステアたちが進んだ。
「オートバイ部隊より報告! 敵の対戦車砲が前方に位置しています!」
「砲兵に支援要請!」
アルデルト中将が指示を下し、葬送旅団隷下の口径120ミリ重迫撃砲を装備する部隊が砲撃を開始。オートバイの誘導で敵の対戦車砲陣地に砲弾が降り注ぐ。
対戦車砲は装甲化されていないため砲兵や歩兵の攻撃に滅法弱い。戦車にとっては脅威でも戦車で相手にしなければいいだけだ。
「前進再開!」
アルデルト中将の戦車部隊が再び前進。
そこでアイスベア中戦車の車内に激しい金属音が響いた。
「敵の対戦車砲の生き残りです! 2時の方向!」
「砲塔旋回!」
魔獣猟兵は口径76.2ミリの対戦車砲を降下部隊に配備していたが、装甲が強化されたアイスベア中戦車の正面装甲を狙うという間違いを犯してしまった。
砲弾を弾いたアイスベア中戦車とレーヴェ重戦車が一斉に生き残りの対戦車砲に向けて砲弾を叩き込んだ。
対戦車砲が予備の弾薬もろとも吹き飛ぶ。
「他に対戦車砲は?」
「オートバイ部隊によればいません」
「よろしい。前進再開だ」
この時点で既に第1降下狙撃兵師団は魔獣猟兵のウェンディゴ降下軍の後方に浸透を完了していた。その彼らが行動を起こす。
「敵の砲兵陣地を確認」
「やるぞ」
第1降下狙撃兵師団はウェンディゴ降下軍の砲兵陣地を奇襲。
「フラ────ッ!」
大声上げて銃剣を装着した魔道式自動小銃を握って突撃し、砲兵陣地に突入する第1降下狙撃兵師団。魔獣猟兵は突然の攻撃に応戦できず撃破されて行く。
「爆薬を仕掛けろ!」
弾薬や榴弾砲に爆薬を仕掛け、そのまま爆破。
第1降下狙撃兵師団はウェンディゴ降下軍から砲兵戦力を引き剥がした。
「高射砲陣地を発見しました!」
「叩け!」
さらに高射砲陣地や物資集積所に破壊工作を仕掛けて第1降下狙撃兵師団はウェンディゴ降下軍を翻弄し続ける。
「ウェンディゴ中将閣下。連合軍の破壊工作が行われています。被害は甚大です」
「すぐに対応しろ! 我々がここを押さえておかなければ友軍は上陸できないのだ」
「了解」
ここでウェンディゴ降下軍は後方を荒らしまわる第1降下狙撃兵師団への対応と重装備で迫るアレステアたちの対応で二分された。
「前進、前進! 進め!」
「これならいける……!」
アレステアたちは敵の抵抗が警備になったことで快進撃し、勢いよくウェンディゴ降下軍の司令部がある鉄道駅に迫る。
しかし、そこで大規模な陣地に遭遇してしまう。
「クソ。これは突破できないぞ」
敵は軽歩兵だ。重装備はないし、砲兵は友軍が撃破した。だが、それでも精鋭軽歩兵というのはそう簡単に突破できるものではない。
「大佐殿。友軍空中艦隊が支援可能です!」
「分かった。近接航空支援を要請。座標を指示せよ」
「了解!」
上空を飛行中だったアンスヴァルトを含めた空中艦隊は近接航空支援のために待機していた。砲兵が迫撃砲という形でしか存在しない葬送旅団にとって空中艦隊は貴重な火力である。
「赤のスモークで指示した場所に近接航空支援を実行せよ!」
『了解。デンジャークロース。警戒せよ!』
上空から無数の砲弾が降り注ぎ、魔獣猟兵の陣地が瞬く間に破壊されて行く。
「今のうちです。行きましょう!」
アレステアたちは友軍飛行艇の援護を受けながら前進。
前へ、前へと前進を継続し、魔獣猟兵の司令部に迫る。
しかし、ここに来て上空で不穏な動きが生じた。
「艦長。レーダーピケット艦より連絡です。敵の空中艦隊が空域に侵入しました。異常なほど大きな空中戦艦を把握したとのこと」
「まさか、あの噂の空中戦艦ブリューナクか?」
「可能性としては。いかがしますか?」
「撤退はできない。友軍を見捨てるわけにはいかないのだ」
アンスヴァルト艦長のテクトマイヤー大佐はそう言い、魔獣猟兵の空中艦隊が迫る中、低空を飛行し続けたのだった。
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