ラウンドアップ作戦
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──ラウンドアップ作戦
魔獣猟兵は連合軍の予想通り上陸作戦を行うつもりだった。
「我々は現在ソコラス島を占領している。上陸部隊はそこに集結中だ」
戦いを求める魔獣猟兵の集まりであるトゥアハ・デ・ダナーン軍集団の司令官ハドリアヌス魔獣猟兵大将が説明する。
「我々はまずウェンディゴ降下軍がオストゴルフ周辺の港湾施設のある都市ヴァルムカップを制圧し、上陸を可能にする。このための陽動作戦として別の港湾都市に一部部隊を投入する」
やはり魔獣猟兵が狙っていたのは奇襲上陸だ。
「ヴァルムカップ制圧後はヘルドルフ装甲軍が上陸し、橋頭保を拡大。連合軍の反撃にあう前に港湾施設への砲爆撃が行えない位置まで前進する」
港湾施設が砲爆撃されると上陸は困難になる。
「海軍は厳重な対潜作戦を実施。空軍は対地支援は後回しにして航空優勢の確保が最優先。それぞれ自分たちの戦場を戦い抜け」
「了解」
トゥアハ・デ・ダナーン軍集団にはあまり魔獣猟兵の幹部たちは参加していなかった。あの戦闘狂であるセラフィーネも参加していないのだ。
だが、それに反して戦力としての規模は大きく、戦車師団や機械化歩兵師団が大量に配備されている。飛行艇も同様だ。
飛行艇はあの世界最大の空中戦艦ブリューナクが存在している。
「この攻勢計画は以後ラウンドアップ作戦と呼称。それぞれ最善を尽くせ。以上」
そして魔獣猟兵が攻撃のために動きだした。
ラウンドアップ作戦は陽動のための第一段階として降下作戦が実施される。複数の小規模な降下部隊が降下し、ゲリラ戦を展開し、自分たちの規模を大きく見せるのだ。
「上級大将閣下。攻撃が始まりました。各港湾都市で攻撃の報告が上がっています」
「始まったか。事前の情報通りだが」
連合軍側の指揮を執っているのは帝国陸軍のアーサー・シューマン上級大将。彼はD軍集団を指揮し、オストゴルフ周辺の海岸線の防衛に当たっていた。
「海軍の方はどうか?」
「今のところ海軍は敵輸送船団を捕捉できていません。魔獣猟兵は緒戦のどさくさに紛れて奪取したソコラス島を拠点としているようですが、潜水艦や飛行艇などの接近は徹底して阻止されています」
魔獣猟兵は対潜作戦と防空作戦を行っており、連合軍は魔獣猟兵の拠点ソコラス島の状況を把握することはできていなかった。
「事前の対応通りとなると敵の上陸後に機動打撃となる」
連合軍は水際撃破を諦めていた。海岸線全てに配置できるほどの戦力はないのだ。
よって少数の地上部隊を各港湾施設に配置し、敵を察知すれば後方で待機している予備の機動部隊を投入して撃破するという戦略を選択していた。
「ですが、今はほとんどの地域で攻撃が報告されており、混乱が広がっています。どのようにいたしますか、閣下?」
「詳細な情報を集めさせるんだ。陽動は規模が小さいはず」
「了解」
しかし、この命令の後も神出鬼没な魔獣猟兵の降下部隊の規模を見誤り、過大に報告する部隊が相次ぎD軍集団司令部は魔獣猟兵の攻撃を読めずにいる。
「ウェンディゴ降下軍、降下開始、降下開始!」
そうしている間にも魔獣猟兵はついにヴァルムカップに降下し、瞬く間に同都市を制圧。すかさず潜水艦や哨戒艇による探知を避けていた輸送船団が上陸を開始し、橋頭保の確保を始めた。
「魔獣猟兵の上陸部隊を確認しました! ヴァルムカップにて敵は橋頭保を拡大中とのことです!」
「すぐに機動部隊を投入する。橋頭保を固められる前に撃破しろ!」
すぐさまD軍集団は6個装甲師団を中核とする機動打撃部隊を投入。
空軍も陸軍の援護のために動き始めた。
「出撃命令です!」
同時にアレステアたち葬送旅団にも出撃命令が下される。
「我々は友軍降下部隊とともに魔獣猟兵が橋頭保を構築しつつあるヴァルムカップ近郊に降下し、敵の橋頭保拡大を遅滞させます。第1連合空中艦隊が我々を支援する予定となっています」
「ついに上陸作戦が……。何としても阻止しましょう!」
この攻撃を頓挫させれば魔獣猟兵は講和のテーブルに着く可能性があるのだ。
「参加する部隊は?」
「第1降下狙撃兵師団とレギンレイブ大隊が加わります。レギンレイブ大隊は既に現地に侵入して活動中」
歴戦の猛者である第1降下狙撃兵師団とレギンレイブ大隊が橋頭保の拡大をアレステアたちとともに阻止する。
「それでは準備を」
「了解!」
アレステアたちは作戦準備を整え、アンスヴァルトが離陸。
「艦長。第1連合空中艦隊が遅れるとの知らせです」
「何故だ?」
「空軍基地に魔獣猟兵のコマンドがサボタージュを仕掛けたとのこと」
「ふむ。幸先が悪いな」
第1連合空中艦隊には無敗を誇る空中戦艦ブリューナクを撃破するという任務があったのだが、その彼らの出撃が遅れている。
もし、アンスヴァルトがブリューナクに接敵すれば成す術もなく撃墜されるだろう。
「それでも降下は予定通り行えとD軍集団司令部は行っているのか?」
「はい。速やかに降下を実行せよとのこと。本艦以外に空中大型巡航艦4隻を主力とする空中艦隊が合流します」
「分かった。降下を全うするぞ」
現在航空優勢は入り乱れていた。
連合軍は橋頭保にいる脆い魔獣猟兵に砲爆撃を浴びせようとしており、魔獣猟兵も機動打撃を与えようとしている連合軍を砲爆撃しようとしていた。
お互いの飛行艇が遭遇戦を繰り返し、空から鋼鉄の獣が落ちる。
「第1降下狙撃兵師団を乗せた輸送飛行艇と合流しました!」
「よろしい。友軍を援護しながら降下地点へ」
アンスヴァルトは友軍輸送飛行艇と合流し、ヴァルムカップを目指す。
『間もなく降下地点。降下艇発艦準備!』
テクトマイヤー大佐から指示が出て降下艇が発艦準備を始める。
「乗り込め、乗り込め! 急げ、急げ!」
いつ魔獣猟兵の空中艦隊が殴り込んできてもおかしくない状況でアレステアたちは大急ぎで降下艇に乗り込んだ。
『降下艇発艦開始!』
そして、降下艇が発艦していく。
カラカル装甲兵員輸送車、アイスベア中戦車、レーヴェ重戦車などを搭載した大型降下艇が着陸していき、地上に展開を開始。
「第1降下狙撃兵師団とレギンレイブ大隊との合流を目指します。行きましょう!」
「ええ!」
アレステアたちはカラカル装甲兵員輸送車で戦場を進み、先ほど降下した第1降下狙撃兵師団、そして先行しているレギンレイブ大隊との合流を目指した。
「友軍の降下艇です!」
「第1降下狙撃兵師団だね」
早速第1降下狙撃兵師団の部隊のひとつと合流。
第1降下狙撃兵師団は対戦車砲などを展開させつつあり、戦闘の準備を進めていた。
「誰か!」
「葬送旅団アレステア・ブラックドッグです!」
「ああ。葬送旅団ですか。師団長がお待ちです。どうぞ!」
アレステアたちは第1降下狙撃兵師団の兵士たちに促されて師団司令部へと向かった。
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