トゥアハ・デ・ダナーン軍集団
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──トゥアハ・デ・ダナーン軍集団
アレステアは再び潜水艦基地に戻って来た。
「アレステア少年! 無事だった!?」
「シャーロットお姉さん」
アレステアが姿を見せるとシャーロットが駆け寄ってきた。
「皆さん。もしかすると戦争が終わるかもしれません」
「どういうこと?」
「連合軍と帝国の偉い人たちと話ができませんか? 僕はさっき魔獣猟兵の指導者たちと会ってきました。そして、彼らから伝言を預かっています」
「本当? でも、とりあえず今は撤退だよ。急いで!」
「はい!」
シャーロットに促されてアレステアたちは潜水艦基地からの脱出を開始。
「おーい! こっちだー!」
第1海兵コマンドが手を振って合流地点を示す。そこに向けてカラカル装甲兵員輸送車に乗ったアレステアたちが到着した。
降下艇がアンスヴァルトから飛来し、アレステアたちの回収を開始。
「地上部隊の回収完了です、艦長」
「よろしい。では、脱出だ」
テクトマイヤー大佐がアンスヴァルトを作戦空域から離脱させる。
「魔獣猟兵は本当に講和するの?」
「その準備はあると。しかし、彼らの側も講和と継戦で揉めているようです」
「そっかー。ともあれ戦争が終わりそうなら何よりだよ」
「はい。そのためにも連合軍と帝国の指導者たちと会わなければ」
「シーラスヴオ大佐が連絡しているよ」
アレステアが魔獣猟兵から講和のメッセージを受け取ったことはまず帝国上層部に向けて報告されていた。
「アレステア卿。すぐに帝都に来るようにとの指示です」
「了解」
そして、アレステアは帝国上層部の人間と会うために帝都へと向かった。
アンスヴァルトは帝都に向かい、ムートフリューゲル空軍基地でアレステアたちを降ろすとアレステアたちは準備された車両に乗り込みそのまま宮殿へ。
「アレステア卿。こちらです」
案内は宮内省の職員ではなく、ノルトラント近衛擲弾兵師団の将校が行った。
「来たか、アレステア卿」
案内された場所は皇帝大本営が開かれる場所ではなく、別の会議室だ。
そこにはメクレンブルク宰相の他にハインリヒや外務大臣、内務大臣など帝国の重鎮たちが揃っていた。彼らがアレステアを出迎える。
「アレステア卿。君が講和について魔獣猟兵から打診されたと聞いた。詳細について報告してもらいたい」
「はい」
メクレンブルク宰相に促されてアレステアが報告を開始。
「まず魔獣猟兵には講和を求める人たちとあくまで継戦を訴える人たちがいます」
魔獣猟兵全体が講和することに同意しているわけではない。
「そこで継戦を訴える人たちがこれから大きな攻撃を行います。それが成功すれば戦争は続き、失敗すれば継戦派閥がいなくなることで魔獣猟兵は講和の席に着きます」
「それは誰が約束したのだ?」
「魔獣猟兵元帥、そして“竜狩りの獣”であるエリヤさん。それからカーマーゼンの魔女であるセラフィーネさんやカノンさん。魔獣猟兵上層部です」
「なるほど。それが罠ではないといいのだが」
確かにこの前まで殺し合いを行っていた相手であり、戦争を仕掛けて来た側から、唐突に講和の話が出るのはどうにも怪しいところがある。
「しかし、彼らは攻撃の可能性を知らせました。罠であるならばそのようなことをする意味があるでしょうか?」
「攻撃が失敗した場合に本当に講和が始まるのか?」
閣僚と軍の司令官たちが集まった会議ではアレステアの報告を疑問視する声が上がり始めた。彼らは確かに講和を求めているが、だからと言ってそのために何もかも投げ捨てていいとは思っていない。
「つまり魔獣猟兵は次に起きる戦いで継戦派閥を我々の手によって処理させて、それらがいなくなれば講和できるというわけのか?」
「恐らくはそういうことです」
「確かに継戦を求める派閥がありながら講和することは難しいだろうが」
メクレンブルク宰相はそう言いながら帰国していたシコルスキ元帥の方を見る。
「シコルスキ元帥。仮に次の攻撃があった場合、軍は凌げるだろうか?」
「現在連合軍は極めて高度に維持されております。徴集兵はアーケミア連合王国での戦いで経験を積んでおり、さらにはアーケミア連合王国の聖域化によって潤沢に装備が与えられていますので」
「なるほど。それならばここでひとつ賭けにでるべきなのかもしれないな」
シコルスキ元帥の報告にメクレンブルク宰相がそう呟いた。
「陸軍は戦えると言うが、空軍はどうか?」
「空軍は全体的には魔獣猟兵に対し有意な状況にあります。アーケミア連合王国空軍も今現在帝国に派遣されており、飛行艇の総数では我々が有利です。ですが、問題がひとつあります。敵の空中戦艦ブリューナクです」
空中戦艦ブリューナク。巨砲を備えた魔獣猟兵の有する世界最大の飛行艇だ。
「これに対抗するための空中戦艦は間もなく就航しますが、それまでは連合軍はこの空中戦艦ブリューナクによって多大な被害を強いられるでしょう」
「勝利を得るのは容易ではないということか」
空中戦艦ブリューナクはアウトレンジであらゆる連合軍の飛行艇を砲撃できる。兵器において重要な射程において魔獣猟兵は連合軍に絶対的アドバンテージを誇っていた。
「次に起きる戦いに勝利すればこの戦争が終わるかもしれないのだ。努力してくれ」
「はい、陛下。最善を尽くします」
ハインリヒもそう願い、集まった各メンバーが頷く。
帝国と連合軍が魔獣猟兵との講和を望み、そのために動く中、魔獣猟兵ではそれとは逆に講和を求めないものたちが動いていた。最後の戦いに向けて。
「トゥアハ・デ・ダナーン軍集団へようこそ」
そう言うのは真祖竜アントニヌスだ。
「既に知っているものたちも多いと思うが、魔獣猟兵は講和に向けて動くことを決定した。何を譲歩するにせよ、戦争は続けないとの考えだ」
その言葉に不満のうなりが響いた。
「だが、魔獣猟兵統帥会議は戦いたがっているものがいることを知っている。だから、最後の戦うためのチャンスを与えるということだ」
アントニヌスがそう力強く告げる。
「我々トゥアハ・デ・ダナーン軍集団はその最後の戦いを完遂するための軍だ。戦うことを望んだ同胞たちよ。その願いは果たされるだろう」
トゥアハ・デ・ダナーン軍集団。
魔獣猟兵の継戦派閥が結集して構築した魔獣猟兵の独立組織。
「全員が満足するまで戦おうではないか!」
「おおっ!」
トゥアハ・デ・ダナーン軍集団にはヘルドルフ軍集団の司令官であったクリストフやアレステアに左腕を切断されやウェンディゴなどがいた。
「ブリューナクについては我々の側に?」
「ああ。ブリューナクもまた死に場所を探しているということだ」
魔獣猟兵の将校のひとりが確認するのにアントニヌスがそう返す。
「では、諸君。満足するまで戦って死ね」
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