潜水艦基地より
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──潜水艦基地より
アレステアたちはゴルトブンカーにおける潜水艦用防空壕を襲撃。
「突撃、突撃!」
ケルベロス装甲擲弾兵大隊という随伴歩兵を伴ったアルデルト中将の戦車部隊が前進し、潜水艦基地の正面の警備を突破した。
「高射砲陣地を確認」
「了解。排除せよ!」
さらに密かに忍び込んでいたシグルドリーヴァ大隊が高射砲に対する破壊工作を開始。高射砲にテルミット手榴弾などを使用し、不可逆に破壊して無力化した。
「次はレーダーだ! 急げ!」
シグルドリーヴァ大隊は潜水艦基地の防空能力を壊滅させることで潜水艦基地に対する飛行艇の爆撃を実行可能にするのが任務だ。
「これより基地に内に突入! 全員降車!」
シーラスヴオ大佐が命じ、葬送旅団の兵士たちが次々にカラカル装甲兵員輸送車から降りた。そして、前方に広がる潜水艦用防空壕を睨むように見る。
「シーラスヴオ大佐さん。ここからは僕は先頭を」
「ええ。お願いします」
アレステアたちが前に出て潜水艦用防空壕の内部に突入。
「接敵!」
潜水艦用防空壕内では魔獣猟兵が待ち受けていた。アレステアに機関銃の猛烈な射撃が浴びせかけられ、アレステアが弾幕を突破する。
「いきます!」
「援護するよ、アレステア少年!」
アレステアは機関銃陣地の制圧を目指し、シャーロットとレオナルドがそれを援護。
「ゲヘナの眷属だ! ハドリアヌス大将閣下をやりやがった奴!」
「クソ。奴は化け物だ」
魔獣猟兵にもアレステアの名前は響いていた。
魔獣猟兵の兵士たちは脅威が高いと思われるアレステアを必死に撃退しようとするあまり、他がおろそかになってしまっていた。
「ゴードン少佐殿より高射砲陣地を制圧したとのこと!」
「空軍を呼べ!」
魔獣猟兵は必要な高射砲を守り切れず、高射砲陣地は壊滅。
『全艦、作戦開始だ』
連合軍の飛行艇が航空支援のために進出を始めるが、魔獣猟兵にはもはやそれを阻止する方法はなかった。
「航空支援が来るぞ! 全員警戒せよ!」
シーラスヴオ大佐が警告を発する中、上空に到達した飛行艇が砲爆撃を開始。旧式空中戦艦と空中大型巡航艦による砲爆撃はバンカー破壊するに十分だった。
次々に潜水艦が破壊されて行く。破壊された潜水艦用防空壕の瓦礫に潰される潜水艦や砲弾の爆発に巻き込まれて撃沈される潜水艦。
「順調、順調!」
「ええ。このまま制圧していきましょう!」
アレステアたちは魔獣猟兵の防衛部隊を排除し、潜水艦用防空壕を制圧していった。
「! この気配は──」
アレステアが瞬時に“月華”を振るって飛来した空間断裂を迎撃。
「やるようになった、というべきか」
「カノンさん……!」
アレステアたちの前に現れたのはカーマーゼンの魔女であるカノンだった。
「アレステア・ブラックドッグ。3分、戦いましょう。その上で私はあなたを交渉に相応しい相手かどうか判断する」
「分かりませんが、受けて立ちますよ!」
「では」
カノンが動いた。
アレステアの周囲から一斉に空間断裂が飛来し、アレステアを切り刻もうとする。
「やられません!」
だが、アレステアはその全てを迎撃。空間断裂を弾いた。
「やはり成長した。面白い」
カノンはそう言うと姿を消す。
「幻術! ですが、もうその手には乗りません!」
アレステアは瞬時に駆けると虚空を切った。
「ほう」
虚空だと思った場所にはカノンが潜んでおり、アレステアからの攻撃を弾いたものの、姿を隠したしたままの攻撃には失敗する。
「どうやって見抜いたの?」
「直感、みたいなものです」
「なるほど。本当に成長している」
カノンはそれから再び空間断裂を叩き込むも有効な攻撃にはならない。全てアレステアが“月華”によって弾いたのである。
「まだやりますか?」
「いいえ。以前と違ってあなたは価値のある人間になった。よって、私はあなたを私たちと交渉する価値のある人間と判断する。一緒に来てもらう」
「何を──」
アレステアがカノンが引き起こした空間転移によってその姿を消した。
「来たか、ゲヘナの眷属」
「セラフィーネさん!」
アレステアが転移したのは魔獣猟兵の中枢たるアイゼンラント城だ。
「やあ。初めまして、ゲヘナの眷属君。アレステア君だっけ?」
「あなたは……」
その他にエリヤたち魔獣猟兵統帥会議のメンバーたちも揃っていた。
「俺はエリヤ。魔獣猟兵元帥。まあ、こう言った方が分かるかな。“竜狩りの獣”」
「“竜狩りの獣”……! 旧神戦争最強の戦士ですか……!」
「かつてはね。今は隠居している身だよ」
アレステアが戦慄するのにエリヤが苦笑した。
「そのガキと本当に交渉するのか?」
「そうだよ。彼は俺たちを殺せる唯一の連合軍側の人間だと言っていい。彼がいなければ連合軍は最悪俺とセラフィーネお婆ちゃんが前線に立つだけで崩壊する」
「ふん。そのガキがな」
城の主であるソフィアはつまらなそうに言う。
「交渉ですか?」
「ああ。我々は最後まで戦うつもりだったが、思ったよりそこまで覚悟ができている奴が少なかった。こちらにも物資や兵員の不足で厭戦感情が出ている」
アレステアが尋ね、セラフィーネが肩をすくめる。
「長期戦になれば連合軍が有利になる。その分析が明確に示されつつあるということさ。俺たちの中にはセラフィーネお婆ちゃんみたいに敗北すらも戦争の結果として受け入れるものたちもいるけど、そうじゃないものもいる」
「だから、講和を?」
「そういうこと」
エリヤも肩をすくめてそう返した。
「それは……いいことかもしれませんが、あなた方が講和を求めてもその条件次第では連合軍の人たちは納得しないかもしれませんよ。だって、あなた方が起こした戦争ではないですか」
「そう、俺たちが始めた戦争だよ。けど、いつかは戦わなければならなかった。魔獣猟兵の魔女、人狼、吸血鬼、ドラゴンたちには居場所がなかったんだから。俺たちは亡霊として扱われた。存在しないものとして」
「存在を示すために戦争を……」
「良くも悪くも誰もが俺たち旧神戦争の亡霊について考えることになっただろ?」
アレステアが呟くのにエリヤがそう言った。
「とはいえ、すぐに講和はできないぞ。我々魔獣猟兵の組織もなかなか複雑でな。統一した意志はなく、それぞれが好き勝手な理由で戦っている。そのためいざ講和しようとしても納得しない連中はいる」
「あなたのように?」
「確かに私は戦争の中では生きられない。だが、戦いとは戦争だけではない。お前という好敵手を私は見つけた。お前と殺し合えるのであれば、戦争はもうやめにしてやる」
「そうですか。それなら僕も受け入れられます」
主戦派の最大派閥だっただろうセラフィーネが和平に合意しつつある。
「しかし、戦いたがっている連中には戦ってもらう。我々は連中の我がままを認めてやるつもりだ。最後まで人間を憎んでいる連中に無理やり平和を押し付けても、後で問題が起きるだけだからな」
「それは確かに。しかし、そうなると魔獣猟兵との戦争はまだ続くのですか?」
アレステアがセラフィーネの言葉に尋ねた。
「それについて君の協力がほしい。魔獣猟兵としては継戦を訴えるものたちに最後の戦いを戦ってもらう。それで彼らが勝てば戦争は続くが、彼らが立ち直れないほど負ければそれで戦争は終わり」
「そのことを帝国と連合軍の上層部に伝えろ。お前にはこれから和平のためのチャンネルになってもらう。何かあればカノンが接触する」
エリヤとセラフィーネがそれぞれそう言った。
「本当に講和するんですよね?」
「お前たちが勝てばな。これから起きる戦いに負ければ講和は遠のく」
「分かりました」
「ではな、ゲヘナの眷属」
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