ドラゴンスレイヤー
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──ドラゴンスレイヤー
アレステアたちは真祖竜ハドリアヌスの前に立ち塞がった。
「ここから先には進ませません!」
アレステアがカラカル装甲兵員輸送車を下車し、“月華”を構えてハドリアヌスの前でそう宣言する。
「ゲヘナの眷属か。お前に恨みはないが、これは戦争だ」
「ええ。これは戦争です」
ハドリアヌスが巨大な剣を構え、アレステアはハドリアヌスと対峙。
「戦うとしよう。獣のように。そして旧神戦争のときのように!」
そうハドリアヌスが雄たけびを上げてアレステアに襲い掛かった。
巨大な剣が振り下ろされ、アレステアに向けて刃が向かう。
「強い……!」
アレステアは瞬時にその攻撃を躱すもすぐさま次の攻撃が続き、アレステアの側から攻撃が行えない。ハドリアヌスはその巨体に似合わず、あまりにも素早く、それでいて攻撃は銃弾法の砲撃並みの威力だ。
一発でも食らえば死ぬ。
「それでも諦めません!」
「それでこそだ。ゲヘナの眷属よ!」
アレステアも伊達に今まで戦ってきたわけではない。
何度も、何度も死んでそれでも戦ってきた。多くの強敵を相手に戦ってきた。アレステアはずっと戦ってきた。
だから、勝てる可能性はあった。
「ゲヘナの眷属。お前は不死身だと聞いている。これまで何度死の味わった?」
「何回もです! 数えていません!」
「そうか。それでも立ち上がったのか。お前もセラフィーネが言うようにまた戦士なのだな。そうでなければ私が戦う意味もないというもの!」
「ええ! 僕は戦士です!」
アレステアはハドリアヌスの一撃を回避すると大きく飛躍し、そこから飛び上がり、ハドリアヌスに向けて“月華”の刃を振り下ろす。
「ぐうっ……!」
「ハドリアヌス大将閣下!」
ハドリアヌスの白い鱗に赤い血が滴り、傷口が生々しく開く。
「退け! 作戦は失敗だ! 撤退しろ!」
「了解!」
ハドリアヌスが指示を叫び、ツインブリッジ・ポケットの解囲を目指していた魔獣猟兵の部隊が撤退を始める。
「後は私ひとりで十分」
「まだ戦うのですか?」
「ああ。戦わなければならないのだ。死なせたものたちのためにも、な!」
ハドリアヌスは剣に向けて口から炎を浴びせると、その剣の刃が燃え上がった。その燃え盛る剣を手にしてハドリアヌスがアレステアに襲い掛かる。
「炎だろうと、鉄だろうと、刃だろうと、もう怖いものはありません!」
アレステアは炎に焼かれながらも突き抜け、ハドリアヌスの胸に“月華”の刃を突き立てた。深々と刃が突き刺さり、ハドリアヌスが血を吐く。
「ここ、までか……」
ハドリアヌスが剣を手放し、地面に倒れる。
そしてそのまま息を引き取った。
「やりました……」
アレステアは勝利した。旧神戦争において神になろうとした真祖竜を相手に勝利したのだ。これまで無敵を誇り、空中艦隊すらも時として屠った旧神戦争の英傑に勝利したのである。
アレステアのこれまでの戦いは無駄ではなかった。
「やったね、アレステア少年! 勝ったよ!」
「ええ。勝ちました。でも、これで本当に勝利なのでしょうか?」
「多分ね。これでソードブレイカー作戦は成功するはず、じゃない?」
アレステアが尋ねるのにシャーロットが肩をすくめる。
その頃、ツインブリッジ・ポケットではついに補給が完全に切れた魔獣猟兵が包囲殲滅されて行き、ツインブリッジ・ポケットは畳まれて行った。
「アイアンサイド上級大将閣下。魔獣猟兵は完全に瓦解しました。全ての装備を放棄して撤退しています。追撃は順調ですが、部分的に航空優勢を失い、それによって対地攻撃を受けています」
「空軍にはしっかりと援護してもらわなければな。空軍に戦力を出し惜しまないように要請しておきたまえ」
「了解」
連合軍アーケミア連合王国派遣総軍司令官のアイアンサイド上級大将が命令を下す。
部分的な航空優勢の喪失というのは魔獣猟兵が誇る空中戦艦ブリューナクが暴れまわった結果である。あの世界最大の空中戦艦に連合軍は今のところ対抗できていない。
「アントニヌス大将閣下。友軍の輸送飛行艇がさらに応援にきました」
「よろしい。装備はいい。人員の撤退を急がせろ。それで、ツインブリッジ・ポケットは? カムロス作戦はどうなった?」
撤退の指揮を執っているのはハドリアヌスから指揮権を委任されたアントニヌスだった。彼は飛行艇や船舶でひとりでも多くの将兵を大陸に逃がそうとしている。
「連絡です。ハドリアヌス大将は戦死。カムロス作戦は中止されたとのこと」
「……そうか。よき竜を失った」
通信兵が悲痛な表情で語るのにアントニヌスは力なく首を横に振った。
「撤退を継続せよ。可能な限り多くの将兵を大陸へ」
「了解です」
魔獣猟兵は撤退戦を行い、僅かな遅滞戦闘が行われるのみ。
しかし、魔獣猟兵は撤退の際に大量の地雷を埋めて撤退しており、それが連合軍の進軍を大きく妨げていた。
「前進だ。前進せよ! 前進し、勝利せよ!」
攻撃の先頭に立つ装甲部隊の指揮官たちが下す命令は前進のみだ。
ただただひたすらに戦車と装甲兵員輸送車が前進する。
「損害に構うな! 今を逃せば次はないぞ!」
「進め、進め! 祖国を蹂躙したものたちに死を!」
砲爆撃で無理やり地雷原を切り開き、装甲部隊が突き進む。
後は魔獣猟兵が撤退のために使用している港に突入すれば魔獣猟兵第2戦域軍は完全に壊滅し、魔獣猟兵は多くの兵士と装備を失う。
そのはずだった。
「上空に空中戦艦! 友軍ではありません!」
「まさか。航空優勢が友軍が奪ったはずでは」
装甲部隊の上空に現れたのは他でもない魔獣猟兵の誇る空中戦艦ブリューナクだ。
「蹂躙しろ。徹底的に」
「了解です、上級大将閣下」
無敗を誇る空中戦艦ブリューナクから指示を出すのはカーマーゼンの魔女にして魔獣猟兵上級大将のセラフィーネである。
「ハドリアヌスは逝った。弔いをしてやらねばな」
寂し気にそう呟いたセラフィーネは引き続き連合軍への阻止攻撃を指示した。
しかし、いくら空中戦艦ブリューナクが強力でも飛行艇1隻では戦局は変わらない。弾薬が尽きれば強力な手法も意味がなくなるのだ。
「我々はこれより港湾施設に突入する!」
そして、連合軍が魔獣猟兵が撤退を試みていた港へと突入したのだった。
その結果、これまで多くの重装備と人員を失った魔獣猟兵はもはやまともに戦えず、連合軍を前に敗北した。それでも魔獣猟兵は最大限の将兵の撤退をある程度終わらせており、壊滅的な損害は避けられた。
それでも無数の魔獣猟兵の将兵が最後まで戦って抵抗し、その結果戦死した。
連合軍が制圧した後に入った従軍記者たちは無数の魔獣猟兵の将兵の死体が転がる港の様子を撮影し、そのことに人々は驚愕したのだった。
だが、これによって民衆に勝利が印象付けられた。
今こそ反撃の始まりなのだと。
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