英傑の戦場

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 ──英傑の戦場



「まもなく友軍と合流です!」


 先行しているシグルドリーヴァ大隊の兵士が報告。


 シグルドリーヴァ大隊は軍用四輪駆動車を改造した車両を使用している。口径12.7ミリの魔道式重機関銃をマウントし、機動性を重視した車両だ。


「誰か!」


「葬送旅団のベンジャミン・ゴードン少佐だ! 第77装甲師団か!?」


「そうです! 応援に来てくれたんですね! 歓迎します!」


 無事第77装甲師団の将兵と合流し、彼らの司令部に向かう。


「第77装甲師団師団長のアリエル・エイタン少将だ。応援に感謝する」


 第77装甲師団はアリエル・エイタン帝国陸軍少将によって指揮されていた。


「我々は現在瓦解した友軍部隊を組み込んで魔獣猟兵の攻勢に対する防衛戦闘を行っている。それについて説明しよう」


 エイタン少将が地図を指さしながら説明を始めた。


「まず車両を失った自動車化擲弾兵や装甲擲弾兵部隊に塹壕を掘らせ、可能な限り強固な陣地を前線に設置している。しかし、これで敵が防げるとは思っていない」


「では、どのように?」


「うむ。敵も戦車の戦い方というものを学んだのだ。浸透戦術のように敵の弱い部位を食い破り、突破口を広げ、後方の司令部や砲兵を叩くという戦術を」


 エイタン少将はそう言いながら設置された陣地の間を縫うように地図の上で指を走らせる。それは陣地は迂回突破されるということを示してた。


「我々は陣地を突破する際に損耗した敵の戦車部隊を叩く。今、我々の第77装甲師団には3つの装甲連隊戦闘団が存在する。1個装甲連隊と1個装甲擲弾兵大隊を基幹として編成される戦闘団だ」


 第77装甲師団は3つの諸兵科連合部隊である戦闘団を形成している。


 これらの戦闘団が突破した敵を叩くのだ。


「その上で君たちに手助けを求めよう。我々の戦闘団のひとつであるルクレール戦闘団が魔獣猟兵の戦車部隊を何度も退けているが、再び交戦する可能性が高い。よってルクレール戦闘団の応援を頼む」


「了解」


 エイタン少将の要請を受けてアレステアたちが第77装甲師団隷下ルクレール戦闘団との合流のために移動する。


「砲声ですね」


「ええ。既に戦闘が始まっているのかもしれません」


 アレステアとレオナルドがそう言葉を交わし、カラカル装甲兵員輸送車で戦場を駆け抜けてルクレール戦闘団の司令部に到着した。


「来たか、葬送旅団! 今まさに我々は戦闘中だ!」


 ルクレール戦闘団はマリー・ルクレール帝国陸軍中佐によって指揮されており、この瞬間にも魔獣猟兵と銃火と砲火を交えているところだ。


「僕たちはどう動けばいいですか!?」


「これから予備の装甲大隊を投入する! それとともに突入してくれ!」


「了解!」


 アレステアたちは早速投入される装甲大隊とともに戦場に向かう。装甲大隊はピューマ中戦車を装備しており、少数のオートバイを装備した偵察部隊も随伴していた。


『戦車前進、戦車前進』


 ルクレール戦闘団隷下の装甲大隊とともにアレステアたち葬送旅団が戦場を進む。


「ルクレール戦闘団本部より連絡。会敵している魔獣猟兵は装甲化されており、規模は1個師団以上とのこと」


「不味いな。こちらよりも強力だ」


「ええ。また真祖竜ハドリアヌスを確認していると」


「そうか。では、任務を果たそう」


 シーラスヴオ大佐が通信兵の言葉に頷き、部隊を前進させた。


「シーラスヴオ大佐殿。我々はこの丘の西側から回り込んで敵の側面を突く。そちらにも協力してほしい」


「分かった。丘は押さえているのだな?」


「ええ。こちらの砲兵の前線観測班が陣取っている」


「ならば、やろう」


 装甲大隊の大隊長から言われ、シーラスヴオ大佐が指示を下す。


 ピューマ中戦車とカラカル装甲兵員輸送車が前進し、戦場に突入。


「接敵! 前方に敵戦車多数!」


「射撃を許可する! 撃て!」


 魔獣猟兵のルーン中戦車が前方に出現し、アルデルト中将が命令を下す。


 アルデルト中将の戦車小隊とルクレール戦闘団の装甲大隊が一斉に砲撃し、ルーン中戦車が被弾。一部は装甲を貫通されて爆発炎上した。


「よし。上手くいったぞ。このまま攻撃を継続し、敵の攻勢を頓挫させる!」


 葬送旅団は魔獣猟兵の側面を突いて攻勢をかける。


「真祖竜は見えますか?」


「うーん。見えないね。どこにいるんだろー?」


 アレステアたちは作戦目標である真祖竜ハドリアヌスを探していた。カラカル装甲兵員輸送車から周囲を見渡し、ここにいることが報告された真祖竜を探す。


「いました! 上空です!」


 レオナルドが叫び、同時に地上に激しい地響きが起きた。


「あれが真祖竜ハドリアヌス……!」


 白い鱗をした巨大なドラゴン──真祖竜ハドリアヌスが地上に降り立ち、そして周囲に鋭い視線を向ける。その手には巨大な剣だ。


「戦え! 友軍を救援するのだ! 我に続け!」


「ハドリアヌス大将閣下に続け!」


 ハドリアヌスは部下たちを鼓舞し、魔獣猟兵の兵士たちが雄たけびを上げた。


「やりましょう、シャーロットお姉さん、レオナルドさん!」


「オーケー!」


 アレステアたちも掛け声を上げてハドリアヌスに向けて突撃。


 味方の戦車も敵の戦車も入り乱れた戦場でアレステアたちが任務を果たそうとする。そこでアレステアたちがカラカル装甲兵員輸送車で進むのに魔獣猟兵の戦車がそれに向けて砲撃を行った。


「不味い。砲撃されてる!」


「支援を要請しましょう」


 シャーロットが叫び、レオナルドが無線機を手にする。


「シーラスヴオ大佐。近接航空支援は要請できますか?」


『可能です、レオナルド卿。現在上空に友軍飛行艇が複数待機しています』


「では、緑のスモークで目標を指示します」


『了解』


 レオナルドはシーラスヴオ大佐にそう連絡した後にスモークグレネードを取り出し、それを思いっきり魔獣猟兵の戦車部隊に向けて投擲。


『アンスヴァルトより地上部隊。近接航空支援開始。デンジャークロース!』


 アンスヴァルト及び友軍飛行艇から無数の砲撃が地上に叩き込まれる。


 いくら装甲化された戦車であろうと飛行艇の砲爆撃を受けて無事でいられるはずもなく。空中艦隊による近接航空支援で次々に戦車が撃破され、爆発して炎上する。


「いいぞー! 突っ込め!」


「ハドリアヌスを倒さないと……!」


 シャーロットは撃ち漏らした戦車に口径25ミリ大口径ライフル弾を叩き込み、可能な限り戦車を無力化していった。


 アレステアは“月華”を握り、連合軍を相手に巨大な剣を振るってピューマ中戦車やカラカル装甲兵員輸送車を撃破しているハドリアヌスを睨む。


「戦闘に備えてください! いよいよですよ!」


「分かりました!」


 そして、アレステアたちがハドリアヌスの前に立ち塞がるように展開した。


「私の前に立ち塞がるか……」


 ハドリアヌスはそう言ってアレステアたちを見る。


……………………

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