カムロス作戦
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──カムロス作戦
ツインブリッジ・ポケットにて包囲されている友軍救出のために魔獣猟兵は攻勢を決定した。限定的なれど一時的に連合軍を退けるものだ。
作戦名はカムロス作戦。
「作戦の指揮は私が取る」
そう宣言するのは第2戦域軍司令官のハドリアヌスである。
「しかし、あなたは第2戦域軍司令官です。あなたがいなければ誰が第2戦域軍の指揮を行うというのですか?」
「指揮権はアントニヌス中将に委任する。彼を野戦任官で大将とし、以後第2戦域軍司令官の権限を与える」
「閣下。お言葉ですが、あなたがカムロス作戦の指揮を執る必要はない。あなたは撤退作戦に専念すべきだ」
ハドリアヌスにそう進言するのはグスタフ・ラガス中将だ。
「誰かがこの敗北の責任を取らねばならぬのだ。それに私も長く生き過ぎた。そろそろ死に場所を定めたい」
「そうであるならば自由にするといい。後のことは我々に任せ、好きに暴れてこい」
「ああ。アントニヌスを支えてやってくれ、ネイサン。“竜狩りの獣”の直系よ」
ネイサン・マクスウェル大将がそう言い、ハドリアヌスが頷く。
「あたしはどうするよ?」
「ヴァレンティーナ。お前はセラフィーネたちと合流しろ。カーマーゼンの魔女はまだ死ぬべきではない」
「ふん。まあ、そういうならそうさせてもらうよ。大勢道連れにしてやれよ、ハドリアヌス。あんたは真祖竜なんだ。誇り高きものたち」
「そうだな」
カーマーゼンの魔女のひとりヴァレンティーナがにやりと笑って言うのにハドリアヌスも僅かに笑って返した。
「では、行くぞ。我々がただの敗残兵でないことを教えてやる」
そして、カムロス作戦が発動された。
撤退を続けていたはずの魔獣猟兵が突如として攻勢に出て、連合軍に動揺が走る。
「連合軍統合参謀本部より出撃命令です」
臨時に建設された野戦空軍基地に展開しているアンスヴァルトの艦内にてシーラスヴオ大佐がそう告げる。
「現在連合軍が包囲中のツインブリッジ・ポケットにて解囲のために魔獣猟兵が攻勢に出ました。魔獣猟兵はありったけの部隊を投入しているとの情報があり、これを防ぐ必要があります」
魔獣猟兵は敗走の際に多くの重装備を失ったが、今回は残ったそれを掻き集めて投入していた。戦車や装甲兵員輸送車、そして火砲が一定数集まっている。
「さらに真祖竜ハドリアヌスが前線に出て攻撃を実行しており、これが最大の脅威となっているようです。我々にはこのハドリアヌスの撃破が求められています」
「真祖竜……!」
アレステアはルナから聞かされていた。真祖竜は神にすらなった種族だと。
「連合軍の求めに応じて我々はツインブリッジ・ポケットに向かいます。魔獣猟兵による反撃の阻止と同時に真祖竜ハドリアヌスを撃破します。困難な任務ですが、これさえ果たせばグレート・アーケミア島の解放が達成できます」
「ええ。やりましょう!」
そして、アレステアたちが出撃。
「現在航空優勢は揺らいでいます。魔獣猟兵の新型空中戦艦が猛威を振るったようでして。連合軍の空中艦隊は再編成中です」
「分かった。あるだけのものでやるぞ」
「了解です、艦長」
テクトマイヤー大佐はアンスヴァルトを慎重に作戦空域に進める。
連合軍は魔獣猟兵の空中戦艦ブリューナクを旗艦とする空中艦隊との戦闘で打撃を受けており、現在航空優勢はどちらのものとも言えなかった。
アンスヴァルトはそのような空を2隻の空中駆逐艦とともに飛行。
「しかし、真祖竜というのは倒せるのでしょうか?」
アレステアはアンスヴァルト艦内でそう疑問を呈する。
「まあ、生きている以上死ぬとは思うけどどこまでやったら死ぬのかは」
「そうですね。真祖竜が絶対に倒せないことはないでしょうが、こちらも少なくない犠牲を払うことになるでしょう」
「ヤな感じだね」
レオナルドの言葉にシャーロットがそう愚痴った。
「僕はまだ“竜狩りの獣”の直系の人狼すら倒せていません。それなのに真祖竜という神になろうとしたドラゴンたちを倒せるのか……」
「君がひとりで戦うわけじゃないよ、アレステア少年。私たちのこともカウントしておいてね。アンスヴァルトだって支援してくれる」
「ええ。そうですね。皆で力を合わせれば、きっと!」
「そうそう。そうでなくっちゃ」
そして、アレステアたちはついにツインブリッジ・ポケットのある作戦空域に進出した。現在魔獣猟兵側の飛行艇は1隻も展開していない。
「艦長。友軍空中大型巡洋艦ユリシーズより作戦を支援するとの通達です」
「よろしい。支援に感謝すると返信せよ。一時的にせよ航空優勢は我々の側のようだ。降下艇発艦準備に入れ!」
「了解です!」
アンスヴァルトから降下艇が発艦していく。
降下艇はツインブリッジ・ポケットの包囲を形成し、そして魔獣猟兵に攻撃を受けている場所の近くへと降下する。
「降りろ、降りろ! 急げ!」
降下艇からカラカル装甲兵員輸送車とともにケルベロス装甲擲弾兵大隊が降り、シグルドリーヴァ大隊も速やかに降下地点を確保。
「行くぞ! 出撃だ!」
「了解、中将閣下!」
アルデルト中将の戦車部隊も展開した。
「まずは友軍と合流します。この包囲を形成している第9軍との合流です」
「了解!」
アレステアたちはシーラスヴオ大佐に言われてツインブリッジ・ポケットを形成している連合軍アーケミア連合王国派遣総軍第9軍司令部を目指す。
「よく来てくれた、葬送旅団。我々は今や危機的な状況にある」
農家の地下室に設置された司令部でアレステアたちは第9軍司令官でありアーケミア連合王国陸軍大将セオドア・マウントバッテンに迎えられた。
司令部の付近には時々砲弾が着弾してる。
「現在、我々が構築したツインブリッジ・ポケットの解囲を目指して魔獣猟兵が大攻勢に出ている。その攻撃たるや捨て身のそれに近い。敵味方ともに被害甚大だが、攻撃はまだ止まっていない」
マウントバッテン大将が地図を指さしながら説明する。
「もうすぐ包囲されている魔獣猟兵部隊は殲滅される。既に連中の補給が尽きて14日以上経っているからな。だからこそ、解囲を成功させるわけにはいかないのだ」
「真祖竜がいるという話ですが」
「ああ。真祖竜がいる。間違いない。強力な旧神戦争の化け物だ」
アレステアが尋ねるとマウントバッテン大将が頷いて返した。
「敵の解囲を粉砕し、そしてこのままソードブレイカー作戦を達成する。君たちにはこの地点に進出してもらい、友軍の第99装甲師団とともに魔獣猟兵の攻撃を退けてもらいたい。よろしいか?」
「了解しました、大将閣下」
マウントバッテン大将の命令にシーラスヴオ大佐が了解する。
「それでは出撃を」
アレステアたちは第9軍隷下の戦車師団であるエスタシア帝国陸軍第77装甲師団との合流を目指した。
遠くから激しい砲声が響く。
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