グレート・アーケミア島解放

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 ──グレート・アーケミア島解放



 連合軍の大規模反転攻勢であるソードブレイカー作戦は順調に進んでいた。


 連合軍統合参謀本部の作戦参謀エーデルスハイム中将が立案した装甲部隊による機動戦略はこれまでの戦闘を経験してきた前線の将兵によって巧みに運用され、火力と数において劣る魔獣猟兵を追い詰めていった。


「やむを得ん。グレート・アーケミア島からの撤退を決定する」


 魔獣猟兵第2戦域軍司令官のハドリアヌスが司令部でそう宣言した。


「しかし、既に航空優勢は完全に喪失している。どうするのだ、ハドリアヌス?」


「分かっている、アントニヌス。よって何としてもプリズンフォレストまで部隊を撤退させ、夜間に飛行艇や船舶を使ってひとりでも多くの将兵を脱出させるのだ」


 アントニヌス降下軍集団司令官である真祖竜アントニヌス魔獣猟兵中将が指摘するのにハドリアヌスがそう返す。


「それが第2戦域軍司令官の決断ならば受け入れよう。撤退を急がせる。もっとも既に多くの部隊が連合軍の包囲下にあり、降伏を決定した部隊もいるが」


「それも仕方ない。降伏するものを批判はしない。そもそも我々が戦っている理由はそのものそれぞれなのだからな」


 マクスウェル軍集団司令官のネイサンの言葉にハドリアヌスがそう返した。


「そうだな。戦って死にたいものいるのが事実だ。死に場所を求めて戦いに参加したものたちも少なくない」


「かならずしも誰もが勝利を求めているわけではない、か。それでも勝利を諦めるのは司令官として会ってはならぬことであろう、グスタフ」


「そうですな、大将閣下」


 ラガス軍集団として装甲部隊を有するグスタフがため息交じりに告げた。


「では、撤退を開始せよ。グレート・アーケミア島を放棄し、大陸にいる第3戦域軍と合流する。撤退のための港と飛行場は追って指示する」


「了解」


 そして、魔獣猟兵第2戦域軍が大規模な撤退を開始。


「敵は撤退を始めている」


 連合軍統合参謀本部は魔獣猟兵第2戦域軍の撤退を把握した。


「追撃を。今を逃す手はありません。ここで逃せば敵の残存戦力は大陸に渡り、大陸において我々の敵となるでしょう」


 作戦参謀のエーデルスハイム中将が進言する。


「同意する。追撃を指示しよう。全軍に進軍を急ぐよう指示を出す。追撃し、少しでも多くの敵を撃破するのだ。空軍にも全力で地上支援を」


「了解です、元帥閣下」


 シコルスキ元帥が指示を出し、各参謀と指揮官がその命令を受けた。


 連合軍は進軍を急ぎ、撤退する魔獣猟兵を追撃。


 皮肉なことにこれまで連合軍を追撃し続けていた魔獣猟兵の立場は一転し、今度が彼らが追われる側となってしまった。


 重装備が放棄されて撤退する部隊は戦闘力を失っていき、そこに連合軍が猛攻撃を仕掛ける。砲撃が撤退する魔獣猟兵のトラックを破壊し、歩兵を吹き飛ばす。


「戦車前進、戦車前進」


 連合軍の進軍速度は開戦初期とは明確に異なる。


 装甲化され、機動力の高い戦車及び機械化部隊はどこまでも速く前進し、事前に入念に計画された兵站計画は進軍速度が増しても破綻しなかった。


 連合軍は緒戦の敗北から深く学んだのだ。将軍たちも、将校たちも、徴集兵たちも。


「敵の地上部隊への阻止攻撃要請です」


「了解」


 さらに連合軍の空軍が航空優勢を失った魔獣猟兵に猛爆撃を浴びせた。


 空中戦艦から空中駆逐艦まであらゆる飛行艇が砲爆撃を実施。


 このまま進めば絶対に勝利できると彼らは考えていた。


 だが、戦争とは得てして予期せぬことがおきるものだ。


「レーダーピケット艦より通達! 大規模な敵の空中艦隊が出現!」


「来たか」


 魔獣猟兵の空中艦隊が友軍を援護するために出現した。


 その空中艦隊の中には──。


「敵艦発砲をレーダーが探知! 距離4万メートル以上!」


「なんだと!?」


 魔獣猟兵の空中戦艦があり得ないような距離で砲撃を実施してきたのをレーダーが探知した。連合軍のあらゆる空中戦艦の最大射程を上回っている。


「空中巡航戦艦ライオンが被弾! つ、墜落します!」


「まさか、そんな馬鹿な……」


 魔獣猟兵の砲撃は射程ばかりではなく威力も強力であった。


 アーケミア連合王国空軍の新型空中巡航戦艦であるライオンが一撃で落ちた。砲塔の装甲が貫かれて弾薬が誘爆し、炎に包まれて落ちていく。


「敵艦さらに発砲! いかがしますか!?」


「空中空母に艦載機を発艦させろ! 砲撃を行っている敵艦を特定するんだ!」


「了解!」


 後方から空中空母が艦載機を発艦させ艦載戦闘機と簡裁爆撃機が一斉に魔獣猟兵の空中艦隊に向けて飛行。


「目標を視認! デカいぞ!」


「何てデカさだ……」


 連合軍の艦載機のパイロットたちの前に現れたのは巨大な空中戦艦だ。


 その名はブリューナク。


 50口径51センチ3連装砲3基を装備する世界最大の空中戦艦だ。


「上級大将閣下。連合軍の艦載機を確認しました」


「よろしい。ネルファに援護させろ。このまま連合軍の空中艦隊を叩きのめすぞ」


「了解!」


 その空中戦艦ブリューナクの戦闘指揮所にいたのは他でもない魔獣猟兵第3戦域軍司令官のセラフィーネだった。


「我々の戦友を助けなければな。まだまだ戦争は続けたいのだから」


 セラフィーネはそう言ってにやりと笑い、空中戦艦ブリューナクは砲撃を続ける。


 連合軍の空中艦隊はアウトレンジで次々に撃墜され、生き残りの艦艇はせめて一矢報いようと空中戦艦ブリューナクを旗艦とする魔獣猟兵の空中艦隊に向けて突撃。


 激しい艦隊決戦が行われ、上空で炎が舞う。


 魔獣猟兵第3戦域軍による救援が行われる中、魔獣猟兵第2戦域軍も撤退を急いでいた。しかし、第3戦域軍の支援があっても地上支援ができるほどではなく、連合軍は容赦なく第2戦域軍を猛追していくる。


「空軍の航空支援がなくなったが、前進は可能か?」


「可能です。砲兵は常に我々を支援できる位置にいます」


「よろしい。魔獣猟兵どもを狩るぞ」


 連合軍アーケミア連合王国派遣総軍は装甲部隊を先頭に魔獣猟兵の退路を断ち、部隊を包囲し、殲滅していった。


 その中で今まさに最大の包囲網が展開されようとしている。


 それはプリズンフォレストに続く橋のある街ツインブリッジを中心にしたツインブリッジ・ポケットという巨大な包囲だ。


 連合軍の装甲部隊は完全に包囲を行おうとし、魔獣猟兵は脱出を試みている。


 しかし、砲兵や飛行艇の支援もなく、武器弾薬も不足している魔獣猟兵が十二分の装甲戦力を有し、大規模な砲兵に支援されている連合軍に勝てるはずもない。


「我が軍は既に魔獣猟兵を少なくとも11個師団、ツインブリッジ・ポケットにて包囲しようとしています。敵は継戦能力を喪失しており、小規模な抵抗があるのみです」


「ふむ。我が方の兵站は問題ないのか?」


「ありません。武器弾薬、燃料ともに十分供給されています」


「では、このまま包囲殲滅だ」


 連合軍が魔獣猟兵の撤退を試みる部隊を包囲する中、魔獣猟兵は包囲された友軍の救出に向けて動いていた。


 すなわちツインブリッジ・ポケット解囲のための攻撃だ。


……………………

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