肉の塊
……………………
──肉の塊
ルイーザ・メイソンと化け物たち。
「第12自由ユーフラシア共和国歩兵旅団が行方不明になっていたと聞いていたが……」
「クソ。この狂人め!」
ルイーザ・メイソンが従える化け物たちは人間のパーツを切り貼りして作った異形の存在であった。無数のそれらがアレステアたちの方に火薬式銃や刃物などの武器を向けて進んでいくる。
「あなたたちも私が生まれ変わらせてあげる」
ルイーザ・メイソンは静かにそう言うと化け物たちが突撃してきた。
「制圧射撃だ! 敵の突撃を阻止しろ!」
ケルベロス装甲擲弾兵大隊とシグルドリーヴァ大隊が魔道式機関銃で弾幕を展開して敵の突撃を阻止しようとする。しかし、化け物たちはそれら攻撃をものともせず前進し続けてくる。
「これらはデュラハンです! 変則的ですが間違いありません!」
「クソ! 死霊術師だ! ルイーザ・メイソンを狙え!」
アレステアが化け物たちの正体を言い当て、ゴードン少佐が指示を出す。
「やるよー!」
そこでシャーロットが“グレンデルII”の銃口をルイーザ・メイソンの頭部に向けて引き金を引いた。口径25ミリ高性能ライフル弾が飛翔し、ルイーザ・メイソンの頭を弾き飛ばす。
「やったか!」
「いや。まだ化け物どもが動いている!」
そう、ルイーザ・メイソンの頭部は吹き飛ばされたはずだが、彼女が使役していた化け物たちは未だに蠢き続けていた。
「まさか死んでない……!?」
アレステアがルイーザ・メイソンの方を見ると頭が吹き飛ばされた彼女はまだ立っており、その首の断面図が蠢き、そのまま頭部が再生された。
「あれは一体!?」
「リッチーですね。不老不死の死霊術師。死霊術を極めたものが至ると言われているものです。殺すことは容易ではありません」
「どうすれば?」
「今のところリッチーが倒されたという話はないのです」
「不味いですね」
レオナルドとアレステアがそれぞれそう語る。
「なら、雑魚を蹴散らすだけだ! 使えるものは全て使え!」
「まるで効果がない!」
ケルベロス装甲擲弾兵大隊の将兵が猛烈な射撃を浴びせるが、化け物たちはどんどん押し寄せてきてアレステアたちは後退を強いられる。
「少佐殿! 空軍の近接航空支援が受けられます!」
「分かった! 全員下がれ、下がれ! 空軍に爆撃させる!」
ゴードン少佐が指示を下し、アレステアたちが敵を食い止めながら下がった。
「こちらカウフマン・ゼロ・ワン! 近接航空支援を要請!」
『了解。赤いスモークで目標を指示せよ。いつでも航空支援は可能』
「目標を指示する!」
上空にいるアンスヴァルトと空中駆逐艦にシグルドリーヴァ大隊の兵士たちが爆撃目標を指示するために赤いスモークグレネードを投擲。
もうもうと赤いスモークが立ち上るのが上空からも見えた。
『近接航空支援を開始。デンジャークロース。警戒せよ!』
そして空中駆逐艦の口径127ミリ連装両用砲がアッシュグレイブ要塞に向けて砲撃を開始。さらにアンスヴァルトの口径127ミリ連想両用砲と口径40ミリ高射機関砲も砲弾を叩き込み始める。
地上に破壊の嵐が吹き荒れ、ルイーザ・メイソンの使役する化け物たちもバラバラにされる。激しい爆発が何度も何度も繰り返し生じては化け物が吹き飛ぶ。「
「あ……」
アレステアはそこで見た。
化け物を構成している第12自由ユーフラシア共和国歩兵旅団の少年兵のあどけない顔が苦痛の表情を浮かべ、涙を流しているのを。
「死者をこんな風に扱うなんて……!」
アレステアが唇を噛み締めて唸る。
『近接航空支援を終了する。再び要請があれば実施可能だ』
そして砲撃が止まった。
「よし。化け物どもは仕留めた。後は死霊術師だ」
「相手は不死身だよ」
「じゃあ、死にたくなるほど殺してやるさ!」
「オーケー。やろう、少佐」
ゴードン少佐が指示を下し、シャーロットが“グレンデルII”を構える。
「何でこんなことをしたんですか、ルイーザ・メイソンさん! 遺体をばらばらにしてこんなおぞましい姿にするなんて!」
アレステアがルイーザ・メイソンに向けて“月華”を向けて叫ぶ。
「死者に何の気を使う必要があるの? それらはただの肉の塊に過ぎない。私たちが食事で食べる家畜の肉と同じ。人体を構成する物質は全て化学式で示せる。それだけで神秘などない。ただの肉の塊」
「神秘がなくても尊厳はあります!」
ルイーザ・メイソンが告げるのにアレステアが彼女に“月華”で切りかかる。
「魔獣猟兵と組んでよかったのは彼らの魔術が会得できたこと」
ルイーザ・メイソンがそう言うと空間断裂が生じ、アレステアが引き裂かれた。
「空間操作!? まさかカーマーゼンの魔女から……」
「死霊術師とて魔術師のひとつ。これぐらいはできる」
レオナルドが呻きルイーザ・メイソンが攻撃を繰り出す。
「くたばれー!」
「撃て! 鉛玉を叩き込め!」
シャーロットとシグルドリーヴァ大隊の兵士たちがルイーザ・メイソンに向けて銃弾と爆薬を大量に叩き込む。
「そのような手段でどうにかなるほど旧神戦争で使われた魔術は脆弱ではない」
「防がれた! だけど、まだまだ!」
空間操作で攻撃を凌ぐルイーザ・メイソンに向けてシャーロットたちが攻撃を継続。猛烈な銃火を浴びせかける。
「僕もやります!」
アレステアも前に出てルイーザ・メイソンへの攻撃を試みた。
「銃弾より剣が意味を持つことはない。そんなことも分からないのかしら?」
「それは違うということを証明してみせます!」
ルイーザ・メイソンはアレステアに向けて空間断裂を放つが、アレステアは“月華”でそれを弾き、回避し、ルイーザ・メイソンに肉薄。
彼女に向けて斬撃を叩き込んだ。
「これは……」
ルイーザ・メイソンの右腕が切り落とされるが、その傷が回復することはない。
「なるほど、魔剣か。ゲヘナの眷属であることを考えれば不死者殺しの手段を持っていることには何の疑問もない。最大の脅威はあなただった」
「このまま叩きます!」
アレステアはルイーザ・メイソンを追撃しようとするがルイーザ・メイソンは多数の空間断裂を放ってアレステアの接近を妨害し、距離を取る。
「アレステア卿! 離れろ! 空軍が再度爆撃する!」
「構いません! 僕ごとやってください! じゃないと逃げられます!」
「クソ! 分かった! 幸運を祈る!」
ゴードン少佐は再び空軍に爆撃を要請。
赤いスモークが展開され、空軍のアンスヴァルトと空中駆逐艦が狙いを定める。
アレステアとルイーザ・メイソンに向けて。
『砲爆撃を開始する。デンジャークロース。再度警戒せよ!』
「来るぞ! 爆撃だ!」
そして、再び砲弾が降り注いだ。
……………………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます