イーグルロック要塞急襲

……………………


 ──イーグルロック要塞急襲



 アラン・ハルゼイの暗殺を目指した作戦が開始された。


『艦長より全乗員へ。本艦は離陸する』


 アンスヴァルトがアラン・ハルゼイがいるイーグルロック要塞に近い空軍基地から離陸し、アーケミア連合王国空軍特殊降下連隊を乗せた輸送飛行艇と空中で合流。


「まずシグルドリーヴァ大隊が先行して降下。それからアレステア卿、シャーロット卿、レオナルド卿、そしてケルベロス装甲擲弾兵大隊から1個小隊が降下します」


「了解」


 作戦においては精鋭特殊作戦部隊である特殊降下連隊が最初に降下して着陸地点を確保。それからシグルドリーヴァ大隊が降下して先行して偵察を実施し、それらが終わったのちにアレステアたちが降下。


『特殊降下連隊降下開始』


 特殊作戦仕様の輸送飛行艇が低空飛行で特殊降下連隊を降下艇によって送り出し、同連隊が降下地点の確保を予定通りに実施した。


 陣地を作り、狙撃手と機関銃陣地、そして地雷などが設置される。「


『降下艇発艦!』


 さらにアンスヴァルトからシグルドリーヴァ大隊を乗せた降下艇が発艦し、地上に降下すると特殊降下連隊と合流したのちにイーグルロック要塞に向けて進む。


「全部隊、配置につきました」


「降下艇、再度発艦!」


 それからアレステアたちが降下した。


「葬送旅団か。作戦をともに行えて嬉しい」


「こちらもです」


 降下地点を守備している特殊降下連隊の将校がアレステアたちを暗闇の中で出迎えた。暗闇の中で目立たないようにドーランを顔に塗った兵士たちが周囲を警戒している。


「シグルドリーヴァ大隊からは作戦は実行可能との報告を受けている。向かってくれ」


「了解」


 アレステアたちは先行したシグルドリーヴァ大隊を追って進む。


 アレステアたちがシグルドリーヴァ大隊が待機している地点に近づくとシグルドリーヴァ大隊の兵士がライトを振って合図した。


「来たか。いよいよ実行だぞ」


「ええ。ゴードン少佐さん。状況は事前の情報と変わりなく、ですか?」


「ああ。ほぼ情報通りだ。こちらは既に狙撃手を配置し、常に情報を集めている。アリーチェを含めて優秀な狙撃手を兼ねた斥候が多くいるからな」


「それは心強いですね」


 ゴードン少佐が説明するのにアレステアが頷く。


「侵入経路も予定通りにやろう。城の見取り図はアーケミア連合王国から提供されている。防御が手薄なのは南の城壁だ。そこから侵入する」


「分かりました。やりましょう」


「行くぞ」


 アレステアたちはいよいよイーグルロック要塞へと浸入開始。


 事前の情報で穴があるということが分かっている南の城壁からアレステアたちは要塞内に侵入した。


 シグルドリーヴァ大隊の高度に訓練された兵士たちがブービートラップや待ち伏せに警戒しながら経路を確保する。


「アレステア少年。死霊術師の気配はある?」


「あります、間違いなくここの死霊術師がいます。ですが……」


「どした?」


 アレステアが言葉を濁すのにシャーロットがそう尋ねる。


「また魔獣猟兵のカーマーゼンの魔女のような人たちや“竜狩りの獣”の直系のような人たちが出てきたら勝てるのだろうかと思って」


「それは確かに心配ではあるね。けど、そうなったときはそうなったときだよ。無理をする必要はないんだからさ」


「分かりました」


 そう言葉では言ってもアレステアは自分が彼らに勝利しなければと思っていた。


「アラン・ハルゼイは見つかったか?」


「まだです。それらしき人物は未だ見つからず」


「クソ。奴はどこだ?」


 ゴードン少佐は要塞にある部屋を全て調べていたが、目標のアラン・ハルゼイは未だに見つかっていない。


「引き続き捜索を継続」


「ゴードン少佐さん。もしかしたら死霊術師のいる場所が分かるかもしれません。何名か一緒に来ていただけますか?」


「分かった。そちらを頼らせてもらう」


 アレステアの死霊術師を察知する能力を使ってアレステアたちはアラン・ハルゼイを捜索する。イーグルロック要塞の中を駆け巡りながら、敵に気づかれないように。


「この先です」


「待ち伏せなどに警戒していきましょう」


 アレステアの指示にシグルドリーヴァ大隊から派遣されてきた兵士たちが進路を確保する。トラップと待ち伏せに警戒しながら、シグルドリーヴァ大隊の精鋭たちがアレステアが探知した目的地までの道を確保した。


「突入準備」


「突入準備。3カウント!」


 3秒のカウントののちブリーチングチャージが扉を吹き飛ばし、同時にスタングレネードが室内に放り込まれる。


 強力な音と閃光が瞬いたのちにアレステアたちが突入。


「いました! アラン・ハルゼイです!」


 アレステアたちは室内にアラン・ハルゼイを確認。


 しかし、その周囲には屍食鬼とデュラハンがいた。


「なるほど。また私を暗殺するために派遣されたか、ゲヘナの眷属」


 アラン・ハルゼイは達観した様子でアレステアたちを迎えた。


「アラン・ハルゼイさん。降伏してください。もう逃げられませんよ」


「そうだな。今回はカーマーゼンの魔女が助けてくれるわけでもない。だが、今ここで降伏するわけにはいかないのだ。私が犠牲にした大勢のもののためにも」


「それは犠牲を増やすだけですよ!」


「お互いに信念のために戦っているんだ。犠牲は覚悟の上だろう」


 アレステアが否定しようとするのにアラン・ハルゼイはそう言う。


「しかし、私も信念が揺らいでいるのは事実だ。都市を砲撃し、意図的に民間人を殺害した。いや、虐殺した。これが正しいのかどうか。私には分からなくなってしまった」


 アラン・ハルゼイはそう呟くように言った。


「目的のためならば手段は選ばない。そのつもりで戦ってきた。だが、手段が明確に目標を否定したとき、それは本当に正しいと言えるのだろうか? 君はどう思う、ゲヘナの眷属である少年よ」


「僕たちも犠牲を払いながら戦ってきました。ですが、手段が目的を否定したことはありません。死者の安息のために僕たちは戦ってきた。死者の方々には常に安らぎを与えてきました」


「そうか。では、私なりに責任を取るべきかもしれないな」


 アラン・ハルゼイはアレステアの言葉に頷くとアレステアの方に進んできた。


 それから無造作に腰に下げていた口径9ミリ魔道式自動拳銃を抜く。


「降伏はできない。それは大勢の仲間を裏切ることになる。だが、戦死ならば許されるだろう。私を斬ってくれ」


「そんな……! 無抵抗の人を斬れるわけないじゃないですか!」


「では、抵抗しよう。君を撃つ」


 アレステアが叫ぶのにアラン・ハルゼイは魔道式自動拳銃を構えた。


「降伏してもあなたは悪くありません! むしろあなたは死ぬことで逃げようとしているのではないですか? 死ねば責任から逃れられるのだと!」


「……そうかもしれない。死は結局は逃げなのだろうか……」


 アレステアは魔道式自動拳銃を構えたアラン・ハルゼイをじっと見つめ。


……………………

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