追撃戦闘

……………………


 ──追撃戦闘



 魔獣猟兵第2戦域軍マクスウェル軍集団はラストハーバーからの敗走を強いられた。


 これまで勝利してきた魔獣猟兵は大敗を喫した。


「敗北だ。残念だが認めなければならない」


 第2戦域軍司令官ハドリアヌス大将はそう告げた。


「申し訳ない。私の判断ミスだ」


「マクスウェル大将。お前の責任を問うつもりはない。攻撃を急かしたのは私だし、航空優勢の確保を約束していながら果たせなかったのもまた私だ」


 ネイサンの謝罪にハドリアヌスがそう返す。


「これからの主導権は敵が握るだろう。我々はその挑戦に応じなければならない。しかし、多くの将兵と装備を失った今ではそれも難しい」


「私の方はまだ損害が少ない。こちらから攻撃を仕掛けて猶予を」


 そうハドリアヌスに提言するのはラガス軍集団を指揮するグスタフだ。


「いや。攻撃は今は行わない。アーバレスト作戦は失敗だ。戦線を立て直すために一時全面的な撤退を実施する。マクスウェル軍集団の敗北の原因は後方連絡線が伸びすぎたことも原因であるのだ」


 マクスウェル軍集団の敗北の要因のひとつには伸びすぎた後方連絡線というものがある。後方連絡線が伸びすぎ、兵站に支障を受けた結果、連合軍の反転攻勢によって撃破されたのだ。


「まずは各部隊の十分な物資が与えられるようにせねばならない。スピアヘッド・オペレーションズにも協力してもらうつもりだ。そうだな、アラン・ハルゼイ?」


「喜んで協力させてもらう」


 第2戦域軍が軍議を開いているホテルにいたのはスピアヘッド・オペレーションズのアラン・ハルゼイ元アーケミア連合王国陸軍中佐だ。


 彼は帝国での戦闘の後に祖国に戻っていた。


「スピアヘッド・オペレーションズには屍食鬼による攻撃で時間を稼いでもらいたい。殿は屍食鬼に任せる。火砲による支援がなくとも屍食鬼ならば戦えるだろう」


「ああ。屍食鬼には圧倒的な数という利点がある。それで食い止めて見せよう」


「その間にこちらは可能な限り重装備を移動させる。重装備の喪失は今後の継戦能力に響く。今回の戦いで飛行艇猛多く失ってしまったからな」


 第3戦域軍から援軍として派遣された飛行艇を含め、多くの飛行艇を今回の戦いで魔獣猟兵は喪失した。恐らくこれからは航空優勢を十分に保てないだろう。


「では、私は遅滞戦闘を実施する。可能な限り」


「任せたぞ。では、各自義務を果たせ。まだ負けるわけにはいかん」



 ──ここで場面が変わる──。



 戦略機動してラストハーバーを奪還した部隊は守備隊を指揮下に収め、新たにウィスキー軍集団と呼称された。


「我々はこれより魔獣猟兵を追撃する」


 ウィスキー軍集団司令官ワーム上級大将は宣言。


「連合軍統合参謀本部は本格的な反転攻勢について考え始めている。そのためには敵戦力の漸減が必要である。そのためにも今回のような追撃戦が必要なのだ」


 連合軍統合参謀本部はアーケミア連合王国における反転攻勢を計画している。


「敵は撤退を続けているとの報告を受けている。間違いないか?」


「確かです。魔獣猟兵は大規模な撤退を行っています。かなりの重装備を放棄したことも確認されていますが、屍食鬼が殿で留まっているようです。それについては情報部から報告があります」


 ワーム上級大将の言葉に情報参謀がそう返し、ひとりの将校が前に出た。


「デイビット・シンクレア空軍中佐です。連合軍統合参謀本部情報部より派遣されました。現在実行中の深部偵察に関する情報を提供します」


 シンクレア中佐はそう言って説明を開始。


「まず敵は屍食鬼を肉の盾にして我々の追撃を阻止する構えです。かなりの数の屍食鬼が我々の前進を阻もうと展開しています。火砲などはありませんが、我々の方は弾薬や燃料を損耗することを強いられるでしょう」


「魔獣猟兵そのものに損害がない体のいい足止め部隊だな」


「ええ。ですが、屍食鬼の弱点は死霊術師を倒せば叩けるということです」


 ワーム上級大将が唸るのにシンクレア中佐がそう告げる。


「情報部はこの地域の屍食鬼を率いている死霊術師を把握していると?」


「ええ。以前エスタシア帝国の戦線で確認された死霊術師です。スピアヘッド・オペレーションズのコントラクターであるアラン・ハルゼイ元陸軍中佐の姿を我々は深部偵察で確認しています」


「なるほど。それで、情報部はどのような作戦を提案するつもりだ?」


「アラン・ハルゼイの暗殺です。我々はそのための作戦んを準備しています」


 連合軍統合参謀本部情報部は死霊術師アラン・ハルゼイの暗殺を計画していた。


「それは完全な情報部による作戦と考えていいのか?」


「いえ。連携が必要です。万が一の場合は閣下の指揮下にある部隊の援軍を必要としますし、死霊術師の注意を逸らすためにあえて攻撃を行っていただきたい」


 ワーム上級大将が尋ね、シンクレア中佐がそう答える。


「暗殺作戦を把握されないようにか。確かに必要だろう。我々が正面突破を目指していると思えば、敵は暗殺を警戒しない。それにこちらの攻撃に応じるので手はふさがる」


「そういうことです。暗殺は確実に実施しますので、そちらに協力いただきたい」


「もちろんだ。では、作戦開始時には連絡いたします」


 そして、連合軍統合参謀本部情報部によるアラン・ハルゼイの暗殺作戦が始まった。


 動員されるのはアーケミア連合王国空軍特殊降下連隊、同国陸軍第22長距離偵察連隊、そしてエスタシア帝国陸軍葬送旅団だ。


「連合軍統合参謀本部より命令です」


 アンスヴァルト艦内にてシーラスヴオ大佐が告げる。


「我々は敵の死霊術師にしてスピアヘッド・オペレーションズのコントラクターであるアラン・ハルゼイ元アーケミア連合王国空軍中佐の暗殺を再び試みます」


「以前失敗した作戦ですね」


「今回は確実に実行する必要があります。我々の作戦の成否にこれからの連合軍の反転攻勢の達成がかかっているのですから」


 アレステアが険しい表情を浮かべ、シーラスヴオ大佐がそう言った。


「アラン・ハルゼイの居場所は確認できています。イーグルロック要塞に魔獣猟兵の部隊に守られています。我々はその近くの空軍基地まで進出し、そこからアンスヴァルトによる空中機動で作戦を開始します」


「参加する飛行艇はー?」


「アンスヴァルト以外は輸送飛行艇のみです。あくまで隠密作戦となりますので」


「了解」


 シーラスヴオ大佐の言葉にシャーロットが頷く。


「敵の抵抗はどの程度考えられるのですか?」


「情報部は魔獣猟兵の機械化歩兵部隊1個中隊が警備しているのを確認しています。他には高射砲部隊が小規模に存在すると」


「では、どうにかなるかもしれませんね」


「ええ。司令部も達成不可能な目標は指示していません。作戦を何としても成功させ、反転攻勢を成功させましょう」


 レオナルドが頷き、シーラスヴオ大佐がそう言ったのだった。


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る