思わぬ反撃

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 ──思わぬ反撃



 アレステアたち葬送旅団を含めた連合軍部隊が護衛したラストハーバーから脱出する市民は無事にトンネルを抜けた。


「ここから先は応援の部隊が護衛してくれるはずなんですが……」


 アレステアはそう言って周囲を見渡す。


「おっと。飛行艇だ」


「友軍ですか?」


「みたいだね」


 上空に現れたのは連合軍の空中艦隊だ。輸送飛行艇を含めた大艦隊が空に現れた。


「凄い。これが援軍!」


「連合軍の戦略機動が完了したようですね。とうとうラストハーバーの包囲もどうにかなりそうです」


「ええ。これなら、きっと!」


 アレステアたちが上空を見上げる中、合流予定地点の湖のある公園に軍用トラックの車列が現れた。友軍だ。


「葬送旅団か! 我々は援軍に派遣さた第84自動車化擲弾兵師団だ!」


「そうです! 来てくれましたね!」


「ああ。師団長は反撃だと言っている! よく耐えてくれたな!」


 ついに反撃が始まる時が来た。


 連合軍は予備軍のラストハーバーへの戦略機動を完了。膨大な数の飛行艇からなる空中艦隊と大規模な地上軍がラストハーバーを包囲する魔獣猟兵を狙う。


「我々はこれからラストハーバーを包囲する魔獣猟兵の逆包囲を目指す」


 戦略機動した連合軍部隊を指揮するハンス・フォン・ワーム上級大将が指示を出す。


「魔獣猟兵の空中艦隊は空軍が全力で排除する。そして情報によれば魔獣猟兵の地上軍は再編成の最中である。後方連絡線が伸び切ったことで補給が追いついておらず、火砲も満足に動かない、と」


 事実だ。マクスウェル軍集団は依然として補給が十分ではない。


「この機を逃す手はない。ここで魔獣猟兵に打撃を与えれば今後の戦闘においても有利になることは間違いない。敵戦力への打撃も作戦目標だ」


 そして、連合軍がラストハーバー解囲及びマクスウェル軍集団の逆包囲作戦を開始。


 まず動き始めたのは空中艦隊だ。


「第2連合空中艦隊旗艦フォーミダブルより全艦。我に続け。突撃、突撃、突撃!」


 アーケミア連合王国空軍空中戦艦フォーミダブルが先頭を切ってラストハーバー上空に進出し、その後から無数の飛行艇が続いて突撃を実行。


 対する魔獣猟兵も空中艦隊を差し向けて航空優勢の維持を図ろうとする。


 第2連合空中艦隊と魔獣猟兵の空中艦隊が衝突。


「あれはヴィクトリーか」


「今はアンサラーと呼ばれているそうです」


「では、我々の勝利を取り戻すとしよう」


 第2連合空中艦隊の前に立ち塞がったのは魔獣猟兵に奪取された空中戦艦ヴィクトリー──空中戦艦アンサラーだ。


 第2連合空中艦隊は主力艦21隻。魔獣猟兵は主力艦18隻。


 しかし、ここで魔獣猟兵には弱点があった。


 彼らが搭載していた砲弾は対地攻撃用の榴弾がメインだったということだ。彼らは対地攻撃のために出撃していたところを迎撃に回ることになったため、十分な徹甲弾を搭載できていなかった。


「撃ち方始め!」


 一斉に砲撃が開始され両者の空中艦隊の間で砲弾が飛び交う。


 第2連合空中艦隊は徹甲弾を、魔獣猟兵は榴弾をそれぞれ砲撃する。そして、魔獣猟兵は榴弾に近接信管を利用している。


 第2連合空中艦隊の周囲で大口径の榴弾が次々に爆発し、両用砲や高射機関砲と言った脆弱な部位が破損し、飛行艇が炎上した。


「怯むな! 距離を寄せて砲撃を続けろ! 奴ら、徹甲弾を持っていないぞ!」


 この時点で第2連合空中艦隊も魔獣猟兵が榴弾ばかりを放っていることに気づき、一気に距離を詰め始めた。


「命中弾! 敵艦炎上!」


 魔獣猟兵の空中戦艦アンサラーが砲弾を受けて炎上。


 次の瞬間、弾薬が誘爆して大爆発を起こした。


「敵艦撃墜!」


「いいぞ。このまま決着を付ける。絶対逃がすな。追撃しろ!」


 魔獣猟兵は不利を悟って撤退を試みるが第2連合空中艦隊はそれを猛追。


「空雷戦用意!」


「空雷戦用意!」


 空中戦艦の砲撃に続いて空雷戦隊が一気に魔獣猟兵の空中艦隊に肉薄し、一斉に空中魚雷を放った。空中戦艦の砲撃によって両用砲などが破損していた魔獣猟兵の空中戦艦はそれを迎撃できない。


 空中戦艦の脇腹に空中魚雷が命中し、何隻もの飛行艇が爆発炎上する。


「レーダーが新たな機影を捕捉しました。敵の空中空母です!」


「こちらの空中空母に通達。艦載機を発艦させ支援させろ」


「了解」


 後方に待機していたアーケミア連合王国空軍空中空母イーグルとエスタシア帝空軍空中空母オーディンから無数の艦載機が発艦し、友軍空中艦隊の援護に向かう。


「敵空中空母から亜竜多数!」


「艦載機、間もなく本艦隊と合流!」


 魔獣猟兵側は空中空母キャスパリーグを展開させていた。そこから無数の亜竜が飛翔し、第2連合空中艦隊に攻撃を仕掛けようとしている。


「対空戦闘、対空戦闘!」


 無数の空中戦艦で生き残った両用砲や高射機関砲が一斉に火を噴き、レーダー完成射撃であるその射撃と近接信管によって亜竜が撃破されていく。


「友軍空中巡航艦が落ちます!」


 しかし、亜竜の攻撃は激しく友軍飛行艇が撃墜されてしまう。


「友軍艦載機が援護に入ります!」


「各機、友軍誤射に警戒。対空射撃は慎重に実施せよ」


 友軍艦載機は口径20ミリ機関砲で亜竜を攻撃。部位によっては弾かれるが、亜竜に全く効果がないわけではない。


「敵艦隊、完全に撤退しました」


「ふむ。作戦目標は果たしたというべきか」


 最終的に第2連合空中艦隊は主力艦4隻を失ったが、魔獣猟兵は主力艦11隻を喪失。この航空決戦は連合軍の勝利に終わった。


 この勝利はすぐさまラストハーバー解囲を目指すワーム上級大将に伝えられる。


「諸君。いいニュースだ。空軍は航空優勢を奪った。今こそ反撃のときだ」


 ワーム上級大将が命じ、配置に就いた全軍が動き始めた。


 攻撃準備射撃が魔獣猟兵第2戦域軍マクスウェル軍集団を猛砲撃。あらゆる火砲が火を噴き、砲弾が荒らしのように吹き荒れる。


「前進、前進」


 そしてカラカル装甲兵員輸送車とカンガルー装甲車で機械化された歩兵部隊が前進を始め、それを戦車が支援する。未だ戦車は主役ではなく、あくまで歩兵を支援する移動火点に過ぎない扱いだ。


 友軍の砲兵が念入りに攻撃準備射撃を実施したために魔獣猟兵は碌な抵抗もできず、分断され、包囲されていった。


「友軍だ!」


「おーい! やっと来てくれたな! 歓迎するぞ!」


 その日の夜に解囲部隊はラストハーバー守備隊に合流し、包囲が終わったことをラストハーバー守備隊は祝った。


 支給品のワインを取り出して最初にラストハーバーの解囲に成功した装甲擲弾兵連隊の連隊長と守備隊の指揮官が祝杯を挙げ、そのまま完全に視野が利かなくなる夜間まで反転攻勢は続いた。


 魔獣猟兵は重装備を放棄してラストハーバーから撤退。損害は3万人以上となった。


 連合軍は久しぶりの大勝利を得たのだ。


……………………

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