戦場からの脱出

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 ──戦場からの脱出



 ラストハーバー守備隊司令部からの命令で市民の脱出が行われることとなった。


「市民の脱出にはこの地下トンネルを利用します」


 ラストハーバー守備隊司令部の作戦参謀がそう作戦に参加する部隊に説明。


「このトンネルは都市の外の湖まで繋がっています。ここならば魔獣猟兵に攻撃を受けることなくラストハーバーから脱出できるでしょう」


 作戦参謀が説明するのをアレステアも聞いていた。


「我々はラストハーバーの防衛が主任務ですので大規模な部隊は護衛のために避けません。動員されるのは葬送旅団及び第11歩兵師団から1個大隊のみです」


「脱出させる市民の数は?」


「20万人前後です。既に多くの市民が脱出していることと怪我で動けない市民を除いた数はこれほどです」


「かなりの数ですね」


 作戦参謀の説明に作戦に参加するアーケミア連合王国陸軍第11歩兵師団の将校が少しばかり呻いた。


「脱出は一斉に行わず、段階的に実施します。一度に脱出させる市民は2万まで」


「ラストハーバーから脱出した後は?」


「こちらに向かっている援軍が護衛を引き継ぎます。そのまま安全な場所へ」


 逃げ出した民間人を魔獣猟兵が狙わないとは限らない。彼らは事実ラストハーバーにいた民間人を狙った砲爆撃を行ったのだ。


 そのため護衛は必要である。


「我々の任務はラストハーバーの民間人を無事にラストハーバーから脱出させることです。それだけ達成できれば我々の任務は成功と考えていいのです」


 作戦参謀はそう説明して、作戦のブリーフィングを終えた。


 そして、部隊が動き始める。


「魔獣猟兵の空中艦隊に動きなし。脱出作戦を開始!」


 地上レーダー及びレーダーピケット艦、さらに魔獣猟兵の空軍基地に潜入したシグルドリーヴァ大隊を始めとする特殊作戦部隊の働きで魔獣猟兵の航空戦力については、その動きを把握できた。


 それによれば今の時点で魔獣猟兵の空中艦隊に動きはない。脱出のチャンスだ。


「住民の方々の誘導を!」


「こっちです! 落ち着いて移動してください!」


 最小限の荷物を持った市民たちが葬送旅団を含めた護衛部隊によって地下トンネルに入る。暗いトンネルの中には発電機とセットの証明が設置されており、道に迷わないようになっている。


「僕たちはこのまま護衛を?」


「そうです。魔獣猟兵のコマンドが侵入している可能性もあるので。前方の進路は第11歩兵師団が事前に確保していますが、それでも一応は」


「了解です!」


 葬送旅団は避難民の護衛がその役割だ。


 アレステアは避難民の列の先頭で道を確認し、待ち伏せに警戒しながら進む。


「レオナルドさん、シャーロットおお姉さん。屍食鬼の気配がします。第11歩兵師団からは何も連絡はないですか?」


「まだありません。ですが、このトンネルはかつての水路として様々な場所に枝分かれしています。そこから侵入された可能性はありえます」


「非難する市民を攻撃するために、でしょうか?」


「流石に魔獣猟兵もそこまで民間人の殺戮に前向きではないはずです。恐らくはトンネからラストハーバーを奇襲することが目的かと」


「では、防がなければいけませんね」


 このトンネルはラストハーバーの中心部付近から外へと繋がっている。魔獣猟兵にここを制圧されたり、出口を知られたりすればラストハーバーの防衛線の内側を攻撃されてしまう。


「けど、敵もまだトンネルがどこに続いているかは知らないはずだよね?」


「そうですね。守りが薄い場所を見つけたから偵察を行っているというところでしょう。ラストハーバー守備隊司令部も敵に気づかれないように部隊の集結には慎重だったようですので」


 シャーロットの問いにレオナルドが答える。


「止まれ!」


 そこで第11歩兵師団とともに先行していたシグルドリーヴァ大隊の兵士が手を振っているのを見てアレステアたちが足を止めた。


「どうしました?」


「無線で連絡しようとしたんだが、この地下は電波が上手く通らないみたいだ。そこで俺が伝令に残された」


 アレステアが尋ねるのに兵士がそう答える。


「敵を見つけた。屍食鬼だ。かなりの数がいる。しかし、ラストハーバーの外に出る正規ルートの方じゃない。脇道だ。そういうわけで避難民が通過したら爆破する準備を進めている」


「では、急いで通過すればいいのですか?」


「ああ。我々が押さえているうちに正規ルートで一気に離脱してくれ。しかし、ゴードン少佐からは少し手を貸してほしいとも言われている」


「なら、僕が手伝います」


「すまん。頼むぞ。こっちだ!」


 アレステアは兵士に誘導されて爆破予定地点を目指した。


「銃声!」


「ああ。戦闘が起きている。すぐに戦えるようにしておいてくれ」


 トンネルにこだまするように銃声が聞こえる。爆発音も響いていた。


「誰か!」


「エステラ・ガリシア伍長だ! B中隊所属!」


「ガリシア伍長か。避難民に連絡はできたのか?」


「完了した。それから応援を連れて来た。アレステア卿だ」


「おお。それは百人力だな。屍食鬼が押し寄せている。来てくれ!」


 合流したシグルドリーヴァ大隊の兵士がアレステアたちを案内して戦場に向かう。


「弾幕を展開しろ! 爆破まで陣地を死守するんだ!」


「了解!」


 前線ではゴードン少佐が部下たちに命令を叫び、魔道式銃が曳光弾を混ぜつつ暗闇の中で屍食鬼の軍勢を相手にしていた。


「ゴードン少佐さん! 応援にきました!」


「助かる! 敵襲はトンネルを出た後と想定したから備えがなかった!」


 アレステアという援軍をゴードン少佐が歓迎。


「僕が敵の隊列を掻き乱しますから抜けた敵を叩く、という方法でいいですか?」


「ああ。それで行こう。爆破の前には知らせる。その時は撤退してくれ」


「では、始めましょう」


 アレステアはそう言って屍食鬼の群れに“月華”を持って突撃。


「行きます!」


「アレステア卿が撃ち漏らした奴を叩け! 撃て、撃て!」


 爆破が行われるのは避難民が通過してからであるため、それまでは爆破地点を維持する必要がある。そうしなければ万が一爆破が上手くいかず屍食鬼を食い止められなかった場合や爆破の影響が大きすぎトンネルが崩落した場合が危機となるのだ。


「避難民が通過中です! 残り15分程度で通過します!」


「15分だ! 踏ん張れ!」


 避難民が爆破地点の横を足早に通過し、葬送旅団の将兵が誘導する中でシグルドリーヴァ大隊とアレステアたちは死守の構えで戦い続けた。


「避難民通過!」


「爆破するぞ! アレステア卿の撤退を支援しろ!」


 アレステアが前線から退くのをシグルドリーヴァ大隊の兵士たちが支援。


「下がりました! 支援、ありがとうございます!」


「よし! 爆破しろ、軍曹!」


 ゴードン少佐が命令を出し、爆破を実施。トンネルが崩れ落ちる。


「これで大丈夫なはずだ。とりあえずはな……」


「ええ。今は大丈夫ですね」


 ゴードン少佐とアレステアは安堵の息を吐いた。


……………………

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