吹き荒れる爆撃
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──吹き荒れる爆撃
ラストハーバー守備隊司令官デンプシー大将が降伏を拒否したのはすぐに魔獣猟兵の各部隊に通達された。
そして、彼らが動き出した。
「地上レーダーが敵空中艦隊を捕捉! こちらに向かっています!」
「早速爆撃か。忌まわしい獣どもめ」
まず魔獣猟兵が繰り出したのは航空戦力だ。空中戦艦を含めた大規模な空中艦隊がラストハーバーに向けて進出してきた。
「高射砲部隊が射撃を開始!」
口径127ミリから口径90ミリの大型高射砲がレーダー連動の射撃を実施。上空に向けて近接信管を内蔵した砲弾が次々に放たれては炸裂する。
「クソ。効果があるようには見えない」
「諦めずに撃ち続けるしかありません」
分かっていたことだが空中戦艦のような飛行艇に対して空中駆逐艦の主砲程度の口径しかない高射砲はあまり効果が見られない。
そうしている間にも、魔獣猟兵の空中艦隊はラストハーバーの上空に進出し、地上に対する砲撃の構えを見せた。
そして、地獄が幕を開けた。
「て、敵の空中戦艦が俺たちを狙ってるぞ!」
「退避! 退避!」
魔獣猟兵の空中艦隊は上空から一斉に砲撃を開始。空中戦艦や空中大型巡洋艦が砲弾を雨のように地上に叩き込む。
「クソ! 連中、民間施設もお構いなしに砲撃してやがる!」
「友軍は!? 友軍の空中艦隊はどこにいるんだ!?」
魔獣猟兵の砲撃はまさに無差別のように見えた。
住宅街から商業地帯まであらゆる場所に砲弾を発射し、その砲弾が建物を地上から証明させていく。飛行艇はあまりにも強大な力を振るっている。
「第2戦域軍司令部からの通達通りに砲撃を行っているが、効果はあるのか?」
魔獣猟兵の空中艦隊を指揮する吸血鬼が参謀にそう尋ねた。
「この砲爆撃は敵の士気を挫くことが目的ですので。軍事目標の砲撃はまだ行えません。敵は陣地を隠匿し、我々の地上偵察部隊が確認している最中です」
参謀がそう語る。
「そこで民間目標を叩く。恐らく敵は民間人も戦闘に動員し、我々を市街地戦に巻き込むつもりでしょう。そうなるとラストハーバー攻略は一層困難になります」
「いくら我々が航空優勢を握っているとしてもラストハーバーの民間人を全滅させるのは不可能だと思うが?」
「全滅させる必要がないのです。ただ恐怖を植え付けるだけでいい。それにこの砲爆撃で生じた負傷者で相手の医療機関の対応が飽和することも狙っています」
「なるほど。既にラストハーバーは我々の包囲下にある。医薬品の供給も限られてくるだろう。負傷者が手当てできなくなれば敵も降伏を考えるかもしれない」
「そういうことです、閣下」
「では、砲爆撃を続けよう」
魔獣猟兵の空中艦隊は地上のあらゆる目標を蹂躙し、そして飛び去った。
「空中艦隊は撤退したぞ!」
「すぐに救出活動を開始する。急げ!」
魔獣猟兵の爆撃が終わるとすぐさま現地の消防隊や警察、そして軍からなる救助部隊が攻撃を受けた地域に出動し、救助活動を始める。
「この瓦礫の下だ! 退かすぞ!」
自らも建物の崩落に巻き込まれる危険がある中、救助部隊は恐れることなくその義務を果たした。住民たちを救出し、そして病院へと搬送する。
「トリアージを急げ! 助かる人間から助けるぞ!」
病院には軍医の他に民間の医者も動員され、さらに看護師資格のある全ての人間が招集されて手当てに当たっていた。医者の中には止血できれば十分と獣医まで呼ばれているような状況である。
看護師と救助隊員たちが患者のトリアージと応急処置を行い、医師はすぐに処置すれば助かる重傷者から処置を行う。
「カーウィン先生! この患者をお願いします!」
「ああ」
ルナも葬送旅団からラストハーバーの病院に派遣され、そこで傷を負った負傷者の手当てを行っていた。白衣が血塗れになりながら、他の医師同様に食事すら満足に取らず、患者の手当てを続けている。
「先生! この方をお願いします!」
そこで担架で患者を運んできたのはアレステアだ。
「アレステア君。君も救助に?」
「ええ。今はこれが僕のやるべきことです」
葬送旅団はラストハーバー防衛作戦に参加していたが、今は救助任務を手伝っていた。シグルドリーヴァ大隊のみが偵察任務に就いており、他は全てラストハーバーで戦災に巻き込まれた民間人の救助のために行動している。
だが、アレステアが患者を運んできたとき空襲警報が鳴り響いた。
「また……! 先生、避難しましょう!」
「待って。もう少しで処置が終わるんだ」
アレステアが避難を呼びかけるもルナは患者の処置を続ける。止血と縫合、そして輸液で出血死を防ごうとする。
遠くから砲声が響き、地響きが響く。
「カーウィン先生! 急いでください!」
「よし。運ぶのを手伝ってくれ、アレステア君!」
「はい!」
アレステアとルナは患者を担架に乗せて急いで病院の地下を目指す。そこは防空壕になっており、非常用発電機などがあった。
飛行艇からの砲撃音が響き続け、地下室では恐怖にすすり泣く声が聞こえる。
そこで病院の傍に砲弾が着弾したのか激しい爆音と揺れが生じた。悲鳴が上がり、地下室では神に祈る声も聞こえ始めた。
だが、砲撃は長くは続かず、空襲警報が解除されて再び静寂が訪れた。
「終わったのか?」
「ああ。終わったみたいだ。助かった」
空襲警報が解除されてから再び病院が動き出す。
ラストハーバーはこれまでの砲撃で市街地の6割が炎上し、破壊された。まだ砲爆撃を受けていないのは港湾地域と貨物駅、空港ぐらいであり、魔獣猟兵はあらゆる目標を砲撃していた。
住民の被害は深刻化しており、次第に医薬品もなくなっていくのに病院関係者も危機を覚え始めていた。なるべく医薬品を大量に使わないように用心しているが、包帯や消毒液はどうしても減ってしまう。
これらの状況はリビングストン市長に報告されており、彼はデンプシー大将に再三に渡る降伏、または市民の脱出を訴えていた。
そのデンプシー大将にリビングストン市長が無防備都市宣言を出そうとしているという情報が入ったのは魔獣猟兵の本格的な砲爆撃開始から10日後のことだ。
「憲兵隊に命じる。市長を拘束せよ。市長が行おうとしているのは利敵行為だ」
「了解」
デンプシー大将はリビングストン市長の拘束を命令し、リビングストン市長は陸軍憲兵隊によって拘束された。
しかし、市長を拘束したところで医薬品の不足と市民の犠牲が止まるわけではない。魔獣猟兵は依然として空中艦隊が砲爆撃を繰り返しているし、連合軍の空中艦隊は予備戦力の機動を支援しているため動けない。
「閣下。市民はこうなっては軍の負担にしかなりません。脱出を」
「しかし、この状況で軍の負担にならぬように脱出させるのは困難だぞ」
「市民に自らの足で脱出してもらうしかないでしょう」
「ふうむ。気が進まないが計画の策定を任せる」
デンプシー大将はそう指示した。
そして、翌日避難計画が決定した。
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