自爆作戦
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──自爆作戦
アレステアたちは空中空母アンヴァルの艦内を戦闘指揮所に向けて進んでいる。
「行けそうです! このまま突破を!」
「援護しますよ、アレステア君!」
アレステアとレオナルドが突入して屍食鬼の隊列を撃破して突破口を作り、それを拡大するようにシャーロットたちが続く。
「どれだけいるのさ、これ! 全くもう! 弾切れになるかもね!」
「いざとなればこの飛行艇ごと落とせばいいい。しかし、奪還できる可能性があるなら奪還を目指すだけだ。行け、行け!」
シャーロットが“グレンデル”に新しいカートリッジをチャージして愚痴り、ゴードン少佐たちが無理やりにでも屍食鬼たちをねじ伏せて進む。
「突破です!」
アレステアたちは戦闘指揮所に向かって撃破と突破を繰り返し、空中空母アンヴァルの中を進み続けた。
そして、ついに──。
「戦闘指揮所だ! 突入するぞ! 3カウント!」
シグルドリーヴァ大隊の兵士たちが前方に出て戦闘指揮所への突入準備を始める。3秒のカウントと後にすぐさま葬送旅団が戦闘指揮所内に突入。
「クソ。誰もいないぞ」
「どういうことだ……」
突入したシグルドリーヴァ大隊の兵士たちが呻いた。本来なら空中空母の中枢であるはずの戦闘指揮所に誰もないのだ。
「どうなってる? 無人で飛行しているのか?」
「そのようです。いや、これは遠隔操縦?」
技術者である戦闘工兵が調べるとこの空中空母アンヴァルは遠隔操作されていることが分かった。だから、戦闘指揮所も無人なのだ。
「ただの曳航のためにか?」
「分かりません。これだけでは」
「ふうむ。どうしたものか。一度司令部に連絡しよう。遠隔操作が遮断できるならやってくれ。奪還してこのまま友軍空中艦隊に合流する」
「了解」
そしてゴードン少佐が司令部に連絡していたときだ。
「少佐殿! 何か分かりました! これは恐らく起爆装置です!」
「起爆装置? 爆弾か?」
「ええ。この配線は間違って切断すれば電気が流れて起爆する爆弾のものです。戦闘指揮所の外に続いています」
「クソ。ただのブービートラップだといいのだが。確認するぞ」
「了解!」
そう命じてゴードン少佐が戦闘指揮所の扉を守るアレステアとシーラスヴオ大佐たちの下に来た。
「大佐殿。爆弾です。どうもこちらで動かそうとすると起爆するようになっているらしい。これから爆弾がどの程度のものなのか確認に行きます」
「了解した。戦力は足りるかね?」
「できればアレステア卿たちの力をお借りしたい」
「分かった」
シーラスヴオ大佐がゴードン少佐の意見を受けて戦闘指揮所の扉に押し寄せる屍食鬼を迎撃しているアレステアたちのところへ向かう。
「アレステア卿! ゴードン少佐と一緒に爆発物の確認に向かっていただけますか! あなたたちの力が必要です!」
「分かりました!」
銃声と爆音が響く中シーラスヴオ大佐が叫び、アレステアが叫び返す。
「ゴードン少佐! では、アレステア卿とともに爆弾の確認を!」
「了解!」
アレステアが合流してゴードン少佐がシグルドリーヴァ大隊からアリーチェを含めて何名か選び、空中空母アンヴァル内の爆弾の場所を目指して進んだ。
「こっちに配線が続いています。これを追えば爆弾に辿り着けるはずですよ」
「ああ。解除できるなら解除しよう」
連合軍にとって飛行艇は1隻でも必要だ。今はあらゆるものが限られており、無駄にしていいものなどひとつもない。特に数が限られている主力艦は。
「て、敵! 前方に複数!」
「屍食鬼だ! 突破するぞ!」
アリーチェが報告し、ゴードン少佐が命じる。
「行きます!」
アレステアたちが突破を試み屍食鬼を相手に暴れまわった。
「しかし、これだけの屍食鬼をどうやって……」
「戦死者だ。これまでの敗退で生じた連合軍の将兵を屍食鬼にしている。少なくともそういう報告を俺は受けた」
「なんてことを」
死体とて無限に湧くわけではない。死者がいて死体があるのだから。
そして、魔獣猟兵は雲霞の如く屍食鬼を繰り出してくるが、その死者はどうやら戦場で生じたものを利用しているらしい。
「この先は格納庫です、少佐」
「格納庫内には弾薬庫があったな。そこか?」
「アーケミア連合王国空軍によればドックに入っていたときにこの飛行艇に弾薬は搭載していなかったということですが」
「ふうむ」
ゴードン少佐が唸りながら爆弾を追って格納庫に進む。
「この先に爆弾があるかもしれないんですよね?」
「ああ。その通りだ。我々が突入するのでアレステア卿たちは援護を」
「いえ。僕が行きます。僕なら爆弾が炸裂しても大丈夫ですから」
「それは……。分かった。お願いしよう、不死身の英雄」
「はい」
アレステアは鉄の扉で閉ざされた格納庫へと“月華”を構えて突入。
「これは……! 来ちゃダメです!」
「何があったの!?」
アレステアが瞬時に叫び、シャーロットが離れた位置から尋ねる。
「爆弾ですが……。この空中空母の格納庫全てに爆弾がありったけ詰め込まれてるんです! この爆弾が爆発すればこの空中空母は当然として周りも吹き飛びますよ!」
そう爆弾は格納庫全体にびっしりと収められていた。ドラム缶に詰め込まれた爆弾にワイヤーが伸び、いつでも爆発できる状態で数百以上もの爆弾の詰め込まれたドラム缶が並んでいる。
「なんてことだ。アンスヴァルトとグリンカムビに脱出の要請を! ここから逃げるぞ! 魔獣猟兵はこいつを自爆させるつもりだ!」
「りょ、了解!」
あまりの衝撃に精鋭のシグルドリーヴァ大隊の兵士も狼狽えていた。
「ゴードン少佐さん。今の位置って分かりますか?」
「いや。分からないが、まさか……」
「地図で近かったスケイルリバーって都市には連合軍の物資集積基地があるってシーラスヴオ大佐が言ってたんです。もしかしたら」
「クソ。特大の爆弾を叩き込んでやるってわけか」
アーケミア連合王国における暗黒地帯に戦線を広げる連合軍の物資集積基地。それがこの空中空母アンヴァルが停泊していたレッドガルフの傍にあるのだ。
魔獣猟兵はそこにこの爆弾を満載した空中空母アンヴァルを突っ込ませて爆破するつもりに違いない。
「皆さんは脱出してください。僕は残ってこの飛行艇を空中で爆発させますから」
「馬鹿なことを言わないでよ、アレステア少年! ドルフィン空中艦隊に撃墜させればいいだけだから!」
「でも、ドルフィン空中艦隊は魔獣猟兵の空中艦隊の相手をしています。だから、不確実だって思うんです」
シャーロットがそう主張するがアレステアは首を横に振る。
「僕は死なないことだけが取り柄ですから任せてください」
「アレステア少年……」
アレステアが力いっぱい微笑むのにシャーロットが呻く。
「確かに確実を期すならば空中で自爆させるべきだ。しかし、いくら何でもこの飛行艇に残って手動で爆破するのはではなく無線で爆破できないか?」
そこでゴードン少佐が傍にいた戦闘工兵に尋ねた。
「両軍の無線が飛び交っていますから周波数によっては間違った起爆が起きます」
「クソ。そうだったな。今は空中戦の真っ最中だった」
そしてゴードン少佐がアレステアを見る。
「本当に任せていいのか?」
「ええ。任せてください」
「分かった。頼む。そして、すまない」
アレステアの覚悟に敬意を表してゴードン少佐がそう言い、戦闘工兵はアレステアに敬礼していた。
「行くぞ! 撤収だ! アンスヴァルトとグリンカムビに連絡して撤退する!」
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