空中空母アンヴァル
……………………
──空中空母アンヴァル
アレステアたちを乗せたアンスヴァルトはかつての空中空母クイーン・エリザベスであり、そして今は空中空母アンヴァルへの移乗攻撃を目指して突撃していた。
しかし、空中空母アンヴァルには空中戦艦アンサラーを含めて魔獣猟兵の護衛部隊が存在している。これを撃破することはアンスヴァルトには不可能だ。
「敵艦は旗艦ウォースパイトを狙っています」
「ウォースパイトには悪いがチャンスではある」
空中戦艦アンサラーを帰還とする魔獣猟兵空中艦隊の狙いはドルフィン空中艦隊旗艦ウォースパイトだ。まずは敵の旗艦を叩こうと砲撃を繰り返している。
さらに敵は肉薄して雷撃を試みるドルフィン空中艦隊の空中駆逐艦を警戒しており、アンスヴァルトに向けられている注意は僅かだ。
「チャフと煙幕を展開しながら目標に向けて突撃を実行。砲戦には参加するな」
「了解!」
アンスヴァルトは魔獣猟兵との交戦を徹底的に避け、空中空母アンヴァルに向けて進む。欺瞞手段であるチャフと煙幕がばら撒かれ敵のレーダーと目視による探知を避けながら進み続ける。
「敵空中空母からの艦載機または亜竜の発艦は?」
「レーダーには反応ありません、艦長」
「どういうことだ? 亜竜を乗せる暇がなかったのか?」
空中空母は巨大な主砲の代わりに艦載機を搭載することで戦う。つまり、艦載機のない空中空母は主砲のない空中戦艦だ。
アンスヴァルトは艦橋でテクトマイヤー大佐たちが疑問に思いながらも空中空母アンヴァルに向けて突撃し続けた。
「そろそろだな。降下艇発艦準備!」
「降下艇発艦準備!」
そして、アンスヴァルトから帝国空軍第669特殊作戦飛行隊“グリンカムビ”の操縦士たちが操る降下艇が発艦の準備を開始。
「乗り込め、乗り込め! 空中空母に突撃だ!」
グリンカムビの操縦士たちが恐れを見せず、陽気にそう叫ぶ。
「全く、滅茶苦茶な作戦ばかり命じられるね。空中戦艦に突っ込めだの、空中空母を取り戻してこいだの!」
「仕方ないですよ。それだけ信頼されていると思いましょう、シャーロットお姉さん」
シャーロットがぼやきながら降下艇に乗り込むのにアレステアが苦笑する。
「まずは俺たちが突っ込んで飛行甲板を確保する。それでいいか?」
「ええ。お願いします、ゴードン少佐」
レオナルドはシグルドリーヴァ会いたいのゴードン少佐と作戦を打ち合わせていた。それによればゴードン少佐たちが先に飛行甲板に着陸し、それからアレステアたちが確保された飛行甲板に降り立つことになる。
「改めて通知します。魔獣猟兵が艦載機か亜竜を展開した場合には作戦は一時中止です。アンスヴァルトがそれらを迎撃します。全て撃墜できれば作戦継続で不可能ならば完全に中止です」
「了解です、シーラスヴオ大佐さん」
シーラスヴオ大佐が最後のブリーフィングを行い、アレステアたちを乗せた降下艇がいつでも発艦できるようカタパルトに向かう。
『降下艇発艦開始、降下艇発艦開始!』
そして、カタパルトからまずシグルドリーヴァ大隊を乗せた降下艇が発艦。真っすぐ空中空母アンヴァルへと突撃。
『グリンカムビ・ゼロ・ワンより各機。敵の抵抗はない。作戦は継続する。このままタッチダウンだ!』
シグルドリーヴァ大隊を乗せた降下艇が空中空母アンヴァルの飛行甲板に着艦した。すぐにシグルドリーヴァ大隊が空中空母アンヴァルの飛行甲板の制圧を開始する。
「少佐殿! 艦橋に誰もいません!」
「何だと?」
空中空母アンヴァルの艦橋──アイランドには誰もいなかった。
「どうも妙な感じだが取り返せるなら取り返さねばな。後続の部隊を呼べ!」
「了解!」
ゴードン少佐の指示で通信兵がアンスヴァルトに連絡し、アレステアたちがアンスヴァルトを発艦してそのまま空中空母アンヴァルの飛行甲板に着艦。
「ゴードン少佐さん。敵は?」
「まだ艦橋と飛行甲板を制圧しただけだ。中は見てないが、どうも妙な感じでな。艦橋には誰もいなかったし、今まで抵抗のひとつもない」
「では、囮かもしれないと?」
「囮にするにしては主力艦がしっかり守っていた。意味が分からん」
確かに囮にするなら主力の空中戦艦アンサラーを始めとする飛行艇の前に出して、弾除けにするべきだった。だが、実際には空中空母アンヴァルはそれらに守られる後方にいたのである。
「作戦目病は変わっていません。この空中空母の奪還です。ドルフィン空中艦隊が敵を引き付けているうちに迅速にやりましょう」
「ああ。そうだな。やろう!」
ゴードン少佐たちシグルドリーヴァ大隊を先頭に空中空母アンヴァルの制圧を目指して葬送旅団が作戦を開始した。
「アリーチェ。ポイントマンを任せるぞ」
「りょ、了解」
いつものようにアリーチェとエトーレを先頭に進み、索敵しながら艦艇内を進む。だが、今のところ生き物がいる様子はない。
「アリーチェ。敵はいないか?」
「いない、みたいです。高射機関砲も撃って来ませんでしたよね?」
「そうだな。妙な感じだ」
この空中空母アンヴァルには口径40ミリ4連装機関砲が搭載されているのだが、それらは降下艇が接近するのに全く攻撃してこなかった。
「戦闘指揮所を制圧すれば多少なりと分かることもあるだろう。行くぞ」
既に空中空母クイーン・エリザベスとしての図面はアーケミア連合王国から提供されている。それに従って空中空母内にある戦闘指揮所を目指す。
今の空中空母は艦橋で行うのは航空機の離発艦の管制だけで、実質的な艦艇及び艦載機の士気は飛行艇内に設けられ、装甲で守られた戦闘指揮所で行われるのだ。
「アリーチェさん! 気を付けてください! 屍食鬼の気配があります!」
「わ、分かりました」
アレステアがそこで叫び、アリーチェが魔道式猟銃を構えて慎重に進む。
そして、戦闘指揮所に近づいたときである
「接敵! 屍食鬼です!」
「援護する! 撃て!」
屍食鬼たちが火薬式自動小銃を持って葬送旅団への銃撃を始め、それに対して葬送旅団が反撃し、そして戦闘指揮所までの突破を目指す。
「手榴弾!」
「使えるものは全て使え!」
狭い艦内に無数の屍食鬼だ。まともに戦えば数の津波によって押し流されてしまう。火力を最大限発揮して敵を粉砕しなければならない。
「行きます!」
そして、銃弾と爆薬に限りがある中、アレステアとレオナルドが前に出る。
敵は屍食鬼。銃撃より斬撃が有効だ。人を殺すのには十分なライフル弾でも屍食鬼を殺すのには威力不足なところがある。
「死者に眠りを」
アレステアが“月華”を振るい、勇者たちのための道を切り開く。
空中空母アンヴァルの中でアレステアたち葬送旅団が激戦を繰り広げる。その先にあるものが分からないままに……。
何故、魔獣猟兵かこの空中空母アンヴァルに屍食鬼ばかりを配置していたのか。
……………………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます