ドルフィン空中艦隊
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──ドルフィン空中艦隊
『統合任務部隊“クイーン・ハート”司令部より全部隊へ。ハンプティ・ダンプティ作戦発動。繰り返す、ハンプティ・ダンプティ作戦発動!』
魔獣猟兵が展開している地上レーダー基地へのサボタージュ成功との報告を受け、すぐさま統合任務部隊“クイーン・ハート”がハンプティ・ダンプティ作戦の発動を宣言。全部隊が動き始める。
『ドルフィン空中艦隊旗艦ウォースパイトより全艦。これより電波輻射管制を実施し、指定された高度を飛行せよ』
ドルフィン空中艦隊旗艦であるアーケミア連合王国空軍空中戦艦ウォースパイトから命令が発される。
ドルフィン空中艦隊に所属する飛行艇は全てレーダーと無線の使用を停止し、闇夜の中を目視で進む。
頼りになるのは見張り員の目と航行士たちの頭脳だけ。この手の電子機器に頼らないアナログな飛行も重要だ。今もなお。
「艦長。旗艦ウォースパイトより発光信号です。間もなく降下地点であり、本艦は降下準備を開始せよとのこと」
「了解。グリンカムビに連絡し、降下艇発艦準備。電波輻射管制は最後まで行う。無線は使わないように」
葬送旅団には帝国空軍の特殊部隊であるグリンカムビも乗り込んでいる。彼らが降下艇を操縦してアレステアたちを降下地点に送り届けるのだ。
「降下艇に発艦準備命令です。乗り込みましょう」
「はい!」
アレステアたちは大急ぎで降下艇に乗り込む。
「無線は使うな。電波輻射管制が発令されている。どこで魔獣猟兵に探知されているか分からないぞ」
「着陸するまでに蜂の巣にされたくはないしな」
「いつだて蜂の巣にはされたくないさ」
グリンカムビのパイロットたちがそう言葉を交わしている。
「じゃあ、俺たちが先に降下するという手はずで間違いないな?」
「はい、少佐。シーラスヴオ大佐殿は我々に先駆けを命じられております」
「了解した」
ゴードン少佐のシグルドリーヴァ大隊が先行して降下する。それからアレステアたちが降下を行うのだ。
「レオナルドさん。今回はアーケミア連合王国空軍の特殊作戦部隊と一緒に行動するんですよね? どんな人たちなんですか?」
「特殊降下連隊は精鋭ですね。数々の対テロ作戦などに参加してきた部隊で規模は少数でありながら困難な任務を達成することで知られています」
「それは頼りになりそうです!」
そして、降下が始まるかと思われたときだ。
『ドルフィン空中艦隊旗艦ウォースパイトより全艦艇! 敵の飛行艇が離陸を始めた! 降下作戦は中止! 繰り返す、降下作戦は中止!』
降下直前になって魔獣猟兵が飛行艇を離陸させ始めた。
「敵が飛行艇を離陸させた!?」
「不味いですね。これか魔獣猟兵と航空決戦になるとアンスヴァルトも参加することになります」
「アンスヴァルトは戦えますよね?」
「どうでしょう。敵艦の主砲は口径40.6センチ砲。対するアンスヴァルトは口径28センチ砲です。不利は明らかかと」
アンスヴァルトは旧式だ。一世代前の飛行艇である。主砲の威力は高くなく、装甲も最新鋭艦と比較すると脆弱だ。
対する奪取された空中戦艦ヴィクトリーは最新鋭艦。装甲も主砲も強力である。
「それでも戦うのですか?」
「むしろ旧式艦だからこそ敵の前に出されるでしょう。こちらの比較的新しい飛行艇を撃墜されないように」
「そうですか……」
旧式兵器から使い倒そうとするのはよくあることだ。新鋭兵器は貴重だが旧式兵器はもうありふれている。それでいて旧式兵器も全く役に立たないことはないため『最後のご奉公』をやらされるのだ。
『総員戦闘配置、総員戦闘配置。我々はこれより敵飛行艇との航空決戦を開始する』
そして、やはりアンスヴァルトも戦うこととなった。
「艦長。旗艦ウォースパイトより通信。電波輻射管制解除の命令と本艦による空中空母クイーン・エリザベスへの移乗攻撃の命令です」
「移乗戦闘? 本気で言ってるのか? 空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセの時と違って向こうは万全の体制だが」
「しかし、命令です」
「ふむ。仕方ないな。しかし、できる限りの支援は行う」
「了解。空中空母の防空能力は空中戦艦ほどでもないのが重要なのでしょう」
「確かにな。艦載機がない空中空母に価値などない」
今回、移乗攻撃が命じられたのは空中戦艦ではなく空中空母だ。
そして、目標となっている空中空母クイーン・エリザベスは対空火器として口径40ミリ4連装機関砲を4基持つのみ。以前のようにハリネズミのごとく対空火器が並ぶ空中戦艦とは異なるのだ。
しかし、魔獣猟兵もそのことは分かっていないはずがない。
魔獣猟兵が奪った空中戦艦ヴィクトリーには魔獣猟兵の軍旗が掲げられ、艦橋にはは第2戦域軍ハドリアヌスの指揮下で戦う人狼や吸血鬼たちがいた。
艦名も空中戦艦ヴィクトリーは空中戦艦アンサラーへ、空中空母クイーン・エリザベスは空中空母アンヴァルへと変更されている。
「艦長。連合軍の空中艦隊を確認しました。作戦を強行しますか?」
「やむをえまい。こちらで空中空母アンヴァルを援護しながら予定地点まで進出する。少なくともハドリアヌス大将閣下はアンヴァルが犠牲になることを容認している」
「了解」
吸血鬼の艦長が命じ、人狼の副長が頷く。
空中戦艦アンサラーは50口径40.6センチ連装砲で狙いを定める。狙いはドルフィン空中艦隊の旗艦ウォースパイトだ。
旗艦ウォースパイトの主砲は38センチ3連装砲3基であり、火力において空中戦艦アンサラーに劣るが、それはあまり問題にならない。何故ならば今は夜戦だからだ。
お互いが装備する射撃管制レーダーを用いたレーダー射撃の精度は高いもののお互いの主砲の最大射程が活かせるほどの性能はない。主砲の口径や砲身が多少違おうがあまり意味はないだろう。
魔獣猟兵側にはさらに空中大型巡航艦3隻が加わっており、それらとアンサラーがアンをヴァル守るように布陣した。
「砲戦開始。撃ち方始め!」
「撃ち方始め!」
射撃管制レーダーによって誘導される火砲が火を噴く。アンサラーの主砲である8門の大口径砲がウォースパイトを狙って砲弾を降り注がせた。
「敵艦発砲!」
アンサラーの艦橋からウォースパイトを含めた複数の発砲炎が暗闇の中に見えた。ドルフィン空中艦隊は発砲したのだ。
「回避行動は無駄だ。寄せろ。アンヴァルを守るのが我々の任務だ」
「了解!」
魔獣猟兵側の旗艦アンサラーが進路をドルフィン空中艦隊に向け、砲撃を繰り返しながら前進し続ける。
そこでドルフィン空中艦隊の空中駆逐艦が進路を変針しアンサラーに向けて突っ込んできた。雷撃を行うつもりだ。
「両用砲は狙いを敵の空中駆逐艦へ向けろ。雷撃させるな」
「了解」
その空中駆逐艦の突撃をアンサラーと3隻の空中大型巡航艦を口径127ミリ両用砲で粉砕しようとする。この小さな口径の砲でも装甲などないも等しい空中駆逐艦にとっては脅威となるのだ。
「両用砲、撃ち方始め!」
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