奪還計画ハンプティ・ダンプティ作戦
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──奪還計画ハンプティ・ダンプティ作戦
魔獣猟兵はアーケミア連合王国の保有していた空中戦艦ヴィクトリーと空中空母クイーン・エリザベスを強奪した。
これに対し連合軍は行動を起こそうとしている。
「我々は魔獣猟兵に奪われた飛行艇2隻を奪還する作戦に参加します」
葬送旅団司令部となっているアンスヴァルト艦内でシーラスヴオ大佐が告げた。
「どこに運ばれたのか分かったの?」
「ええ。アーケミア連合王国内の暗黒地帯となっているレッドガルフという都市です。アーケミア連合王国のコマンドが目標を確認しました」
シャーロットが尋ねるのにシーラスヴオ大佐が答える。
「我々は飛行艇奪還を目指すハンプティ・ダンプティ作戦に飛行艇の直接奪還部隊として参加します。詳細な作戦はまだ知らされていませんが、準備してください」
「了解です!」
こうしてアレステアたちにも知らされたように魔獣猟兵に奪われた空中戦艦ヴィクトリーと空中空母クイーン・エリザベスの奪還作戦が決定された。
計画名はハンプティ・ダンプティ作戦。
作戦を担当するのは葬送旅団の他にエスタシア帝国空軍第669特殊作戦飛行隊“グリンカムビ”、アーケミア連合王国空軍第1空挺師団、同空軍特殊降下連隊、同陸軍第22長距離偵察連隊。
またエスタシア帝国空軍とアーケミア連合王国空軍が合同で編成し、アーケミア連合王国中将ロバート・カートレット司令官が率いるドルフィン空中艦隊。
それらを統合任務部隊“クイーン・ハート”の指揮下に収める。統合任務部隊“クイーン・ハート”を指揮するのはエスタシア帝国陸軍デイビッド・アジェンデ大将。
「ハンプティ・ダンプティ作戦について諸君に説明する」
統合任務部隊“クイーン・ハート”の司令部が設置されたレッドガルフに近い飛行場にてアジェンデ大将が作戦に参加する指揮官たちにブリーフィングを始めた。
「まず最初に明確にしておくが、この作戦の最優先目標は奪還でなく、無力化である。それが意味するのはあくまで敵による飛行艇の利用を阻止することだ」
「閣下。奪還が困難であれば破壊せよ、と?」
「そうだ。敵の手に残しておかないことが重要だ。奪還は副次目標であって主目標ではない。敵に奪い返されそうになれば破壊せよ。それは許可されている。アーケミア連合王国空軍司令部も納得した」
「了解」
グリンカムビの指揮官がアジェンデ大将の説明に頷く。
「では、具体的な作戦について説明する」
アジェンデ大将の言葉を受けて作戦参謀が前に出た。
「我々は明日の深夜0145より作戦を開始。まず先行している特殊作戦部隊が魔獣猟兵の地上レーダーに対してサボタージュを実施。その後ドルフィン空中艦隊所属の電子戦闘艦がジャミングを実施して作戦空域に進出」
作戦参謀が説明を行う。
「空域に到達した後に帝国陸軍葬送旅団と連合王国空軍特殊降下連隊が降下を行い降下地点を確保。そののちに連合王国空軍第1空挺師団隷下第11空挺連隊が降下します」
「強襲になりそうですが」
「ええ。敵の察知を完全に避けることは不可能です。ですのでドルフィン空中艦隊が可能な限りの航空支援を実施します。周辺を偵察した飛行艇によれば、周辺空域に魔獣猟兵の空中艦隊は存在しないため支援は可能です」
シーラスヴオ大佐が懸念を示すのに作戦参謀が答える。
「第12空挺連隊、第13空挺連隊は緊急即応部隊として基地で待機。第22長距離偵察連隊は戦闘捜索救難部隊として上空で待機」
全戦力をいきなりには投入しない。何が起きるか分からないのだから。
「飛行艇の奪取か破壊後は降下艇で再びドルフィン空中艦隊に合流し脱出となります」
そして、作戦参謀が説明を終えた。
「この計画は敵が飛行艇を地上にとどめていることは前提になっていますが、敵が飛行艇を離陸させた場合はどうなるのです?」
そう懸念を示すのは第11空挺連隊連隊長の空軍大佐だ。
「その場合はドルフィン空中艦隊が撃墜を目指します。降下作戦は中止され、飛行艇同士の航空決戦で敵艦を叩きます」
「了解」
先ほどアジェンデ大将が述べたように作戦目標は奪われた飛行艇の無力化であって奪還ではない。撃墜し、破壊してしまってもいいのだ。
何故降下作戦を行って奪還を目指すかと言えば、今はどの国にも飛行艇の余裕などないからに他ならない。
奪われた空中戦艦ヴィクトリーと空中空母クイーン・エリザベスはどちらも最新鋭艦。奪還できるならばしてほしいというのがアーケミア連合王国空軍司令部の意見だった。
「セント・フォートから始まった帝国と連合王国の本格的な合同作戦だ。無事に成功させ、両国の結束が確かであることを内外に示したい。健闘を祈る」
「了解です、閣下」
この作戦は魔獣戦争が始まって初の帝国と連合王国の合同作戦という意味合いもあり、この作戦の成功によって両国が確かな結束を示せるかが課題となっている。
「それでは作戦準備に」
ハンプティ・ダンプティ作戦に向けて部隊が動き出した。
葬送旅団はアンスヴァルトへと乗り込み、そのアンスヴァルトはドルフィン空中艦隊の指揮下に入る。
アーケミア連合王国空軍第1空挺師団第11空挺連隊は同じくドルフィン空中艦隊隷下の大型輸送飛行艇に。戦闘捜索救難を担当する第22長距離偵察連隊は空中空母イラストリアスに乗り込み、同空母搭載の小型飛行艇にて待機。
ドルフィン空中艦隊は空中戦艦2隻、空中空母1隻、空中巡洋艦2隻、空中駆逐艦2隻と輸送飛行艇、アンスヴァルトで編成される小艦隊だ。あまり規模の大きな空中艦隊は隠密性を損なう。
「いよいよですね。緊張してきました」
「フリードリヒ・デア・グロッセに突っ込んだ時よりかい?」
「えっと。それはどうでしょう?」
アレステアは医務室でルナと一緒に作戦前の時間を過ごしていた。
「君が怪我をせずに無事に帰ってきてくれることを祈るよ。君は本来ならば守られるべき立場の人間なんだから。それなのに守るべき人間が君を戦いに投じている」
「いいんです。僕はゲヘナ様の眷属に選ばれたんですから」
「そうか……」
アレステアが気にしていないように答えるのにルナはただそう呟く。
「しかし、もし君が辛くなったらちゃんと人にそう伝えるんだよ。君は子供だから許される。子供が殺し合いに参加しなくちゃいけないなどいうのはおかしいんだから」
「けど、僕は……」
「神の眷属であっても、だ。今はもう何もかもが戦いの狂気に飲み込まれた旧神戦争時代ではないんだ」
ルナはアレステアを悲し気に見つめてそう言った。
「先生は頑張れとは言わないんですね。英雄になれとか」
「そんな無責任なことは言えないし、できない。帝国は大勢のためにという名目で君ひとりを犠牲にしているようなものだ。君を英雄として士気を上げる。意味は分かるが受け入れがたいものだよ」
「ちょっと嬉しいです。実は英雄だとかそういうのは不安で……」
「当然だ。英雄に権利はない。あるのは義務だけ。戦い続ける蹴ることを、英雄として高潔であることを求められ続ける。酷いものだよ」
ルナがアレステアにそう言い、そっとアレステアの頭を撫でた。
「だから、私の前ではひとりの少年でいい。英雄にならなくてもいいんだ」
「ありがとうございます、先生」
アレステアはルナのその言葉に笑みを浮かべた。
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