戦艦強奪
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──戦艦強奪
カーマーゼンの魔女にして炎を操るヴァレンティーナと戦いを繰り広げるアレステア。“月華”の刃がヴァレンティーナを狙い、ヴァレンティーナが操る炎がアレステアを狙う。どちらも脅威だ。
「飛行艇は渡しません!」
「ならばやってみな! 叩きのめしてやるよ!」
アレステアは必死にヴァレンティーナに肉薄し、ヴァレンティーナは炎で攻撃すると同時に身を守る。
「なるほど! セラフィーネが気に入るわけだ! こいつはなかなか!」
すかさず斬撃を繰り返すアレステアをいなしながらヴァレンティーナがからからと笑い、警棒を振れば炎が舞う。
「やられません!」
アレステアは炎を“月華”を使って切り開きながらヴァレンティーナに迫る。
「筋は悪くないがいまいち体系化されていない。変な癖がついてるな。まともな訓練を受けたわけではなく、実戦で得た経験で戦ってるってところかね。戦い方としてはベターだが、ただその動きはな──」
ヴァレンティーナが警棒を振ると炎がアレステアに直撃。
「読めるんだよ。戦い続けて来た人間にはあまりにも分かりやすくね!」
「くっ……!」
攻撃が直撃したアレステアが体が炎に焼かれながらも、なおも戦おうと“月華”で続く攻撃を阻止しようとする。
「タフだねえ。流石は死を司るゲヘナの眷属だ。しかし、あたしにそのご立派な魔剣の刃は届かない。だから、あたしは負けない。オーケー?」
「分からないですよ、まだ!」
アレステアは嘲笑うヴァレンティーナに突撃。
「だから、お前の動きは読めちゃうんだよね。そら!」
「そうですか!」
ヴァレンティーナが警棒を向けるのにアレステアが瞬時に動く。炎が空を切って熱を発し、攻撃を回避したアレステアがヴァレンティーナに肉薄した。
「おっと! マジかよ! こいつはまた!」
「覚悟です!」
アレステアの“月華”がヴァレンティーナを捕らえ、その左わき腹から右肩までの肉体を引き裂いた。鮮血が舞い、肉は飛び散り、炎が噴き出す。
「やった……!」
確実にヴァレンティーナを仕留めてアレステアが笑ったときヴァレンティーナの死体から炎が舞い起こった。
同時に抱擁するように炎がアレステアを包む。
「やーれやれ。また肉の体を失っちゃったよ。で、ハグのサービス!」
「ぐうっ……!」
人の形をしてアレステアを焼きながら抱擁する炎からはヴァレンティーナの声がした。つまり、この炎はヴァレンティーナだ。
「離れてください!」
アレステアが炎を斬って離脱する。
「あなたは一体……!?」
「あたしが何年生きてると思ってるんだよ。旧神戦争時代からずっと生きてるんだぞ? それもセラフィーネみたいな神の血が混じった半神でもなく、カノンのように身体操作ができるほど器用でもない」
人の形をした炎がアレステアに語る。
「というわけで魂を永遠に燃え続ける炎に移した。この炎は決して消えない。つまり、あたしもお前と同じ不死の化け物ってことさ!」
「なら、僕があなたを止めます!」
炎の体に移ったヴァレンティーナとアレステアが衝突。
「シャーロットお姉さん! レオナルドさん! 僕がこの人を押さえている間に飛行艇を奪還してきてください!」
「分かりました! 任せましたよ、アレステア君!」
アレステアはヴァレンティーナを倒しきれないと悟り、ヴァレンティーナを自分が足止めすることでシャーロットやレオナルドたちに飛行艇を奪還させることを選んだ。
「残念だけどそうはいかないんだよなあ」
ヴァレンティーナがそう笑った時重低音の音が周囲に響いた。
「間に合わなかった!」
アーケミア連合王国空軍の空中戦艦ヴィクトリーと空中空母クイーン・エリザベスがドックから離陸を始め、空に飛び立っていく。
『全部隊へ! 現在上空を飛行中の空中戦艦ヴィクトリー及び空中空母クイーン・エリザベスは魔獣猟兵に乗っ取られている! これより友軍空中艦隊が撃墜を試みる! 空中戦に警戒し、離脱せよ!』
「やられた。退避だ、退避!」
第12空挺連隊の将校がそう叫び、部下を撤退させようとする。
空中艦隊が飛行艇同士で空中戦を始めれば流れ弾や墜落した飛行艇で地上は危険になる。そのため今まさに空中戦艦ヴィクトリーと空中空母クイーン・エリザベスがいるこの場所は危ないのだ。
「じゃーな、ゲヘナの眷属! あたしの任務は終わりだ! さらば!」
そして、ヴァレンティーナも空間操作で姿を消した。
それから空中戦艦ヴィクトリーと空中空母クイーン・エリザベスを撃墜するために派遣されてきたアーケミア連合王国空軍の飛行艇が上空に現れる。
空中戦艦2隻、空中駆逐艦4隻の空中艦隊だ。
「どうします!?」
「逃げないと巻き込まれるよ! 急いで脱出だ!」
「了解です!」
シャーロットが急かしてアレステアたちが工業地帯から脱出を試みる。
『目標、敵空中戦艦。撃ち方始め!』
まだアレステアたちが脱出できる前にアーケミア連合王国空軍の空中艦隊が砲撃を始めた。空中戦艦の口径38センチの主砲が火を噴き、魔獣猟兵に奪われた空中戦艦ヴィクトリーに砲弾が飛翔する。
「このまま撃墜できるんでしょうか……?」
「分からないけど今落とされたら不味いよ!」
アレステアたちは空を見上げながら徹底を続ける。
『敵戦艦、夾叉!』
アーケミア連合王国空軍の空中艦隊は確実に奪われた飛行艇を撃墜しようとしていた。砲弾が近接信管によって敵飛行艇の周囲で爆発し、集中して狙われている空中戦艦ヴィクトリーの両用砲などが損傷する。
「友軍が撃墜しそうですよ!」
「それならいいのですが、どうに嫌な予感がします」
アレステアが友軍空中艦隊が敵を追い詰めているのを見て声を上げるが、レオナルドは渋い表情を浮かべていた。
『上空に不審な現象が発生しています!』
その時だ。空中に空間操作の亀裂が生じ、それが大規模に広がるとそこから巨大な空中空母が姿を見せた。魔獣猟兵の空中空母キャスパリーグだ。
『こちら空中空母キャスパリーグ。これよりそちらを援護する』
空中空母キャスパリーグはすぐさま無数の亜竜を展開し、亜竜たちがアーケミア連合王国空軍の空中艦隊に襲い掛かった。
大きなものとなると空中駆逐艦程度はある亜竜の攻撃を前に空中駆逐艦が瞬く間に壊滅した。またアーケミア連合王国空軍の空中戦艦は口径127ミリ両用砲や口径40ミリ機関砲で撃退を試みるも押されている。
その間に魔獣猟兵が奪った空中戦艦ヴィクトリーと空中空母クイーン・エリザベスはともに逃走し、空中空母キャスパリーグも撤退を始めた。
『クソ。逃げられるぞ! 亜竜どもめ!』
既にアーケミア連合王国空軍の空中戦艦はその主砲の射程圏外に2隻の強奪された飛行艇を逃しており、もはや撃墜することはかなわなかった。
「敵に逃げられてしまいました……」
「けど、魔獣猟兵は飛行艇を奪ってどうするつもりなんだろうね? そのまま使うのは難しいはずだよ。メンテナンスや砲弾の規格を合わせるのは難しいし」
「それもそうですね。ではなぜ……」
アレステアたちが疑問に思う中、魔獣猟兵は去っていった。
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