武器の交換協定
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──武器の交換協定
エスタシア帝国とアーケミア連合王国はとある協定を結んだ。
それは武器の交換を行う協定。
「つまり、エスタシア帝国は榴弾砲や戦車を輸出して、アーケミア連合王国はその代金として飛行艇を帝国に輸出するというわけですか?」
「その通りだ、我が友。この協定のおかげで帝国空軍が開戦から被って来た被害が補填されるかもしれない」
アレステアの問いに引き続き葬送旅団の護衛を受けているハインリヒが返した。
エスタシア帝国とアーケミア連合王国はとある協定を新たに締結した。それがアレステアとハインリヒが言った武器の交換である。
帝国は小火器や榴弾砲、そして戦車や装甲車という装備については連合軍の中で最大の生産力を有する。しかし、飛行艇となるとアーケミア連合王国の方が優位に立つ。
そこで帝国はアーケミア連合王国が生産を苦手とする武器を輸出し、アーケミア連合王国からは飛行艇を輸入しようというわけだ。
「既に小火器や榴弾砲は輸出されたとのことだ。飛行艇についても最初のものが輸入されることになった。空軍は乗員を派遣して、習熟訓練を始めている」
「早いですね」
「協定締結前にある程度話し合っていたらしい。だから、協定発効後すぐに動けたいうことだ。そして、我々もこの協定のために働くことになる」
アレステアが少し驚くのにハインリヒがそう言った。
「これからこのアンスヴァルトでアーケミア連合王国の大規模な飛行艇のドックがあるセント・フォートに向かう。そこで最初の飛行艇の引き渡しを私とジョージ6世陛下、そしてアーケミア連合王国空軍参謀長と式典をで祝う」
「ああ。だから、飛行艇で移動しているのですね」
「そうだ。新しい飛行艇が帝国空軍に加わぞ」
「それは何よりです!」
ハインリヒとアレステアがそう言葉を交わしている間にアンスヴァルトはアーケミア連合王国の産業地帯のひとつセント・フォートに向かった。
『間もなく本艦は着陸する。総員準備せよ』
そして、アンスヴァルトはセント・フォート空軍基地へとゆっくりとアプローチし、その滑走路に着陸。
「到着しましたね」
「さて、仕事をしなければな」
以前と同じようにハインリヒから飛行艇を降り、それからアレステアたちが続く。
「ようこそ、ハインリヒ陛下」
「ああ。歓迎に感謝する」
アーケミア連合王国空軍参謀長の出迎えを受けてハインリヒが握手を交わす。
「それではこちらへどうぞ」
報道陣に撮影を受けながらもハインリヒたちは空軍参謀長の案内を受けて、セント・フォート空軍基地をバンカーへと向かう。
「今回、帝国に輸出する空中駆逐艦です。王国空軍ではこの空中駆逐艦はE級空中駆逐艦と呼ばれています」
「立派なものだな」
E級空中駆逐艦は口径127ミリ2連装両用砲4基と空中魚雷を備えた飛行艇だ。
「この飛行艇はどれほど輸出されるのだろうか?」
「まず8隻。それから順次生産が行われるごとに4隻ずつです」
空軍参謀長はハインリヒにE級空中駆逐艦について詳しく説明を行った。
「陛下。そろそろ式典となります」
「うむ。では、向かおう」
付き添っている帝国外務省の職員が言うのにハインリヒが頷く。そして、ハインリヒはアレステアたちを連れて式典が行われる空軍基地内の閲兵場に向かった。
「いっぱい人が来ていますね」
「マスコミみたいだよ。確かに取り上げる価値があるニュースだから当然だけど」
空軍基地の閲兵場には報道陣が押しかけていた。
「そろそろ式典が始まりますが、僕たちはどうすれば?」
「ここで待機するように命じられています。待機しましょう」
アレステアたちは閲兵場近くに設置された天幕で待機している。
それから閲兵場で帝国への飛行艇輸出を祝う式典が始まった。
「今、エスタシア帝国皇帝ハインリヒ陛下とジョージ6世陛下が握手を交わし、両国のさらなる友好について意見を述べられるところ──」
式典がまだ始まったばかりの時点。そこで爆発音が鳴り響いた。
「なんですか!?」
「急いで閲兵場へ!」
「はい!」
爆発音を聞いたアレステアたちがすぐさま閲兵場のハインリヒの下へ。
「基地警備、基地警備! 何が起きている! 報告せよ!」
ハインリヒとジョージ6世はアーケミア連合王国空軍から派遣された第1空挺師団の兵士たちによって守られていた。
「爆発音がしましたが何が起きたんですか!?」
「分からない! 状況を把握しようしている最中だ! 魔獣猟兵によるテロの可能性もある! 戦闘配置に!」
「了解です!」
アーケミア連合王国空軍第1空挺師団の将校の言葉にアレステアたちが周囲を油断なく見張って警戒を行う。
「クソ。いったい何が──」
突如、アーケミア連合王国空軍第1空挺師団の兵士の頭が爆ぜた。
「狙撃だ! 狙撃だぞ!」
「遮蔽物! 遮蔽物!」
混乱が生じ、兵士たちが遮蔽物に逃れようとする。
「また狙撃だ!」
「軍曹殿! レイモンドが撃たれました!」
兵士のひとりが足を撃たれて身動きできなくなっていた。出血が続いており、放っておけば死んでしまうだろう。
「隊長さん。狙撃手の位置分かるよ。迫撃砲か何かない?」
シャーロットが“グレンデル”を握ってそう言う。
「ない! 煙幕弾もない! 狙撃手を潰す手段はない!」
「そりゃ参ったね。狙撃手を叩かないと身動きできない」
第1空挺師団の将校が叫び、シャーロットが首をすくめる。
「シャーロットお姉さん、隊長さん。僕が陽動を行いますのでその間に」
「何を言ってるんだ。馬鹿なことを言うな」
「大丈夫です。では、お願いしますね!」
アレステアの事情をよく知らない第1空挺師団の将校が眉を歪めるのにアレステアは一方的にそういうと負傷して倒れている兵士に向かって走る。
すぐさま銃弾がアレステアの頭を貫いた。
「なんてことだ!」
「大丈夫! 今だよ!」
狙撃手がアレステアを狙っている隙に即座にシャーロットが“グレンデル”を構えてアレステアを狙撃した狙撃手を捕捉し、そして口径14.5ミリ大口径ライフルを放つ。
狙撃手が頭部を貫かれて沈黙。
「よし。狙撃手は沈黙、と」
「しかし、犠牲が出てしまった」
「アレステア少年なら大丈夫」
シャーロットがそう言った後、狙撃手に撃たれたアレステアが立ち上がった。
「シャーロットお姉さん! 狙撃手は叩けましたか!?」
「叩けたよ! 戻っておいで!」
アレステアが尋ねるのにシャーロットがそう返してくる。
「この人はまだ大丈夫ですから衛生兵を!」
「分かった! 準備する! しかし、今撃たれたはずでは……」
第1空挺師団の将校は困惑しきりながら衛生兵を手配する。
「僕はゲヘナ様の眷属ですから」
アレステアはそんな第1空挺師団の将校に微笑んでみせた。
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