陸軍将校にして貴族、そして革命家
……………………
──陸軍将校にして貴族、そして革命家
アレステアたちはアンヴァル作戦の発動によって全面攻勢に出始めた魔獣猟兵の死霊術師であるアラン・ハルゼイを暗殺するためのアインボルト要塞に潜入。
「屍食鬼が複数いますね」
「ちゃちゃっと突破してアラン・ハルゼイを殺して逃げよう」
「はい」
シャーロットがグレンデルを構えてそう言い、アレステアも頷く。
やはりここでも武装した屍食鬼が警備についているが、何度もこの手の屍食鬼の相手をしたアレステアたちにとってはもはや敵ではない。
「安らかな眠りを!」
アレステアたちは屍食鬼の警備を突破にアインボルト要塞内部を進む。
「アレステア君! 死霊術師の位置は分かりそうですか!?」
「はい! 気配を感じます!」
レオナルドが尋ねるのにアレステアはそう返して突き進む。
「この先です!」
アレステアは城塞内の司令部であった部屋の扉を蹴り破って突入。
「いました……!」
部屋の中にはアレステアたちが目標として示されていたスピアヘッド・オペレーションズ所属の傭兵にして死霊術師アラン・ハルゼイの姿があった。
アラン・ハルゼイは50台前半ごろの男で若くはない。白髪混じりの頭をオールバックにしており、貴族らしい口髭を蓄えている。
傭兵スタイルのオリーブドラブのシャツに黒いカーゴパンツ。タクティカルベストを身に着け、腰には口径9ミリの魔道式自動拳銃だ。
「君たちは……」
アラン・ハルゼイは困惑した様子でアレステアたちを見る。
「アラン・ハルゼイさん! あなたを拘束しに来ました。大人しく降伏してください」
「ああ。なるほど。君たちは帝国の葬送旅団という部隊なのだろう。噂には聞いていたが、本当に子供を使っているとは……。信じられん。大人が子供を戦場に送るなど」
「僕はゲヘナ様の眷属です! ただの子供ではありません!」
「そういうところがまさに子供だよ」
アレステアの主張にアラン・ハルゼイは首を横に振った。
「帰るんだ、ゲヘナの眷属という少年。戦いは大人に任せて、君は家に帰りなさい。私は子供を傷つけるつもりはない」
「すでに大勢の人を傷つけておいて何を言うんですか。僕はゲヘナ様の眷属としてその役割を果たさせてもらいます!」
アラン・ハルゼイが促すがアレステアは応じない。
「君は思い違いをしているようだ。我々が邪悪な存在とでも言われたかね? 我々が好き好んで人々を屍食鬼に変え、人を殺しまわっていると」
「実際にそうではありませんか! 魔獣猟兵という世界の秩序を乱す存在に屍食鬼を率いて参加し、彼らを助けているのでしょう?」
「その世界の秩序というのはどうやって決められた?」
「それは……」
不意にアラン・ハルゼイが尋ねるのにアレステアの言葉が詰まった。
「世界の秩序を決めたのは世界を支配しているものたちだ。階級の上層に位置するものたち。貴族や王族、皇族。権力者たちが自分に都合のいい秩序を決め、それを私たちに押し付けている」
アラン・ハルゼイが語り始める。
「神々の言葉だと彼らは言った。だが、神々も結局は自分たちとの契約を履行するために必要な人間しか見ていない。決定権を持たない弱いものたちは相手にされない。誰からも無視されている」
「そんなことはないはず、です」
「そうなのだよ。私は見て来た大勢の力なきものたちが相手にされず、見捨てられるのを。アーケミア連合王国でもエスタシア帝国でも。常に貧しい少数派は無視された」
アレステアがあまり断言できずに反論するがアラン・ハルゼイはそう続けた。
「どうすれば少数派が認められるのか。それは既存の権力者たちが作った秩序を破壊するしかないのだ。この世界の秩序は富めるものをより富ませ、貧するものをより貧する。であるならば私は魔獣猟兵とともに秩序を破壊しよう」
「それで大勢が死ぬことになってもですか?」
「犠牲を容認しなければならないときもある。事実、帝国は君のような子供を犠牲にしようとしてるではないか」
「僕は犠牲者ではありません! 自らの意志で戦っているのです!」
「私もそうだ。魔獣猟兵も全員がそうだ。だが、君も私も好き好んで相手を殺しているわけではないが、結果的には敵と見做した人間を殺して来た。その犠牲を出したことの罪を私たちは背負うのだ」
「罪を……」
アラン・ハルゼイの言葉にアレステアが険しい表情を浮かべる。
「いずれ私たちはその罪を前に罪悪感を覚え、苛まれ、そしてもうそれを償う方法がないことに気づくだろう。それでも私は戦うし、敵は殺す。今日100名が犠牲になろう明日100万人が救われるならばそれは正義だ」
「そんなことはないでしょう! 人はひとりでも重要です! その人の家族がいて、その人の大事な人生がある! それをただの数でしか価値を見ないのは間違っています!」
「そうだな。だが、君も私を殺して大勢を救うつもりではないのか? 私たちの同志アルマ・ガルシア中佐を殺して、大勢を救ったように。彼女にも君が言うように人生があったのだよ」
アラン・ハルゼイがアレステアの言葉にそう言い返した。
「アレステア君。それ以上話を聞く必要はありません。敵を倒せと私たちは命令されているのです。これは私たちの意志で行う行為ではありません。軍が、国家が命じるところなのです」
「そうですね。やらなければなりません……!」
アレステアが“月華”の黒い刃をアラン・ハルゼイに向ける。
「結局はそうなるのか。そうだな。言葉だけで物事が解決するならば、この戦争だっておきはしなかった。人間は所詮獣だ。そうであるならば──」
アラン・ハルゼイが手を振るとこの司令部に繋がっている部屋から複数のデュラハンが出現した。口径12.7ミリの重機関銃を装備したデュラハンたちがアレステアたちを狙い、アラン・ハルゼイがその様子を見つめる。
「我々の前に立ち塞がるならば倒すのみ。やれ!」
アラン・ハルゼイが命じ、デュラハンが一斉に射撃を開始。
「やります! シャーロットお姉さん、レオナルドさん! 援護をお願いします!」
「了解!」
デュラハンを相手にアレステアたちが戦闘を開始した。
「私はここで諦めるわけにはいかないのだ。魔獣猟兵たちの狂った思想に同意はしていないが、今の秩序は破壊され、もう一度作り直させるべきなのだから」
「暴力で作った秩序なんていいものではありません!」
「今の秩序も旧神戦争で神々が振るった暴力によって成り立ち、そして暴力で権力を得た権力者たちによって作られたものではないか」
「そこに人々の声が反映されるようになったではありませんか!」
「それでも弱者は無視されたままで、結局は権力者たちが力を握っている」
「それを変えたいならば声を上げればいいでしょう!」
デュラハンを撃破しながらアレステアがアラン・ハルゼイに叫ぶ。
「声をこれまで上げなかったとでも思うのかね? 私は声を上げた。だが、権力者たちはそんな私を国家の敵として逮捕しようとした。私の考えは危険で、今の権力者たちにとって利益にならないからという理由で!」
アラン・ハルゼイが大声でそう言い、デュラハンの攻撃が加速する。
「それでも暴力以外の方法はあったでしょう!?」
「他にどうしろというのだ。今の世界は生まれたときから貧しいものと富めるものに分かれてしまっている。出自によって差別される世界なのだ」
アレステアはさらにデュラハンを撃破。
「貧しいものたちは我が子に満足な教育を受けさせられず、子供はそれにより貧しくなる。それは延々と連鎖している。そして、そのようなことを貴族、王族、皇族がそれ肯定しているではないか」
「だからって……!」
「私の行動は暴力的で、同意が得られないかもしれない。それでも私はやり遂げる。誰かが血を流し、流させねばならない。であるならば、その罪は私が背負おう」
そこにさらにデュラハンが押し寄せる。
「そんな身勝手なことはさせません!」
アレステアはデュラハンに向けて突撃。
……………………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます