アインボルト要塞強襲
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──アインボルト要塞強襲
アレステアたちはブラウアップグルント領にて魔獣猟兵の死霊術師アラン・ハルゼイの暗殺を試みていた。
「偵察部隊からの報告だ。アラン・ハルゼイは未だにアインボルト要塞にいる」
「では、予定通り?」
「ああ。予定通りだ」
帝国国防情報総局の準軍事作戦要員であるブロイアー大佐がアレステアたちにこの暗殺作戦を予定通り実行することを告げた。
既にゴードン少佐が指揮するシグルドリーヴァ大隊は先行して侵入しており、ゴードン少佐たちが混乱を引き起こし、そこにアレステアたち主力が突入する予定だ。
「全軍準備完了しております、大佐殿」
「よろしい。アルデルト中将閣下の準備は?」
「できているとのことです」
「では、前進開始だ」
カラカル装甲兵員輸送車で機械化されたケルベロス装甲擲弾兵大隊が前進を開始。
「アルデルト中将閣下。ケルベロス装甲擲弾兵大隊司令部より前進命令です!」
「よろしいっ! 前進せよ! 進むのだ! 森を駆ける狼の如く!」
アイスベア中戦車の車長席に座っているアルデルト中将が指示を飛ばす。
『前進、前進!』
35トンの重量があるアイスベア中戦車があらゆる場所での行動を想定した幅の広い無限軌道で地面を駆ける。
「今のところ問題なしです」
「データの収集を続けるのだ。ひとつの不便さも見逃すな。これはいずれ前線の兵士たちが扱うようになるのだからな!」
アイスベア中戦車に乗り込んでいるのはいずれもゼータ・アルデルト設計局所属の帝国陸軍将兵であり、彼らは実戦における戦車のデータ採取に余念がない。
「これは便利ですけど目立ちますね……」
アレステアたちはカラカル装甲兵員輸送車に乗ってアインボルト要塞を目指していた。
カラカル装甲兵員輸送車はクルー3名で兵員室には最大12名の兵員を収納でき、乗車したままの戦闘を可能にするために上部にハッチが付いている。
アレステアはそのハッチからブラウアップグルント領を進むケルベロス装甲擲弾兵大隊の勇ましい突撃を見ていた。
「あれ、凄いね、アレステア少年。アルデルト中将の持ってきた奴だよ」
「ええ。凄く強そうです!」
アイスベア中戦車はケルベロス装甲擲弾兵大隊の隊列の戦闘を進んでおり、その猛々しい鋼鉄の獣をアレステアとシャーロットが感心して眺める。
『ヴィクトール・ゼロ・ワンより全部隊。アインボルト要塞に付近に大規模な敵戦力が存在している。警戒せよ』
『こちら
『位置についている。いつでもいいぞ』
『これより火力支援を実施する』
そして、シグルドリーヴァ大隊からの報告を受けてブロイアー大佐がブラウアップグルント民主同盟軍に支援を要請。
「装填!」
ブラウアップグルント民主同盟軍は旧式の口径75ミリ榴弾砲を複数保有しており、偽装した陣地にそれを展開させると砲撃を開始した。
『
『了解』
魔獣猟兵が突然の砲撃を前に混乱するのを見ながら前線観測班が慎重に射撃を誘導し、魔獣猟兵部隊の陣地を狙わせる。
そして、直撃。
「うわっ──」
魔獣猟兵の人狼や吸血鬼、そして屍食鬼が陣地にあった機関銃などとともに吹き飛び、砲弾の爆発が彼らを引き裂いた。
「友軍が始めたぞ。俺たちも行動開始だ」
「了解です」
ゴードン少佐の指揮するシグルドリーヴァ大隊にはアリーチェも加わり、アインボルト要塞における破壊工作を実行しようとしていた。
狙いは複数があるがまず司令部機能を奪うための通信機の破壊。それから弾薬などの物資。そしてアインボルト要塞を守る高射砲だ。
「アリーチェ。先頭を頼むぞ」
「は、はい」
アリーチェはエトーレを連れて前方を進み、アインボルト要塞に侵入すると最初の目標である通信機を探す。通信機は小さな無線などではなく、巨大なトラックに積み込んだものが狙いだ。
「確認しました。軍用大型通信指揮車両です……」
「よろしい。いつまでも隠密を奴必要はない。派手にやるぞ」
「了解」
アリーチェはゴードン少佐の指示で魔道式猟銃を構えて、通信指揮車両の付近で警備に立っている魔獣猟兵の歩哨を狙う。
「──!?」
正確な射撃でアリーチェは魔獣猟兵の歩哨を撃破。ボルトを動かして排莢と装填を行い、続いてすぐさま次の敵である陣地の機関銃の射手を狙い射撃。そして、撃破。
「行け、行け! 突撃だ!」
「了解!」
そして、歩哨と機関銃が排除されたところにシグルドリーヴァ大隊が突撃。
「敵襲! 敵襲!」
「クソ! 人間どもだ! 殺せ!」
魔獣猟兵の人狼や吸血が集まり、シグルドリーヴァ大隊を迎撃しようとするが、そのときブラウアップグルント民主同盟軍の砲撃が影響し、応戦しようとした部隊が砲撃によって吹き飛ばされてしまった。
「爆薬セット!」
「爆破!」
その隙にシグルドリーヴァ大隊は通信指揮車両を爆破。
「次の目標に向かえ! 行け、行け!」
ゴードン少佐が命令を下し続け、シグルドリーヴァ大隊が暴れまわる。
そして、その頃ケルベロス装甲擲弾兵大隊も突入しようとしていた。
『全部隊、間もなくアインボルト要塞に突入する。備えろ!』
シーラスヴオ大佐からの命令が響き、ケルベロス装甲擲弾兵大隊のカラカル装甲兵員輸送車が加速し、ハッチから兵士たちが身を乗り出し、武器を構える。
『攻撃準備射撃終了。要請があればいつでも火力支援は可能だ』
ブラウアップグルント民主同盟軍が行っていた砲撃が止まり、同時にアレステアたちとケルベロス装甲擲弾兵大隊は要塞を囲うフェンスを破壊して突入した。
「な、なんだあれは!?」
「落ち着け! 応戦するんだ!」
旧神戦争の英雄である魔獣猟兵たちも装甲車や戦車などは見たこともなく混乱が一斉に広がり、バラバラの応戦が始まる。
「砲手! 目標を指示するので攻撃せよ 私は機関銃を使う!」
「了解です、中将閣下!」
アイスベア中戦車は戦場に突入し、人間が旧神戦争の戦士たちに唯一優れている点を示した。すなわちこれまで積み重ねられてきた人類の科学技術の力を。
「敵の歩兵が前方にに多数! 弾種榴弾、撃て!」
「発射!」
アイスベア中戦車の前方に展開する魔獣猟兵の歩兵たちに70口径75ミリ砲が火を噴いた。榴弾が放たれ、着弾すると同時に爆発が生じる。
「クソ! あれを撃破しろ!」
「重機関銃も通用しないぞ!? どうすれば……!」
これまで真っ当な戦車など存在しなかったこのミッドランにおいて対戦車砲などは存在しない。口径47ミリの速射砲にも徹甲弾などなく、榴弾をいくら撃ち込もうと全く意味がなく、アイスベア中戦車は攻撃を続ける。
「撃て、撃て! 敵を倒せ!」
「アルデルト中将閣下! こちらの歩兵を支援してください!」
「む! 分かった! 友軍歩兵を援護せよ!」
期せずしてアイスベア中戦車の随伴歩兵となっていたケルベロス装甲擲弾兵大隊の将兵が悲鳴を上げるのにアルデルト中将が支援に回った。
随伴歩兵の盾となり、随伴歩兵を狙う敵をその火力でねじ伏せる。
「凄い! あのアルデルト中将さんの兵器は強いですよ!」
「そうですね! 警備は彼らに任せて我々は作戦目標の達成を!」
「了解!」
戦車が暴れる中、アレステアたちはアインボルト要塞に侵入した。
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