暗黒地帯への降下
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──暗黒地帯への降下
防衛計画ヴァッサーシュパイアー作戦が発動された。
「艦長。出撃命令です!」
「よろしい。離陸を開始する」
アンスヴァルトに出撃命令が下され、待機していた空軍基地から発進。夜の闇の中を暗黒地帯における死霊術師アラン・ハルゼイがいる地点に向けて進む。
「ついに始まりましたね……」
「ええ。これで敵の戦力を削がなければ魔獣猟兵の大攻勢でどれほどの損害が出るか分かりません。責任重大ですね」
「本当に、そうです」
レオナルドが険しい表情をして言うのにアレステアが俯き、手を握り締めた。
「はいはい。そんなに気合入れ過ぎないの」
そんなアレステアとレオナルドの口にシャーロットがクッキーを突っ込んだ。
「気楽にやろうよ。意気込んだって敵地の真っただ中に飛び込んで相手の将校を殺すって馬鹿みたいな任務が変わるわけじゃない。作戦が失敗してもこんな作戦を命令した陸軍司令部の責任だよ」
「そう思っていいのでしょうか?」
「当然。あたしはいいって思ってる。ここまで無茶苦茶な命令の失敗は現場の責任じゃないよ」
アレステアが不安そうに尋ねるのとシャーロットがスキットルからウィスキーを流し込んで返した。
「皆さん。現地からの情報が入りました」
そこで司令部にシーラスヴオ大佐とゴードン少佐が入室する。
「敵の死霊術師がいる現在地はアインボルト要塞という帝国陸軍の基地です。古くからあったものが近代化され、今も使用されていましたが魔獣猟兵の撃バレてました。そして、その要塞にアラン・ハルゼイがいます」
「では、そこに乗り付けるのですか?」
「いいえ。現地の友軍は離れた地点での合流を望んでいます。敵は攻勢前の破壊工作に警戒しており、警備は極めて厳重であるとの報告も入っているため、そのせいでもあるのでしょう」
アレステアの質問にシーラスヴオ大佐が答える。
「合流地点は既にテクトマイヤー大佐にも連絡してありますので我々は友軍の確保している降下地点に降下し、そこからアインボルト要塞へと侵入します」
「侵入に当たっては我々シグルドリーヴァ大隊が先頭を務める。我々が露払いをするので安心して続いてくれ。だが、突入そのものはそちらに任せ、こっちは援護となる」
シーラスヴオ大佐とゴードン少佐がそれぞれ告げた。
「それからアルデルト中将には──」
「やあやあやあやあ! いよいよ任務なのだろう、諸君! 私のアイスベアの威力を見せるべき時が来たな!」
やけにハイテンションでアルデルト中将が司令部に入ってくる。アルデルト中将は礼服ではなく迷彩柄の戦闘服姿でパトロールキャップを被っていた。
「閣下。事前のご相談通り、私の指揮下に入っていただきます」
「ああ。君を信頼しているよ、シーラスヴオ大佐。君は近衛のエリートだ。対する私は機械いじりだけで階級を得てきたからな! はははっ!」
シーラスヴオ大佐が心配そうに告げるのにアルデルト中将は自虐なのか自慢なのかよく分からない返しをしてくる。
「では、ケルベロス装甲擲弾兵大隊も作戦には参加します。奇襲が第一ですが、敵の警備はあまりにも強固とされており、事実上の軽歩兵であるアレステア卿たちやシグルドリーヴァ大隊だけでは戦力不足です」
「アンスヴァルトからの航空支援はー?」
「アンスヴァルトの航空支援は最後の手段となります、シャーロット卿。我々にはアンスヴァルト以外に暗黒地帯から脱出する手段はないのですから」
「了解」
シーラスヴオ大佐の説明にシャーロットが頷く。
「ゴードン少佐さん。アリーチェさんも参加するのですか?」
「そうだ。うちに配属されているからな。あれは下手な隊員よりもサバイバル能力がある。頼りの綱だ」
アリーチェは今もシグルドリーヴァ大隊に所属している。
「それでは間もなく降下です。降下艇に乗り込む準備を」
「了解です!」
そして、降下に向けた準備が進み──。
『総員へ。降下予定地点だ。降下艇、発艦準備!』
テクトマイヤー大佐の声がアンスヴァルト艦内で響き、降下艇が発艦準備はいる。
アレステアたちも緊張しながら降下艇内で待機した。
『降下艇、発艦開始!』
そして、降下艇が出撃。
アンスヴァルトから出撃した降下艇が帝国国防情報総局の準軍事作戦要員が待機している効果予定地点へと効果を開始した。
夜の闇の中を訓練された操縦士たちが飛行する。
降下艇の中にはカラカル装甲兵員輸送車やアイスベア中戦車を輸送可能な大型降下艇も含まれていた。それらは重量のあるそれを運べる能力がある。
『降下地点を確認。着陸する』
降下艇は地上でライトが振られているのを確認して、その地点へと着陸。
『急いで降りてくれ! 次を運ぶ必要がある!』
「了解です!」
操縦士に促されアレステアたちが降下艇を降りる。
「葬送旅団ですね!?」
降下艇を降りると民兵スタイルの軍装をした女性が駆け寄って来た。顔にはドーランが塗られ、暗闇の中で浮かび上がるのは目だけだ。
「そうです! そちらは帝国国防情報総局の方ですよね!?」
「その通りです! 待っていました! こちらへどうぞ!」
アレステアが尋ねると帝国国防情報総局の準軍事作戦要員の兵士がアレステアたちを司令部へと案内した。
司令部は近くの村の神聖契約教会──その地下に設置されていた。
「ブロイアー大佐。葬送旅団の方々をお連れしました」
「予定通りだな」
地下にある司令部にはやはり民兵スタイルの装備と武装をした中年男性がいた。ここで活動する帝国国防情報総局の準軍事作戦要員たちは特に帝国軍の色を出さず、徹底して民兵になり切っているようだ。
「情報と協力が得られると聞いています。確認しても?」
「ああ。まず情報からにしよう」
シーラスヴオ大佐も司令部に姿を見せて質問するのにブロイアー大佐がアレステアたちに説明を開始した。
「まず目標のアラン・ハルゼイだが、依然としてアインボルト要塞にいる。だが、警備が厳重になっている。屍食鬼だけでなく、人狼や吸血鬼の姿も確認している。というのも理由がある」
ブロイアー大佐がそう言ってアレステアたちを見る。
「ここ最近の我々の行動だ。我々は魔獣猟兵のコマンド戦術に対し、同じようにコマンドを使った後方の破壊活動を繰り返して来た。おかげで向こうも用心するようになったというわけだ」
確かにアレステアたちを含めて帝国軍は魔獣猟兵のコマンド戦術をまねて、後方への浸透とサボタージュと暗殺を繰り返した。
そのせいで魔獣猟兵も警戒しているのだ。
「さらにそれに加えて我々帝国国防情報総局は現地住民のパルチザン化を進め、魔獣猟兵の支配に抵抗させている。これまで何度も輸送車列や物資集積基地を襲撃している。ここにいるのはブラウアップグルント民主同盟軍だ」
「その民兵は軍隊としてどれだけ当てになるんだ?」
「それなりに訓練されているが民兵は民兵だ。土地勘以外はあらゆる面で正規軍に劣る。だが、彼らは郷土のために戦うという帝国国民としての義務を果たしているし、勇敢だ。決して低くは評価しない」
「なるほど」
つまりブラウアップグルント民主同盟軍は装備と技能に欠けるものの、現地の地形に詳しく、そして士気は高い。
「警備には人狼と吸血鬼がいると聞きましたが、やはり人間以上の脅威ですか?」
そこでアレステアがそう質問する。
「一般的な人狼と吸血鬼だけが確認されている。“竜狩りの獣”の直系や真祖といったものについては確認されていない」
「そうですか。なら、大丈夫そうですね」
アレステアがブロイアー大佐の言葉に安堵した。
「しかし、規模してはかなりのもので陽動を行ってもあまり効果はないだろう。強行突破するしかない。装備と人員を持ってきてくれていると聞いているが」
「ええ。準備できています」
「よし。では、強行突破だ。幸いにしてこっちには火力支援を行う準備もある。派手にやれるぞ。これ一回で最後となるがな」
どうやら帝国国防情報総局か、あるいはブラウアップグルント民主同盟軍は火砲の類を装備しているらしい。
「では、地図と合わせて攻撃計画を説明する」
そして、ブロイアー大佐が指示を出し始めた。
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