ライヒェヴァルト空軍基地

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 ──ライヒェヴァルト空軍基地



 ライヒェヴァルト空軍基地はかつては帝国空軍の基地だったが、今はその主は魔獣猟兵に代わっている。軍事占領した魔獣猟兵が自身の航空戦力を展開させていた。


「上級大将閣下。ようこそ、ライヒェヴァルト空軍基地へ」


「ご苦労、大佐」


 そのライヒェヴァルト空軍基地に着陸した魔獣猟兵の空中戦艦ウィル・オ・ウィスプから降りて来たのはセラフィーネだ。


「全員集まっているな?」


 セラフィーネがそう言ってライヒェヴァルト空軍基地に設置された第3戦域軍司令部に入り、そこにいるものたちを見渡す。


 そこにはアルビヌス軍集団の司令官フェリシア・アルビヌス、ヘルドルフ軍集団司令官クリストフ・フォン・ヘルドルフ、空軍司令官ネルファ、トラヤヌス降下軍集団司令官トラヤヌス、そしてカノン・ヴィンセントが待っていた。


「攻勢を行うと聞いているが?」


「その通りだ、ネルファ。いつまでも足踏みしては楽しくない。そうであろう?」


 白い鱗の真祖竜ネルファが尋ねるとセラフィーネが不敵に笑ってそう返す。


「帝国が維持しているカエサル・ラインを突破する」


 セラフィーネが示したのは帝国軍は永久陣地を構築し、魔獣猟兵の突破を阻止し続けているカエサル・ラインの突破であった。


「カノンたちの情報活動によればカエサル・ラインを支える巨大兵站基地のひとつが南方のケーニヒスタールに位置している。このには高速道路、鉄道、空港、港という主要な交通インフラ全てが整っている」


 地図で指さされるのはケーニヒスタールという帝国の沿岸都市。


 カエサル・サインの兵站を支える都市であり、陸上輸送、海上輸送、航空輸送の全てに対応できるインフラが整った都市である。


「我々はこのケーニヒスタールを占領し、帝国軍に対して大打撃を与える。さらにケーニヒスタールを我々の拠点としてさらなる侵攻を行うのだ」


 カエサル・ラインの兵站拠点を叩き、帝国軍が維持してきたカエサル・ラインを突破する。それがセラフィーネが考えている攻撃計画だった。


「仮にケーニヒスタールが落せたとしよう。それによってカエサル・ラインを全面的に突破できると考えているのか? ケーニヒスタールを奪うために突出した部隊が逆に包囲殲滅される可能性は?」


 セラフィーネの攻勢計画にフェリシアが疑問を重ねる。


「その可能性が全くないわけではない。だが、無事にケーニヒスタールを奪えれば帝国軍のカエサル・ラインにおける戦闘力は大幅に減少し、さらに我々は帝国軍の後方連絡線を好き放題に脅かせる」


「そうすれば敵は自動的にカエサル・ラインから後方に下がる、か」


「我々の側からも帝国軍を包囲可能だということだからな」


 後方のケーニヒスタールを奪うために魔獣猟兵は一点を突破し、帝国軍の後背に突出する。その突出を帝国軍が狩り取ろうと思えばそうできる。


 しかし、大きく後背に進出し、帝国軍の兵站拠点を襲撃することで帝国軍の補給を遮断した魔獣猟兵もまたそのまま機動して帝国軍を包囲することが可能なのだ。


 恐らくこれまでの戦いからして帝国軍は包囲の可能性があれば撤退する。


「しかし、どのようにカエサル・ラインの突破を? またゴーレムを使うのか?」


「まずこれまで準備した火砲による集中砲撃だ。火砲を密かに集結させている。その火砲によって敵陣地を粉砕」


 ネルファが尋ね、セラフィーネが答える。


「さらにトラヤヌス降下軍集団による大規模な降下作戦を実施。いい知らせは帝国軍の航空戦力は身内の争いのおかげで減少しているということだ。こちらの航空戦力でフンj再可能であろう」


 そう言ってセラフィーネがトラヤヌス降下軍集団司令官のトラヤヌス魔獣猟兵中将に視線を向けた。


「うんうん。可能だと思うねえ。けど、降下作戦がリスキーな作戦だということは覚えておいてほしいな。一度降下したそう簡単には撤退できないってね」


 トラヤヌスも真祖竜だがネルファなどと比べるとかなり腹が出ている。


「もちろん理解している。だが、実行する。我々が行うの縦深攻撃だ。前線から敵の後方まで長く伸びた縦深を一斉に攻撃することで敵の予備戦力を撃破し、対応不能の敵を蹂躙するというもの」


 セラフィーネが第3戦域軍の司令官たちに説明。


「既に火砲についても長距離射撃可能なカノン砲を多数配備している。ロケット補助推進弾も配備されているので降下した部隊を支援することも可能だ。さらに空中艦隊が全力で地上支援を行う」


 魔獣猟兵は帝国軍の前線からケーニヒスタールという兵站基地に至るまでの後方に伸びる縦深を一斉に制圧する。


 後方にいる帝国軍の予備戦力を降下部隊、航空戦力、そして長距離火砲で撃破することで敵に対応を取らせない。


「攻撃を担当するのはアルビヌス軍集団だ。ヘルドルフ軍集団は敵の戦力を拘置するために限定的な攻勢に出てもらう」


「敵戦力の拘置が目的であれば無理に進む必要はない、と」


「そういうことだ。とにかく敵が動けない状況にすればいい」


 クリストフが言うのにセラフィーネが頷く。


「いつまでも敵の要塞線を眺めてお茶をしているのでは戦神モルガンの戦士としての私の名が泣く。ここはいよいよ仕掛け、撃破し、勝利する。ケーニヒスタールが落ち、カエサル・ラインが崩壊すれば戦局は大きく動くだろう」


 セラフィーネがそう作戦の趣旨を開設する。


「勝っても負けても文句なしだ。誇り高き戦士として戦い、そしてその戦いの結果を受け入れようではないか。そのために戦争を始めたのだ」


「ええ。戦うことしか私たちにはない」


 戦いに酔ったセラフィーネの言葉にカノンが同意した。


「具体的な作戦計画は──」


「そろそろ俺をお呼びじゃないかね、上級大将閣下?」


「来たか、傭兵」


 司令部に姿を見せたのはスピアヘッド・オペレーションズの最高経営責任者であるサイラス・ウェイトリーだ。


「作戦については兵站計画を含めてこっちで立案済みだ。わが社の優秀なコントラクターたちが軍での経験を活かして隙のない計画を立てている。その上で言うが進めるのはケーニヒスタールを奪取してから40キロ地点までだ」


「攻勢限界点か」


「そう。後方連絡線が伸びれば兵站は難しくなる。交通インフラは戦闘で破壊され、前進すればするほどトラックも何もかも故障する。それを踏まえた上での計算だ。では、これが計画案だ。見ておいてくれ」


 サイラスは作戦計画を記した書類を司令部のテーブルに置く。


「私は既に確認したが問題はない。これより以降、本攻勢計画をアンヴァル作戦と呼称。準備完了次第、作戦を発動する。諸君、魔獣猟兵の名を人間どもの臓腑に刻んでやろう。恐怖と血によってな」


 そして、セラフィーネの宣言とともに魔獣猟兵は帝国軍が死守しているカエサル・ラインへの攻撃計画を進め始める。


 密かにあらゆる口径の火砲が集結し、物資の集積が始まり、飛行艇が空軍基地で爆弾や降下部隊を積み込む。


 魔獣猟兵側としては機密維持に念を入れていたが、現地に浸透している帝国国防情報総局の工作員とそれに協力している占領地の民兵が魔獣猟兵の大規模な動きを察知。


「また火砲だ。今度は155ミリレベルの榴弾砲1個大隊規模」


「間違いない。魔獣猟兵は攻撃を行おうとしている」


 攻勢計画に向けて魔獣猟兵が進んでいることを確信した。


「エミール・ゼロ・ワンより本部HQ。魔獣猟兵が攻勢準備を始めている。近く大規模な攻勢があるものと思われる。そう、連中はカエサル・ラインを突破するつもりだ」


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