技術中将
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──技術中将
「これって装甲車、ですか?」
アレステアたち葬送旅団の母艦である特務空中巡航戦艦アンスヴァルトが停泊するムートフリューゲル空軍基地にて。
アレステアたちはケルベロス擲弾兵大隊の兵士たちが新しい兵器をアンスヴァルトに運び込んでいるのを目撃した。
「本当だ。何だろ、あれ?」
それはタイヤではなく無限軌道で動く車両で大きさは今までケルベロス擲弾兵大隊が装備していた軍用トラックと同程度の大きさ。
明らかに装甲によって守られている装甲車であり、武装してどうやら口径12.7ミリ魔道式重機関銃と口径7.62ミリ魔道式機関銃を装備しているようだ。
「シーラスヴオ大佐さんがいますよ。聞いてみましょう」
アレステアがそう言って装備のアンスヴァルトへの搬入を指揮しているシーラスヴオ大佐の方に向かった。
「シーラスヴオ大佐さん。あの車両は何ですか? 新兵器、でしょうか?」
「ええ。陸軍が採用を決定し、配備が開始されたカラカル装甲兵員輸送車というものです。まだ配備数は限られていますが、我々の方でも試してほしいと陸軍司令部から要請されて運用を行うことが決定しました」
「そうなんですか。どんな兵器なのでしょう?」
「それについて説明してくださる方がそろそろ来る予定なのですが……」
アレステアの質問にシーラスヴオ大佐がそう答えたときムートフリューゲル空軍基地のゲートから大型トラックは入って来た。そして、その大型トラックがアレステアたちがいるアンスヴァルトのハンガーに入って停車する。
「やあやあ! 君たちが葬送旅団かね? なるほど! 精鋭という顔をしている!」
その大型トラックから降りて来たのは白髪をぼさぼさにした頭と見事なカイゼル髭をした中肉中背の老齢男性だ。しかし、その纏っている帝国陸軍の軍服には帝国陸軍中将の階級章があった。
「閣下。お待ちしておりました」
シーラスヴオ大佐が素早くその老人に敬礼を送る。
「うむ! 早速私の設計した兵器が積み込まれているようだな! これでこの戦争はもや勝利したもの同然だぞ! はっはっは!」
「あの、あなたがあの兵器を作られたのですか?」
カラカル装甲兵員輸送車を見て満足げに笑う老人にアレステアがおどおどと声をかけた。
「その通りだ、少年! あの装甲車だけではないぞ! 君たちの戦友たちが使用している魔道式銃を設計したのも私だ! 自己紹介しよう! 私はミハイル・アルデルト帝国陸軍技術中将であり、ゼータ・アルデルト設計局局長だ!」
そうして老人が自己紹介した。アルデルト技術中将と。
「そ、そうなのですか。あのアルデルト技術中将さん、あの新兵器の意味はどのようなものなのでしょうか?」
「うむ。説明しよう! これまでの戦闘で装甲化されていない車両の損失が極めて高いということが分かっている。これまで自動車化擲弾兵はトラックで安全な後方を機動し、戦場に展開することになっていたがそれが覆った」
アルデルト技術中将が説明を始める。
「火砲の長射程化とゲリラコマンド戦術の大規模使用! もはや後方でも安全ではないし、さらに兵士たちは前線での機動にもトラックを使用している。故に車両の損失が深刻になっているのだ!」
「確かに撤退戦の際に多くの放棄されたトラックを見ました。あれが動けていたらもっと大勢が無事に撤退できたかもしれません」
「そう! その通りだ、少年! ただのトラックではもはや脆弱すぎるのだ。兵員輸送目的のトラック、そして牽引車両は装甲化すべきなのだ。さらに砲撃で出来たクレーターや塹壕を乗り越えるために無限軌道を採用すべし!」
アレステアも戦場で兵士を運ぶという役割を果たせず破壊されたトラックを見て来た。そのトラックが壊れておらず、動ければ大勢が助かったかもしれないのに。
「アルデルト技術中将閣下。ご到着でしたか」
そこで帝国陸軍の軍用四輪駆動車がアンスヴァルトの停泊しているバンカーに入って来た。そして、ひとりの男性の帝国陸軍准将と女性の帝国海軍少佐が降りて来た。
「む? 君たちは誰だったかな?」
「帝国国防情報総局所属のシモン・ソスノフスキです。こちら副官のイザベラ・ベル海軍少佐。今回の葬送旅団再編について説明のために参りました」
帝国陸軍の軍人はソスノフスキ准将と名乗り、女性の方はベル少佐と紹介された。
「既に再編の予定については聞かされていますが、どうして陸軍司令部ではなく帝国国防情報総局が我々の再編を担当するのです、閣下?」
「シーラスヴオ大佐。再編には陸軍司令部ももちろん関係している。だが、我々は先のパンツァーファウスト作戦で葬送旅団が果たした役割を高く評価しているのだ」
「と、言いますと?」
ソスノフスキ准将が説明するのにシーラスヴオ大佐が怪訝そうな顔をする。
「葬送旅団の任務達成率の高さだ。パンツァーファウスト作戦の際に行われたいくつかの帝国国防情報総局も関与した特殊作戦は軍事的常識から無謀あるいは犯罪的と評価すべきものがあった。だが、彼らはそれを成し遂げた」
パンツァーファウスト作戦の際に行われたヴァイゼンナハト城への侵入からその後の空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセへの移乗攻撃に至るまで困難な戦局はいくつも存在していた。
「そして、それでいて葬送旅団は機動的に運用すべき機動力の高く、精鋭の少数戦力だ。性質としてはワルキューレ武装偵察旅団のそれに近い。少なくとも我々はそう結論した。陸軍司令部も似たような評価だ」
「つまり我々を特殊作戦部隊として運用すると? ワルキューレ武装偵察旅団のようにですか?」
「それも考えたが既にワルキューレ武装偵察旅団でそれは足りている。よってワルキューレ武装偵察旅団にはできない任務を担当してもらうこととなった。これは実験的な部隊運用も含まれている」
シーラスヴオ大佐とソスノフスキ准将の会話をアレステアは理解しようと必死に聞き取っていたがアレステアには難しい単語が多い。
「幸いにして葬送旅団は皇帝陛下の肝いりでゲヘナ様の後ろ盾もある。それでいて績も十分だ。通常ならば断わられるような編成を試すことができる」
「ちょっと。あたしたちをモルモット代わりにするつもりなの?」
「モルモットより上等な扱いです、シャーロット卿。装備と戦力を増強し、重装機動部隊として運用するのですから」
「ほほう?」
ソスノフスキ准将の言葉にシャーロットが興味を持つ。
「現在、7個の自動車化擲弾兵師団が兵員輸送目的のトラックをゼータ・アルデルト設計局が開発した新型の装甲兵器のひとつカラカル装甲兵員輸送車に置き換え、新たに装甲擲弾兵師団として編成を予定してる」
「装甲擲弾兵師団……」
自動車化擲弾兵師団はカラカル装甲兵員輸送車で機動する装甲擲弾兵師団となる。
「葬送旅団のケルベロス擲弾兵大隊もケルベロス装甲擲弾兵大隊となる。これが再編のひとつだ。そして、もうひとつ部隊を増やす予定がある。そのためにアルデルト技術中将閣下が来ていらっしゃるのだ」
「その通りだ! これを見たまえ、諸君!」
そこでアルデルト技術中将が自分が乗って来た大型トラックにいた兵士たちに合図し、かけられていた覆いを取り外す。
「これは……!」
「おおっ?」
その現れたものにアレステアたちが目を開く。
頑丈だろうモスグリーンに塗装された装甲に覆われた車両。その車両に丸みを帯びた砲塔と強力そうな立派な主砲が搭載されている。しかし、アレステアたちは今までこのようなものを見たことがなかった。
その砲塔にはゼータ・アルデルト設計局のマスコットであるホッキョクグマのエンブレムが刻まれている。
「これぞアイスベア中戦車!」
アルデルト技術中将が高らかと宣言する。
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