エージェント-37A
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──エージェント-37A
死をも覚悟して突撃する反乱軍ヴィーザル空中艦隊旗艦空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセ。その爆弾倉に化学兵器エージェント-37Aを積んだそれが急速に帝国軍のいる場所に迫っている。
そして、アレステアたちはそのエージェント-37Aを無力化すべく、空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセの艦内を爆弾倉に急いでいた。
「前方に屍食鬼多数!」
「押し通ります!」
もはやいちいち戦闘に時間をかけるわけにはいかない。敵はアレステアの不死身という特性に物を言わせて突破し、空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセと同様に任務の達成に向けて急いでいた。
「爆弾倉はすぐそこだ!」
「突入です!」
そして、アレステアたちは空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセ艦内の爆弾倉に突入。アレステアが踏み込み、すぐさま他のメンバーが支援に入る。
「クソ! 敵だ!」
爆弾倉には今まさに目的地に進出しようとしている空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセが投下するエージェント-37Aを投下するための準備を反乱軍の将兵が始めていた。
通常の航空支援に使用する500キログラム爆弾が爆弾作業車によって運び出され、それにエージェント-37Aの入った金属のドラム缶が装着されようとしている。
「殺せ! 我々が帝国を救うのだ! 死んでいった同志たちのためにもなさねばならん! 同志たちの死を無駄死ににさせるな! 敵を倒し、勝利せよ!」
「トロイエンフェルトさん……!」
そして、爆弾倉には反乱軍指導者のトップたるトロイエンフェルトがいた。
「ゲヘナの眷属か! 忌々しい子供め! 死ぬがいい!」
トロイエンフェルトがそう言い放つと明らかに屍食鬼とは大きさの異なる怪物が、口径12.7ミリ魔道式重機関銃を腰だめに構えて現れる。その数4体。
「デュラハンだよ、アレステア少年! 気を付けて!」
「はい!」
現れた4体のデュラハンは魔道式重機関銃を乱射しながらアレステアたちに接近してくる。アレステアはデュラハンの放つ大口径ライフル弾を弾きながら進み、デュラハンとの距離を縮めていく。
「援護したいけどあそこに化学兵器があるからなあ……」
そう、シャーロットやアリーチェ、ハンスが装備しているような銃火器は流れ弾でエージェント-37Aが収まったドラム缶に穴をあける恐れがあった。
「シャーロット、アリーチェさん、ブラムさん、ハンス! 私が屍食鬼を釣り出しますので狙撃で仕留めてください!」
「りょ、了解です!」
そこでレオナルドが屍食鬼たちをエージェント-37Aから引き剥がそうと突撃し、攻撃を受けつつ、誘い出すということを始めた。
「帝国軍も大事な臣民だと言ったのはあなたではないですか、トロイエンフェルトさん! どうしてその大事な帝国軍の人たちを毒ガスなんかで殺そうとするんですか!」
「これは救うための死だ! 今の売国奴メクレンブルクどものような連中が兵士たちを死地に追いやることとは違うのだ! 誰かが帝国を救わなければならない! そうしなければもっと大勢が死ぬ!」
アレステアがデュラハンとの交戦を開始するのにトロイエンフェルトが叫ぶ。
「それをどうして言葉で伝えないです! あなたは言葉で戦う政治家でしょう!? 相手を殺して、誰かが大切に思っている人を殺して、それで救わるなんてあるはずがないじゃないですか!」
「黙れ! 子供に政治の何が分かる! 軍は冷遇され続けて来た! 偽りの平和を謳い、何事もないかのようにした政府によって軍は予算や法律でその力を奪われていた! だと言うのに戦争になった今真っ先に死んで来いという!」
アレステアの一撃がデュラハン1体を撃破する中、トロイエンフェルトがエージェント-37Aの投下準備を進めている反乱軍の技術将校を見る。
「まだ準備はできないのか!?」
「まだです! 投下予定時刻はまだ10分以上先でしたから!」
「なんたることだ!」
エージェント-37Aの投下準備はまだ完了していない。
「みんな魔獣猟兵との戦いを必死に戦っていたのに何よりも軍を大事にするあなたが、その軍を攻撃し、その勝利への道を妨害している! 僕たちが争えば利を得るのは敵ではないですか!」
「勝利はもっと早く得られていたのだ! 本来ならば! 魔獣猟兵の宣戦布告前にアイゼンラント領にこのエージェント-37Aを使用した予防戦争を仕掛けていれば、帝国の大地が占領されることもなかった!」
「それは結果論です!」
デュラハン3体がアレステアに向け魔道式重機関銃の集中射撃を行うもアレステアは大口径ライフル弾を弾きながら回避する。
「結果論ではない! 予想できたシナリオだ! あのネメアーの獅子作戦のときのように! 政府と皇帝はまた軍に血を流させることで自分たちの失態をなかったことにしようとした!」
「あなたがその血の量を多くしていると気づいていないですか!? こうやってあなたが争うことでどれだけの人が死んだかを考えてください!」
「我々は奪われたのだ! 戦友を! 誇りを! 自分たちを守る力を! だから、奪ったものたちから奪う! それの何が悪い! 先に奪ったのは連中だぞ! メクレンブルクのような売国奴やハインリヒのような愚帝が奪った!」
デュラハンが弾の切れた魔道式重機関銃を捨てクレイモアを抜いて構え、アレステアに襲い掛かって来た。アレステアは強力なデュラハンの一撃を回避しながら2体目のデュラハンにカウンターを入れて撃破する。
「あなたが奪っているのはメクレンブルク宰相さんやハインリヒ陛下のものじゃない! 全く関係のない人たちから奪っているんだ! ひとりの兵士の家族や友人、そしてその兵士その人から奪っている!」
「それは……」
「あなたは怒りの矛先を間違って向けたんです! 何も正しくない!」
言葉に詰まるトロイエンフェルトを前にアレステア最後のデュラハンを撃破。
「もう終わりです。今ならまだ止めることはできます。これ以上誰も死ぬ必要なんてないんです。お願いですから、もうやめましょう」
アレステアがトロイエンフェルトを前にそう促した。
「……ダメだ。私がここで引くわけにはいかないのだ。もう既に私は大勢の同志たちを死なせてしまった。彼らのためにも、苦しんだ彼らのためにも私は退かない!」
トロイエンフェルトがそう言って魔道式拳銃を抜く。
だが、その銃口が向けられたのはアレステアではなく──エージェント-37Aの容器。
「やめ──!」
アレステアが止めようとするが間に合いそうにない。
「させないっ! 私たちの故郷をこれ以上汚させない!」
しかし、そこでエージェント-37Aの容器を開いている爆弾倉の扉に向けて突き落とそうとする人間がいた。ヴァイゼンナハト自由軍のブラムだ。
「なっ……!」
エージェント-37Aの金属容器に体当たりしたブラムが爆弾倉の床を転がり、それにトロイエンフェルトが巻き込まれ倒れる。
「クソ! こんな──」
そして、エージェント-37Aを収めた容器も、トロイエンフェルトも、ブラムも、みな地上に落下していった。
「……誰も死ななくてもよかったのに……」
アレステアはそれを見て悲しそうに呟いた。
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