38 壊しちゃえば早いんじゃないかと

 三日後。

 私とリンちゃん、エーリック、そしてブラウさんはとある島にいた。


 ここは太陽神ソルがこの世界に最初に降り立った島なのだそうだ。

 島には人が住んでいないが、太陽神を祀る祠があって、時々祭礼が行われるという。

 太陽神と魔物は相性が悪い。

 だから最初は人間のリンちゃんと半分人間のエーリック、そして一応人間の私、三人で行こうとしたのだが、さすがに三人だけでは心配だと、魔王さんの代理としてブラウさんも同行することになったのた。


「この島には聖獣グリフォンが棲んでいる」

 ブラウさんが言った。

「グリフォン?」

「頭がワシで翼があって、身体がライオンみたいなやつです」

 リンちゃんが答えた。

「王家の紋章にもなってて、人間にとって大事な聖獣らしいです」

「へえ」

「あれか?」

 エーリックが見上げた先、空から大きなものが飛んでくるのが見えた。

「早速出迎えか」

 確かに、こちらに向かってくるその姿は大きな鳥に見えるが、下半身は四つ足の獣という不思議な姿だ。


「え、本物のグリフォン?」

 リンちゃんが声を上げた。

「人間の前には姿を現さないって聞いたのに」

「ヒナノが目当てかもしれないな」

「ヒナノさん?」

「ああ……なんか私、聖獣の間で有名らしくて」

「ええ、すごーい」

 聖獣のネットワークで私が治癒できることは広く知られているらしい。時々ドラゴンやフェニックスが治療して欲しいとやってくるのだ。


 バサリと音を立ててグリフォンは私たちの前に舞い降りた。

 間近で見ると金色の毛並みがキラキラしていてとても綺麗だ。

 グリフォンはじっと私を見つめていた。怪我や病気はなさそうね。

「あ……こんにちは。ええと、私たち太陽神の祠に用があってきたの。これ以上魔物を呪わないよう、人間に手を貸すのをやめて欲しいってお願いしたくて」

 勇者の剣がある限り、人間たちは魔王討伐を諦めないだろう。

 お願いを聞いてくれるか分からないけれど、試してみないことには分からない。だからここへ来たのだ。


 私の言葉を聞いていたグリフォンは、頭を上げると空に向かって声を上げた。

 やがて小さなグリフォンがこちらへ向かって飛んできた。

「子供?」

「かわいい!」

 子供のグリフォンは、私の腕の中へと飛び込んだ。

「その子を連れていけと言っている」

 ブラウさんが言った。

「……ブラウさんって聖獣の言葉が分かるんですか?」

「ヒナノは分からないのか?」

 ブラウさんは不思議そうに私を見た。

「治癒はできるのに」

「分からないです……」

「言葉ではなく、魔力を通じて意思を伝えることができる」

 グリフォンを見上げてブラウさんは言った。

「ヒナノも練習すればできるようになるだろう」

「やってみます!」

 帰ったら練習してみよう。


「祠は海に面した岬の上にあるんです」

 リンちゃんの案内で私たちは森の中を通り祠へ向かった。

 祠までの道はなだらかな坂道だったが、階段のように石が並べられていて歩きやすくなっている。


「あそこです」

 森を抜けると、目の前には大きな海が広がっていた。

 海に突き出すように岬があるので、まるで海の上に立っているかのように見える。

 そうして岬の先端には屋根がない、石柱が四本立てられただけの祠があって、その中央に平らな石が一つ置かれていた。

「この海の先から太陽が昇るんです」

 そう言ってリンちゃんは杖を構えた。

「とりあえず壊してみますか」

「え、だめだよリンちゃん! 罰が当たるよ?」

 とりあえずって何!?

「剣に力を与えるには、この石に剣を突き立てるんですよ」

 見た目はただの石だったが、その上にちょうど剣が入りそうな溝が彫り込まれていた。

「だからこの石を壊しちゃえば早いんじゃないかと」

「どうしてそうやって発想が過激なの」

「ギャッ」

 腕の中のグリフォンが声を上げた。

「ほら、この子も壊しちゃえって言ってます」

「言ってないと思うよ?」


「そのグリフォンは自分に任せろと言っている」

 ブラウさんが言った。

 グリフォンは私の腕の中から飛び降り、石の上に乗ると空を見上げて大きく、長く吠えた。

 その声に応えるように、空から一筋の光が降りてきてグリフォンを包み込んだ。


『月の女神ルーナの巫女よ』

 グリフォンの口から人の言葉が聞こえた。


『そなた、巫女の立場でありながら神の石を壊そうとするか』

「えー、だって邪魔だし。ってもしかしてこの声、グリフォンじゃなくて太陽神?」

「グリフォンは我の意思を伝え、この島を護る我の獣だ」

「ふうん。まあいいや、邪魔しないでくださいね」

 そう言ってリンちゃんは再び杖を振り上げた。

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