第5話 価値あるガラクタ
小間使いは本当にすぐ戻ってきた。連れられて入ってきたのは、カバンを二つ肩から掛けた少年だった。
「吟遊詩人かしら?」
カバンの片方は楽器の、おそらくリュートの形をしている。弾き語りに使いやすいので、吟遊詩人らがよく使う楽器だ。
「行商人でもあるとの事でしてな。こちらは大神殿の司祭長様だ」
「それはそれは。お目にかかれて光栄です、猊下」
少年はお辞儀をすると、楽器でない方のカバンを開いた。
「ある街でちょっと変わった魔法の品を仕入れたんですよ。例えばこれですとか」
カバンから出した少年の手は、軽く握られているが何もつかんでいないように見えた。
「からかっているんじゃないですよ。透明化の魔法が仕込まれてるんです。ここのボタンを押しますと」
骸骨の形をした面が少年の手の中に現れる。いや、説明の通りなら元々そこにあって、魔法で見えなくなっていただけだ。
「あらかじめ顔につけておいてから、魔法を解除してやる事で、急に骸骨に変身したように見えるって仕掛けです」
「なるほど。面白いですが、びっくりさせる以外の役には立たなさそうですね」
「そうなんですよ。さっぱり売れなくてどうしたものかと困った時に、帝都の収穫祭で魔物の仮装が流行っているのを思いだしまして」
魔法の品は当然それなりの値段がする。材料や作る側の労力が反映されるからだ。
しかし、買う側は払う金額に見合うだけの性能を求める。結果、こうしたジョークグッズのような魔法の品は値段だけが高いガラクタとして売れ残るわけだ。
「いかがでしょうか?」
銀の瞳で上目遣いに見上げてくる吟遊詩人は、幼い顔に似合わない策士であるようだ。
売れないガラクタを売るために、町内会長をそそのかして仮装大会を企画させたのだろう。それが分かったうえで、ミエラは策に乗っかることにした。
「面白いアイテムだけど、これだとディーネのかわいい顔が隠れてしまうわ」
「なるほど。顔が出ていた方が良いなら、これですかね」
骸骨面の代わりに、吟遊詩人は三つの小物をカバンからつかみ出す。一つは細いカチューシャ、もう一つは丸いワッペン、最後の一つは丸い小石のように見えた。
「こちら、三つで一つの商品です。カチューシャは頭に、こっちの丸いのは腰の後ろに貼り付けて頂いて、このボタンを押すと」
吟遊詩人が小石を押すと、カチューシャからはピンと立った毛むくじゃらの耳が、ワッペンからはふさふさの尻尾が飛び出す。
小さく空気の漏れる音が聞こえたので、風の魔法の応用だろうか。
「犬、ではないですね。人狼変身セットということですか」
「さすが、ご名答。手触りもいいですよ。本物を参考にしてますから」
確かに、ひんやりとした柔らかな毛の感触が指に心地よい。これなら、ワンピースに仕込むのも手間ではないし、ちょうど良いだろう。
「じゃあ、これにします」
「毎度ありがとうございます。じゃあ、おまけにこちらも」
吟遊詩人が手に押し付けてきた小袋からはほんのり甘い匂いがした。
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