第6話 勝者の余裕

「さぁて、ついに優勝者の発表です!」

 司会のはじけるような声で、ミエラは我に返った。


「審査員全員一致の優勝者は、もちろんこの子。人狼のディーネちゃんです!」

 慌てて拍手をするが、ジョッキを握ったままなので上手くできない。途中であきらめてディーネに手を振ることにした。


「優勝おめでとう、ディーネちゃん。この耳と尻尾はどこで手に入れたのかなぁ?」

 司会の手はまたディーネの耳を撫でていた。よほど気に入ったらしい。


「かいちょーさんのところでママが買ってきて、パパが準備してくれました」

「そっかぁ。良かったねぇ」

「うん。パパもママもだーいすき!」

 ミエラとコットの顔が笑みに溶け崩れる、とすぐ横で不快そうに鼻を鳴らす音がした。


「何をしに来たの?」

 収穫祭の間は視界に入れたくなかった人物がそこにいた。


「休暇を取りましてね。部下の晴れ姿を見に来てはいけませんか」

 局長はそこで言葉を切り、ジョッキを傾ける。


「十分とは言い難いですが、それなりに異端の脅威はアピールできた、と報告します。ご老人方も、及第点を付けざるを得ない程度に」

 祭りの空気にも酒にも酔わないらしく、局長の顔はいつもと同じ硬さを保っていた。

 しかし、目はずいぶんマシになったと言えるだろう。会議の時に規制案を出そうとする局長を遮って仮装大会の支援を発表した時の目は、本気で刺し貫かれるかと思うほど硬いものだった。

 とはいえ、『一般信徒の教化は神殿の仕事であり、その方法も神殿が決めることだ』と言えば向こうも黙るしかなかった。

 最終的には、知識もしゃべりも確かな若手を派遣してくれたので、そこは感謝している。


「じゃあ、頑張って報告書を書く異端審問局長に差し入れよ」

 ポケットに入れていた小袋を局長の手に押し付ける。


「これは?」

「ラムネとかいう菓子だそうよ。この仮装大会を企画した胡散臭い行商人からもらった物」

 せっかくいい気分なのだから、邪魔者にはさっさと菓子を与えて退散してもらうに限る。

 局長は袋の中からラムネを一粒つまみ出し、いぶかしげに睨みつける。


「毒とかは大丈夫よ。魔法で確認したし、二人分実食確認済」

「え、毒見だったの?」

 隣でコットが慌てた声をあげる。

 実食した二人とは、彼とミエラ自身だ。


「なんでディーネから隠してたと思ってたの?」

 得体のしれない行商人からもらった物をいきなり可愛い娘に食べさせるわけがない。

 そのディーネも、今や優勝賞品としてラムネ菓子がたっぷり詰まった袋をもらい、ミエラとコットめがけて走り出したところだ。

 観衆たちも気を利かせて道を開けてくれている。ミエラはコットの手を引いて歩きだした。かわいい優勝者を抱きしめるために。

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