第4話 支援と交渉
「いやはや、まさか神殿から仮装大会への支援のお話とは。願ってもない事です」
ミエラの訪問目的をいぶかしんでいた町内会長だったが、支援を口にした瞬間に顔が緩んだ。
「でも、条件があります。そもそもこの仮装大会に関して、一部のお堅い方々から懸念の声が寄せられていておりまして」
「それはあるでしょうな」
一度緩んだ顔がまだ渋くなる。どうやら、すでに色々言われているようだ。
「でもね、逆に考えてみたんです。これは良い教育の機会だろうと」
「教育、ですか?」
「そう。帝都の民、特に若い子たちは異端や魔物の恐ろしさに触れる機会がありません」
ダンジョンから魔物が最後に溢れたのが50年前。目の前の町内会長でも、記憶があるかどうか怪しいところだ。
ミエラ自身は神官の勤めとして魔物退治に同行したことがあるので、ある程度分かっているつもりだが。
「ですので、司会を神官にやらせていただいて、仮装の解説をしながら異端や魔物は恐ろしいものなんだよと子供たちに教えてあげられればなと思いまして」
「なるほど」
町内会長はそこで一旦言葉を切る。
神殿の支援があれば、異端でないか、不謹慎ではないかと騒ぐ人々も黙るだろう。
その代わり、仮装大会はただのお遊びではなくなり、お堅くなってしまうかもしれない。
「司会の神官はどなたでしょう」
「なるべく子供受けの良さそうな、若い神官を行かせますよ」
正直なところ当てがあるわけではないが、そう答えておく。
司祭クラスの方が知識は豊富だが、貴族出身者が多いので一般人を見下しがちだ。
本気で教育イベントをしたいわけではないので、多少知識は足りなくとも、話の上手い神官の誰かに任せるつもりだ。
町内会長にもこちらがイベントをガチガチにコントロールするつもりでないことはわかったらしい。
「わかりました。よろしくお願いします」
差し出された手を軽く握る。これで目的の半分は終了した。
「それと、もう一つ個人的な頼みがありまして」
「ああ、司祭長様の、ええと、懇意にしておられるお子さんの事なら」
「いえ、そうではなく」
ディーネの八百長を頼みたいわけではない。ディーネなら八百長なんて必要ないとミエラにはわかっている。
しかし、ほかの子供たちがどういう路線で来るのか、情報収集は必要だ。
「貴方の商店で、仮装のための小物を取り扱っておられるんじゃないかと思いまして」
町内会長の本職は雑貨屋である。仮装大会はただの祭りではなく、ビジネスでもあるはずだとミエラは踏んでいた。
「私も扱っておりますが、特別なものを扱っている者がおりましてな。少々お待ちください」
そういうと、町内会長は控えていた小間使いに命じて、誰かを呼びにやらせた。
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