第46話 配信者の決意

「ふぉふぉふぉ。三井達は死んだようじゃのぅ。結構、結構~ッ」


 グランテラス王国、宮廷魔法師用の魔法研究部屋。

 仄かな薄明りがある室内で、奇妙な形をしたオブジェや不気味で怪しげ瓶が幾つも並んでいる。


 アナハールは革製の椅子に腰を掛けて、水晶玉を通して派遣した間者から報告を受けていた。


「何が結構なのでしょうか? まぁ貴方の本来のお立場であれば、最大の宿敵・ ・が四人も配信者ライバーによって葬られたのですから朗報かもしれませんが」


 書類や不気味な骸骨が置かれた机を挟んで、枢機卿カーディナルのミザリーが立っている。

 普段の温厚な聖女とは異なり無表情で冷たい雰囲気を醸し出していた。


「勿論それもある。だが結果として、あの方の成長にも貢献した。次期魔王ルナ様……おそらく近い将来、覚醒されることじゃろう。その時こと、我らが世界を支配する時じゃぞ」


我ら・ ・ではありません、あくまで貴方側・ ・ ・です。ですがあそこまで無用な犠牲を出して、配信者ライバーと戦わせる意味があったのでしょうか? ルナさんの成長と共に、ユヅキさんも神々の代弁者として急速な成長を遂げております。おそらく駒である勇者ブレイヴの速水や生徒達でも、彼には勝てませんよ。寧ろ貴方側の不利になったのではないでしょうか?」


 ミザリーの疑問に、アナハールは白髭を蓄えた口端を吊り上げて見せる。


「――全て我が主ジオス様の思し召しじゃぞ」


「ジオス? 魔王軍最高幹部こと魔将軍四天王のリーダーでしたね……神々の禁忌タブーに触れた死霊魔法を使いこなすという」


「そうじゃ。下僕のワシはあの方の命に忠実に従うのみ。安心せいミザリー、貴様との密約は必ず果たそう」


「……そうですか。わたくしとしては、このグランテラス王国が滅亡すればそれでいい……あの召喚者達には可哀想ですが、憎きリヒド・ ・ ・と共に滅んでもらいましょう」


 ミザリーの瞳に憎悪が込められた怨恨の炎が宿されていた。

 とても女神ミサエラに仕える司祭であり、若くして教皇の最高顧問こと補佐役を務める聖女とは思えない。

 ちなみに上司である女教皇ハイプリエステスは長きに渡り謎の病で床に伏しており、枢機卿カーディナルのミザリーが代理として国王の傍に務めていた。


 それは全てアナハールが仕組んだこと。

 自分と目的が一致するミザリーをリヒド国王に近づけさせるため。

 おかげで、『勇者達召喚の儀式』も順調であり使えそうな手駒も多く揃えた。


 次期魔王の召喚と育成。

 それが内通するアナハールの目的であった。


(結構、結構。偽善者のリヒド陛下も亡き妻の代わりとする愛人の枢機卿ミザリーが、実は妾の隠し子であり自身に怨みを持つ『実の娘』とは気づきまいて……真相を知った時の顔が目に浮かびおるわい……ウヒヒヒ)


 薄ら笑いを浮かべる、アナハール。

 同時に何者かが扉をノックしてくる。

 アナハールはチラっとミザリーと目を合わせるが、老人と聖女ではやましい関係だと思われないだろうと頷き合い、「入れ」と命じた。


 すると、若い魔法士の男が入室してくる。

 彼はアナハールの正式な部下であった。


「おお、ミザリー様もおられましたか。これは都合が良い」


「お勤めの打ち合わせをしていたのですよ。なんでしょうか?」


「手短に言うのじゃぞ。若い奴は話が長くて頭に入らん」


「はっ、では手短に――シンシア王女が城から脱走しました」


「「は?」」


「ですから、シンシア王女が数名の配下を連れて無断で城を出て行かれたのです。置き手紙にこう書かれていました――『わたくしの大切な親友ルナとお兄様のユヅキを探しに旅に出ます。どうか探さないでください』と。陛下もそれはお怒りで、至急お二人を呼ぶよう命じられたのです」


((……う、嘘でしょ? あの、じゃじゃ馬姫が!))


 アナハールとミザリーは同時に絶句した。


◇◇◇


 トラン町に戻った僕達は、獣人族の幼女ヒヨンを預かっている商人のロルネロさんと合流した。

 彼女に悪い連中は全て片付け、村の獣人族も無事である旨を伝えた。


「お兄ちゃん達、ありがとう……うえ~ん」


 ほっとしたのか大泣きしてしまう、ヒヨン。

 こんな小さな体で数キロ離れた隣町まで、たった一人で助けを求めてきたのだから、さぞ必死だったろう。


「もう大丈夫だよ、ヒヨン。僕達が近くまで送るよ。ロルネロさん、この子を送ったらそのままラスタジアを目指そうと思っているんですが、それでいいですか?」


「ええで、逆に好都合ですわ。にしても、ユヅキはん……ほんまごっつう強いですやん。このまま、ワイの専属ボディーガードしてくれまっか?」


「ハハハ、考えておきます」


 いいお金になるけど、流石にずっとはね。

 僕達にはやらなきゃならないことがある。



 それから再び獣人族の集落に訪れた。

 まだ速水達が滞在しているのであれば、僕達は荷馬車に隠れてロルネロさんにヒヨンを帰してもらうかと思ったが、その心配はなかったようだ。


「グランテラス王国の方達は自国に戻られるとのことで、少し前に出発されております。あの方々には消火活動を手伝ってくれたり、傷ついた民達の治癒や食料まで与えて頂き助かりました」


 獣人族の族長らしき人がそう説明してくれる。

 そっか……速水はちゃんと勇者しているみたで、クラスのみんなも頑張っているのか。

 花音や久賀くんもアナハールに洗脳されているというわけではなさそうで、そこは安心した。

 だけど裏を返せば、クラスメイトが僕らにとって人質になり得るか測られている可能性も考えられる。

 あるいは利用するための手駒としてか……敵は魔王軍だけじゃないということだ。

 いざって時は僕がグランテラス王国に乗り込み、ひと暴れする必要があるだろう。


 なんだかんだ、僕はみんなを見捨てられない。

 特に花音さん……個人的にも僕は彼女を助けてあげたい。


 けど今は――。



「お兄ちゃん、お姉ちゃん達、本当にありがと! 村が復興したら遊びにきてね!」


 ヒヨンが太陽のような明るい笑顔で手を振ってくれる。


「ああ、勿論! ヒヨンも元気でな!」


「バイバイ、ヒヨンちゃん!」


 僕と月渚、仲間の女子達も手を振って別れた。

 束の間の出会いだったけど、心がほっこりしながらも少しだけ寂しさを感じてしまう。


「ほな、皆はん。大都市ラスタジアに向かいまっせ」


 ロルネロの操縦で馬車は目的地を目指して進んで行く。


「お兄ちゃん、ラスタジアってどんな国だろうね?」


「君主制じゃない商業国というくらいだからな。きっと栄えた都市なんだろう。何か素材が手に入ればいいんだけどね」


 話を聞く限り、色々な多くの種族が偏見なく暮らしているらしい。

 情報収集や僕達の隠れ蓑に適しているかもな。


「楽しみだミャア」


「そうっすね~、ウチも肌を白塗りする必要もなく堂々としてられるっす!」


「フフフ。楽しみですね、ご主人様」


「そっだね、イリス。てかなんでそんなに笑顔なの?」


「……いえ、それほどの大都市であれば、きっとお眼鏡に適う宿もございましょう。そう、誰にも邪魔されず妨害されず、ご主人様と愛を育む最良の宿が……それまで、このイリス。媚薬入りのお香をご用意いたしましょう」


 もう何言っちゃってんの?

 そういうこと言うとまた……。


「相変わらずイリス殿は痴女っす! そんなことさせねーっす! ご主人様の貞操はウチのモノっす!」


 ヤン、守ってくれるのは嬉しいけど、言っている内容はイリスとあまり変わりない。

 流石、痴女二号と認定されただけあるわ。


「ミャア! ご主人様の独り占めは駄目だって言っているミャア! 普段通り、ネムが抱っこされて一緒に寝てもらうミャア!」


 ネム、それはあくまで子猫の姿の時だけだぞ。

 ロり系美少女の姿だと色々と問題が起きてしまうからな。


「もう、みんな! お兄ちゃんはあたしのお兄ちゃんです! みんなには奪わせないんだから!」


 月渚まで勢いづいて妙なことを口走っている。

 まぁ、暗くしゅんとしていた当初よりは余程マシだけどね。


 ロルネロも振り向きながら「ユヅキはん、ハーレムですやん。ラスタジアには良質の精力剤がおまっせ!」と不要な情報を教えてくる始末。


 もう勘弁してくれ。

 てか少し真面目にやろうよ。


 まぁ、いいか。


 大切な妹と仲間達がいれば、僕に怖いものはない。

 そこに希望があるならどんな逆境でも、みんなと乗り越えてみせる。


 視聴者……いや、神様も味方してくれるしな。


 そう、僕は神々の代弁者――配信者ライバーだ。


 みんなチャンネル登録よろしく!




『ありえない職業『配信者』の無双ライフ~クラス転移に巻き込まれた妹とライブ配信を始めたらバズりました。どうやらフォロワーは全員神様のようです~』


 第一部 完


──────────────────

【あとがき】

拙作をここまでお読みいただきありがとうございました。

一旦、ここで完結といたします。

ご愛読、本当にありがとうございました!!!!



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ありえない職業「ライバー《配信者》」の異世界最強ライフ~追放された妹と生きるためライブ配信したらバズった。フォロワーは神様達のようです 沙坐麻騎 @sazamaki

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