第44話 決別の道
どうしてクラスのみんながここに?
……そうか。
きっと逃亡した三井達を追って来たんだ。
リヒド国王の指示か?
「おい、そこの鳥仮面野郎……今、速水の苗字を口にしなかったか?」
勘の良い久賀くんが指摘してきた。
「まさか。おい、お前ら魔王軍なのか! 答えろ!?」
幸い速水は軽く流し言及を続けている。
一方で他のクラスメイト達は僕のことより、魔獣化した月渚の姿を見て戦慄していた。
「……なんなのです、あの怪獣のようなバケモノは?」
「モンスターがモンスターを食べているぞ……」
「グロ……おえぇぇぇ!」
無心で巨大ワームを貪る様子に誰もが見入っている。
クラスメイト達の誰もが、僕と月渚の正体に気づいてないようだ。
かと言って、ここで知られるのは不味い。
特に月渚の魔獣化がバレたら、今度こそ何をされてしまうか。
それこそ魔王とか言われ、速水から狙われてしまい兼ねない。
《鑑定》で調べたところ、
花音や他の生徒もレベル23~22と高く、三井達より優秀な
みんな真面目にレベリングを行っていたようだ。
けど僕達には及ばない。
仲間達も今回の戦闘で大幅なレベルアップを果たしている。
さらに《使役》と《眷属》の効力で
いざとなったら負けないけど、そもそも僕に彼らと戦う理由は何一つない。
特に久賀くんとは戦いたくない。彼は僕にとって恩人だからだ。
それに花音は今でも僕の大切な……。
とにかく、みんな元気そうで何よりだ。
けど、白石先生は顔色が悪く随分とやつれたように見える。
僕が不在の間、何かあったのだろうか?
「なんとか言え、鳥仮面ッ!」
速水が剣を鞘から抜き、やたら僕に突っかかってくる。
以前は知的で穏やかだったのに、こんな迂闊で短絡的な奴だっけ?
速水の攻撃的な態度に、ネムは「シャーッ!」と唸り電撃ナイフを抜いて威嚇しているる。
ヤンも「あんたら、やるんっすか?」とチェーンソードを取り出してノコギリ状の刃を高速に回転させ始めた。
イリスはただニコッと大人の余裕こそ見せているが、形の良い唇を震わせ小声で呪文語を唱え始めている。次第に魔力が膨張させている様子が《魔力眼》で見えた。
「三人共やめろ! 撤収するぞ――《誘導》ッ!」
僕はそう指示し、従順な三人は臨戦態勢を解く。
さらに《誘導》スキルで、月渚の《捕食》行為を中断させて魔獣化させた状態のまま村を出るよう《誘導》先を指定する。
月渚はピタッと食べるのを止めた。
『わかったよぉぉぉっ! おニィちゃぁぁぁぁん!!!』
まるで咆哮のような雄叫びを上げ、その場から離れて行く。
激ししく地響きを鳴らしながら、《誘導》に沿って突進した。
僕はホルスターから愛銃リベリオンを抜き、速水を威嚇する。
「け、拳銃だと!?」
「おい、なんなんだあいつ! この異世界に銃なんて存在するのか!?」
「いったい何者なのよ!?」
「やべーよ! どうするんだよ!?」
みんな酷く動揺している。
現実世界でも実物の拳銃は馴染みがないから特にだ。
心苦しいけど、びびらせる効果はあった。
月渚は完全に姿を消した。
ネム、ヤン、イリスの三人も妹の後を追っている。
元の姿に戻れるようフォローしてくれる算段だ。
僕は仲間達が完全に撤退するのを見計らい、銃口を向けたまま後退りする。
「待って!」
呼び止めたのは、意外にも花音だった。
僕はつい足を止めてしまう。
「貴方は誰なの? ひょっとして私達と同じ召喚された人?」
この拳銃を見たからだろうか。
花音の中で可能性の一つとして導き出されたらしい。
速水なんかより、余程勘の冴えた頭のいい女子だ。
「――《神速》ッ!」
僕は何も答えずに、その場から姿を消して撤退した。
◇◇◇
獣人族の村から少し離れた森で、月渚は元の姿に戻っていた。
食事はイリスが試しに《百鬼》スキルで、
僕達が乗ってきた馬も隠密に長けたヤンとネムが難なく回収してくれている。
案外みんなのチームワークは抜群だ。
素顔になった僕はそう感心しながら《収納》ボックスから着替えを取り出し、全裸の月渚に手渡した。
妹は食後で艶っぽく賢者モードで地面に座り込んでいたが意識がしっかりしてくると、ハッと制服で裸を覆い隠して見せる。
「お、お兄ちゃん……あまり見ないでね」
可愛らしく頬を染め、避けるように背を向けられてしまう。
なんか距離を置かれているようで少し寂しいけど、年頃だから仕方ない。
その割には一緒に寝たがる甘えん坊だけどね。
一通り落ち着いたところで、僕は月渚に三井達の件とクラスメイト達と再会したことについて全て話した。
月渚も知っておくべきだと思ったから。
三井達が粛正を受けたことについて、「そうなんだ……酷いことしたんだから仕方ないね」と、僕よりもあっさりと事実を受け入れた。
でも一方で。
「――お兄ちゃん、逃げてよかったの? 花音さんと久賀さんもいたんでしょ? これまでのこと、きちんと説明すればあの人達なら理解してくれるんじゃない?」
花音とはグランテラス王国で親交があったが、久賀くんを評価しているのは日頃から僕が「彼には、いつも助けられている」と話していたからだ。
また
僕は月渚に問われ、首を横に振った。
「……いいや駄目だ。三井達が言っていたこと話したろ? あいつらはアナハールの指示で獣人族の村を襲っていた。そして速水達がやって来たんだ……決して偶然なんかじゃない。意図的だと僕は思っている」
「速水さん達も共犯者だと言うの? けど花音さんは……」
「それは違う。みんなの口振りから、速水達は逃亡した三井達を追って来た討伐隊だと思う。そう指示したのは、リヒド国王で間違いないだろう。そして裏にいるのは、宮廷魔法師のアナハールと
月渚のためにもそうするべきだ。
また傍にいるより離れた方が、奴らの目的もわかり炙り出せるかもしれない。
幸い、クラスメイト達はアナハールに洗脳されている感じではなかったからな。
けど速水は優等生らしくなかった……あと白石先生が元気なくやつれていた。
「……シアちゃんは? あたしシアちゃんのことは今でも信じているよ!」
「シア? ああ、シンシア王女か。あの子はいい子だったな……リヒド国王といい、王族とは思えない気さくと言うか。けど、あの人達もアナハールとミザリーに操られているかもしれない。そうは思いたくないけど……いや、そう思わないためにも接触は避けて正しく見極める必要があると思う」
「う、うん……そうだね。わかったよ、お兄ちゃん」
心優しい月渚は、顔を俯かせながらも理解してくれた。
僕だって正直、花音やみんなの安否は気になる。
けど今の段階で公然の場で、アナハール達の悪行を話したところで誰も信じてくれないだろう。
それより逆手に取られ、月渚が周囲から迫害を受けてしまい兼ねない。
確かな証拠が何一つないからだ。
(三井達を生かし証言させる手もあったけど、あの連中の言葉なんて誰も信じるわけないしな……)
だからこそ、僕は月渚を優先したい。
必ず元凶の《捕食》スキル消去できる手段を見つけ出し、妹を魔王候補から外させる。
そのためならなんだってやってやるつもりだ。
最も大切な妹のために――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます