第41話 下衆共との戯れ

 《配信》スキルを発動したことで、僕の頭上にチャット板が出現する。


「お待たせしましたーっ! そんじゃライブ配信を再開いたしまーす!」


「は? 黒咲、テメェいきなり何言ってんだ? てかその気色悪い仮面はなんなんだよ?」


 いきなりテンションを上げる僕に、三井は痛そうな眼差して見てくる。

 他の連中も「……あいつ、しばらく見えねぇうちにヤバくねーか?」と畏怖よりも哀れみを抱かれる始末だ。

 もう下手な悪口を言われるより傷つくわ。


「うっさい! お前らだけには言われたくない! 配信者ライバーとしてこーゆー仕様なんだよ!」


「知ねーよ。それに何だよ、その頭上に浮かんでいる糞みてぇな板は? なんかコメっぽいのが延々と書かれているぞ?」


「意味わかんねーっ。異世界でも暇な連中がいんのか?」


「てか誰よ? どうせ匿名だと思ってアホコメばっか書いている連中だろ? だっせーっ、恥ずかしくねーのか?」


「そういう連中に限って社会不適合者が多いんだっちゅ~の。〇〇職ですけど、とか言いながら実はキモオタの引きニートみたいな? オワコンすぎて草も生えねぇわ!」


 こいつら言いたい放題にけなしやがって。

 まぁ僕の悪口じゃないから別にいいけどね。

 などと思いつつ、チャット欄を一瞥すると。



:あ? 

:舐めてんのかガキ?

:なんやねん、こいつら?

:ムカつくわー

:イラつくンゴ

:糞

:氏ねよ

:黒兄、奴らの説明求む!



 やっぱりな。視聴者さんは相当キレているぞ。

 あまりコメントが苛烈してヒートアップすると炎上してしまうらしいからな。

 演出上、盛り上げる必要があるけどやりすぎに注意だ。


「視聴者さん、どうか落ち着いて~。今、黒兄がこいつらをボコるからね~ん!」


 僕はフォローを入れながら、三井達がどんな連中か簡潔に説明する。



:ゲスやんw

:ガチのクズだな

:こいつらの方が社会不適合者すぎて草

:それでよく、いけしゃあしゃあとw

:犯罪者共め!

:はよ氏ね

:黒兄とっととヤッちゃって!

:これでゲス共に厳粛なる制裁を!


【スパチャ】

《審判》スキルを獲得しました



 なになに……《審判》スキルだと?

 僕はそのスキルの能力内容を閲覧し、仮面越しでニャッとほくそ笑む。


「……なるほど。まさしく『神託』ってわけだ」


 そう理解したと同時に、僕はリベリオンの銃口を誰もいない真横に向けて発砲する。

 高速に回転し放たれていく銃弾は空を切らず、何かを貫通させ赤い飛沫を上げた。


 刹那。


「ギャアァァァァ! い、痛でえぇぇぇぇぇぇぇ!」


 弾道の方向に、盗賊シーフの須田が姿を見せて床下で倒れている。

 右太腿からおびただしい血液が溢れ出し、必死に押えながら悶絶していた。

 

「フッ、やっぱり盗賊シーフのスキルで姿を消して近づいていたか。如何にも下衆の考えそうなことだ」


 僕は床を滑るように転がってきた短剣ダガーを蹴り飛ばす。

 須田が僕を暗殺するために握っていた武器だ。

 おそらく刃に猛毒が塗られていると察した。


「ちくしょう! なんでバレたんだぁぁぁ!?」


「僕が被っている『黒死鳥の仮面ペスト・マスク』は《予見眼》と《魔力眼》機能が備わっている。予めお前らの行動を先読みしつつ、魔力を感知していたんだ。どうやら姿を消せるだけで殺気や魔力までは消せないスキルみたいだな」


 そこが盗賊シーフの限界だろう。本家の暗殺者アサシン程の技術は持ち合わせていない。

 僕はそう冷たく言い放ち、銃口を向けたまま須田に近づく。

 奴は「ひぃぃぃい!」と怯え、床を這いずっている。


「黒咲、テメェ! 平気でクラスメイトを撃ちやがるなんて酷でぇ野郎だ! 自分が何しているかわかってんのか!?」


 三井が可笑しなことを言ってくる。


「何、自分らの都合で言ってんだ? 僕は二度も警告したよな? それを嘲笑い踏みにじったのはお前ら自身だ。その時点で戦いが始まってんだよ。これはゲームじゃない、勘違いすんな」


 僕は吐き捨てるように言ってやる。

 そもそも獣人族の村をこれだけ荒しておいて、よくもまぁ言えたものだ。

 おそらく奴らの口振りから、これまで人族も大勢殺めている筈。

 元クラスメイトだからって、そんな下衆に手加減する理由はない。


 僕は冷たい視線を向け、須田の額に標準を当てる。

 まずは一人、そう思いトリガーに添えている指に力を込めようとした。


「――黒咲ィ! これでも食らいやがれぇぇぇ、《火炎弾ファイアボルト》!」


 三井は掌から魔法を放った。

 だが僕は《予見眼》でその動きを読んでいる。

 バックステップであっさりと躱した。


 しかし《火炎弾ファイアボルト》は壁に衝突すると、木造の室内を燃やし始め炎は瞬く間に広がっていく。

 僕が一瞬だけ気を取られている隙に、須田は槍術士ランサーの鶴屋が伸ばした槍に掴まりその場から離れる。

 合流すると、三井達は壁を蹴り破り建物から脱出した。


「……なるほど、最初からこれが狙いか。ズル賢さと下衆同士のチームプレーは健在ということか」


 燃え広がる炎の中、僕は冷静に呟きその場から脱出した。

 この『黒死鳥の仮面ペスト・マスク』の効果により一酸化炭素中毒に陥ることもない。


 家屋から抜け出した僕は《検索》スキルで三井達を探そう試みるも、意外と視界内に奴らの姿があった。

 四人共、呆然と佇み何かを眺めている。


『おニィちゃ~~~ん! こいつらぁオイしいよォォォォォォッ!!!』


 ――月渚だ。

 いつの間にか魔獣化している。

 巨大ミミズのワームと混合魔獣キマイラを隆々とした腕で鷲掴みにしては、スナック菓子のように口に放り込み貪っていた。

 モンスター達も食われまいと抵抗し攻撃を与えるも、超硬質化された装甲には無意味であり、奇跡的にダメージを負わせても《自己再生》ですぐに治癒されてしまう。

 結局は無惨に踏み潰されるか、体を引き千切られるかの運命でしかなかった。


「ネム!」


 僕は、ホブゴブリンの首を二刀の短剣ダガーで刎ね飛ばしている使い魔の少女を呼んだ。

 ネムは僕の姿を見ると、嬉しそうに笑顔で駆け寄ってくる。


「ご主人様、なんだミャア?」


「月渚はどうして、あの姿になっている? 獣人族の避難はどうした?」


「村の人達は全員逃がしたミャア! そしたらルナ様がお腹を空して、ああなったミャア!」


 なんでも月渚が魔獣化した後、以前と同様に理性を無くして誰とかまわず襲い掛かろうとしたとか。

 イリスが《百鬼》を発動させ、呼び寄せた死霊達を囮として使い巨大モンスター達から食わせるよう誘導したようだ。


「そうか……もう少し食料を持たせればよかったな。それでイリスとヤンは?」


「あの二人なら、その辺でオーガを中心に狩っているミャア! ネムより強いからもうじき終わるミャア!」


 そう言うがネムも大勢のホブゴブリンをたった一人で全滅させたと話している。

 うん、ウチのパーティ女子達、どの子も一騎当千じゃね?


 僕は「わかった。ネムは二人と合流してくれ」と指示し、ネムは「わかったミャア」と頷きその場から離れて行った。



「お、おい、なんだよ……あれ?」


「あんなバケモノ、ダンジョンでも見たことねーぞ?」


「しかもやたら強ぇ……いったいなんなんだよぉ?」


「おい、まさか魔王じゃないのか……」


 三井達は何やら豹変した月渚の姿に酷く戦慄しているようだ。

 この世の終わりのような顔をしている。


「――おいクズ共、お前らの相手は僕だぞ」


 リベリオンの銃口を真上に向けて撃ち、発砲音で奴らの注意をこちらへと向けた。

 クズ共は僕の方に視線を向けると、「テメェ……」と睨みつけてくる。


「黒咲、あのバケモノはテメェの仲間なのか!? テメェはマジで何者なんだよぉ!?」


「お前らには関係ない。僕のことは、配信者ライバーだって何度も言っているだろ?」


 僕はリベリオンをホルスターに戻し、《収納》ボックスから近接戦闘用の主力武器『三日月の死神大鎌クレセント・デスサイズ』を取り出し構える。


「さぁ決着をつけよう! お前らとのくだらない因縁を断ち切ってやる!」


 その姿は紛れもなく死神の如く――。

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