第40話 下衆共との因縁

「みんな今のうちに逃げるんだ! 外にいる仲間達が誘導してくれる!」


 三井達が金縛りにあったかのように硬直している隙に、僕は獣人族の娘達に呼びかける。

 彼女達は「ありがとうございます!」と泣きながらお礼を言い、すぐさま外へと出て逃げて行った。

 その間、僕はリベリオンを構え奴らを牽制している。


「……黒咲。テメェ、やっぱり生きていやがったのか? あのジジィの言うとおり、妹も一緒なのか?」


 僕達しか居なくなったところで、三井が口を開いた。

 あのジジィだと?

 まさか――。


「アナハールか? 奴の指示でお前達はこんな事を……速水君の職業まで偽って……グランテラス王国は、リヒド国王は知っているのか? クラスのみんなは、白石先生は?」


「うるせぇ、ぼっち野郎が! 質問しているのは、こっちだコラァ!」


「……ああ、僕は見てのとおりだ。妹は外で非難誘導している。それで、どうしてこんなことをしている? みんなの顔に泥を塗るような真似をするんだ!?」


「あんな糞連中なんて関係ねぇ! テメェと一緒だ! 俺らも、あそこから抜けだしたんだよ! んでアナハールのジジィと契約して、こうして暴れてるってわけよ! 元の世界に戻してもらうためになぁ!」


「なんだって?」


 元の世界に戻る方法があったのか?

 僕らを追放したアナハールともう一人の結託者、枢機卿カーディナルミザリーの力で……けど、なんか胡散臭いぞ。


 だったら何故、月渚を追放した?

 月渚が魔王候補と知って脅威を覚えたなら、せめて妹だけでも現実世界に戻せばいいだけのこと。

 最初に飛ばされた『試練の魔窟』の番人シャドロムが言っていた限り、僕には月渚を魔王として成長させるための演出だったと思えて仕方ない。


 だとしたら、アナハールの正体は……。


「外で暴れているモンスター達もアナハールが手配したのか?」


「そうだ! あのジジィは得体が知れねぇ……だが力はある! 俺らはそれに賭けて、元の世界に戻ってやるんだよぉ!」


「他にやり方はあるだろうに……どうしてこんな酷い真似を? 確かに学校でも、僕に何かと因縁をつけたりパシリにしようとしていたけど……ここまでするような奴じゃなかったじゃないか!?」


「ああ? 何言ってんだ? んなの、テメェが久賀と一ノ瀬に守られていたからじゃねーか、なぁ!?」


「そうだ。連中さえいなければ、お前如き雑魚は今頃ボロ雑巾の糞奴隷だっつーの!」


「ソロプレイヤー気取りが、いつもうぜーんだよ!」


「お前の唯一の取柄なんてキャワゆい妹ちゃんだけだろーが、ペロペロペーロ!」


 三井に続き、佐渡、鶴屋、須田が僕のことを軽んじ蔑み嘲笑う。

 悔しいけど、確かに僕は特定の友達はいなかった。

 みんなと違い生活に余裕がなかったし、いつもバイト明け暮れて娯楽といえばスマホでネット小説を読むくらいだ。


 けど。

 

「……そんな僕にでもプライドはある。お前らのように欲望のまま好き勝手なことはしない。今だって、妹に恥じない兄であることを目指しているんだ」


「プライドだぁ? いつも俺にびびって何も言い返すこともできねぇ、チキン野郎がよく言うぜぇ。テメェみたいなウジウジ陰キャぼっち野郎を見ているとイラつくんだよぉ! ギャーハハハハ!!!」


「――あ? 何言ってんの? これまで僕が一度でも、お前にびびったことがあったか?」


 僕のトーンを低くした口振りに、三井は瞼を痙攣させる。


「なんだと!? 黒咲、テメェ!」


「フン、三井・ ・。はっきり言ってお前のことなんてなんとも思ってなかったよ。まぁ、うざい奴くらいは思ってたかな。あとの三バカも一緒、ぶっちゃけどうでもいい存在だ。お前が言うように、僕はこれまで久賀くんと花音さんの善意に甘えきっていたのは認めるよ……けど、びびったことなんて一切ない。それだけは断言する」


「テメェ、いきなり何イキってんだ? 拳銃持っているからって調子に乗ってんのか、ああ!? んなのどこで手に入れたぁぁぁ!!!?」


「これは僕が作ったモノだ、関係ないだろ。あと別にイキってもいない、事実を言っているんだ。考えてみろ、仮にお前らに苛められ殴られたとして、僕はその様をスマホの動画で隠し撮りすればいい。あとは白石先生に動画を見せるか、学校側で揉み消すのであれば教育委員会かマスコミ、またネットにでもアップすりゃいいだけの話。それでお前らは色々なところから社会的制裁を受けて人生オワコンだ。僕達のいた世界じゃ、既にそういう時代になっていた筈だろ? なのに僕が黙ってやられるとかって発想、バカなのか?」


「う、うるせぇ! ここは異世界だ!! 現実世界の話を持ち込むんじゃねぇぇぇ!!!」


 なんだよ。

 自分から言い出しておいて頭悪いな、こいつ。

 まぁ、いい。


「――なら異世界のルールで言ってやる。このまま大人しく拘束されれば、僕からは危害を与えない。あとはこの世界の法律で裁かれてくれないか?」


「アホか! テメェ如きの雑魚に言われて、『はい、わかりました』ってなるか、ボケェッ! テメェは銃を持っているったって所詮は一人じゃねーか! 俺ら四人は今じゃレベル20以上はあるんだぜぇ! 意味不明なカス職業で無能スキルのテメェに勝てる筈ねーだろがぁぁぁ、ギャハハハハハハ!!!」


「そうだジュン、こいつを殺りゃよぉ! アナハールさんの手土産になるんじゃね!? 」


「んで、あの銃も奪っちまおうぜぇぇぇ! そうすりゃもう少し好き勝手にできるってもんだなぁ、ヒャッハーッ!」


「お、俺ぇ! 黒咲をブッ殺したら、現実世界に戻る前に可愛い妹ちゃんを食ってやんよぉぉぉ!! 兄貴の死体の前で陵辱系エロゲーばりによぉぉぉ、うひょぉぉぉ堪んねぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


 どいつも下衆の戯言ばかりほざいている。

 すっかり人間性を失ってしまったようだ。


 《鑑定》で調べたら、確かに三井はレベル22。佐渡がレベル21に、鶴屋と須田がレベル20ある。

 同じ転移者だけあり、能力値アビリティも通常の人族より高いかもしれない。

 だが、しかし……。


「そっちこそ、たかがその程度でイキってんじゃないよ。ほら――」


 僕はあえて、自分のステータスを表示させ連中に見せつける。


「「「「――なっ!!!?」」」」


 途端、バカ笑いしていた四バカ共は黙り込み一気に凍りついた。


「レ、レベル32だと!? 嘘だろぉぉぉ!!!?」


 三井が真っ先に驚愕し声を荒げる。

 そうそう、あれからまたネムとヤンを対象にレベリングの訓練をライブ配信してフォロワーが32000人と増えたんだっけ。


「しかも全能力値アビリティ:1600って、そんなバカな!?」


「それに習得した固有スキルもたら多くねぇか!? とっくの前に、久賀や速水を完全に越えてんゃねぇかよぉ!?」


「いったい、どうすりゃそんなデタラメなレベルアップできるんだぁぁぁ!?」


 他の下衆達も僕のステータスに驚愕し戦慄している。

 レベル差もそうだが、三井達の能力値アビリティにおいても、最高値:300台がいいところだろう。

 奴らの反応を見る限り、やはり僕は勇者ブレイヴ越えしていたようだ。


「これが配信者ライバーの能力だ。レベリング方法が特殊な分、得られる恩恵も高く大きい。そして最後にもう一度だけ警告するぞ、大人しく投降しろ。そうすれば僕は、お前達に何もしない」


 僕の呼びかけに、三井達は「ぐぬぬぅ……」と奥歯を噛み締めている。

 

「黒咲がぁ! 誰がぼっちのテメェに従うか!」


「いくらレベルが高いだろうと、俺ら四人に勝てるわけねーだろうが!」


「俺らは現実世界に戻るまで後戻りができねーんだ! テメェをブッ殺して戻ってやんよぉぉぉ!」


「かかってこいやぁぁぁ、黒咲ぃぃぃぃ!」


 せっかくラストチャンスを与えたのに、このバカ共が……仕方ない。


「では、そうしょう――ライブ配信、再開ッ!」


 僕は『黒死鳥の仮面ペスト・マスク』を被り、配信者ライバーと化した。

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