第39話 下衆共との再会

 獣人族の幼女の名は、『ヒヨン』と言う。


 いきなり現れた四人組の勇者に、自分達の村が襲われ助けを求めに来たらしい。

 村からトラン町は最も近いとはいえ、数十キロは離れている。

 こんな幼い子が傷だらけで容易に訪れる距離じゃない。


 にしても勇者達って……まさか速水?

 いいや、それはない。

 あの完璧リア充がそんな真似をする筈はない。

 幼馴染の花音や壬生屋さんも傍にいるんだ。


「……ヒヨンと言ったね? その勇者達の特徴とかわからない?」


「う、うん……全員、男の人だった。黄土色の短い髪に強面の人、チリヂリ髪に太っていた人もいたよ。みんな強くて村の大人じゃ歯が立たないの」


 少なくても速水じゃないのは確かだ。

 ただ勇者と名乗っているだけかもしれない。

 けど特徴を聞く限り、なんだか覚えがあるんだけど?


 ヒヨンは僕にしがみ付き、その大きな瞳から大粒の涙が零れている。


「助けてお願い……勇者達だけじゃないの。大きなモンスターをたくさん連れて、手がつけられないの。お父さんがヒヨンだけ逃がしてくれて……助けを呼んで来てって」


 モンスターを従えているだと?

 なら魔王軍か?


「わかった。僕達が必ずそいつらを追い出してやる。ヒヨンはここで待っていてほしい。ロルネロさん、お願いできます?」


「わかった。急ぐ旅でないし、ええで! ユヅキはん達、気をつけなはれや!」


「……ありがとう、お兄ちゃん」


 

 僕は頷き、ヒヨンをロルネロに預けた。

 町の人から馬を二頭借りて、トランの町を出る。

 ヤンが場所を知っているので案内してもらい、僕は黒子猫の姿に戻したネムと共に後ろに跨った。

 月渚は《騎乗》スキルで馬を巧みに操り、後ろにはイリスが乗っている。


「相手が魔王軍であれば、兄貴のことが聞けるかもしれないっす」


「そうだな。けどあくまで村を救うのが優先だ。油断しないでくれよ。イリスもな」


「無論です。今の私では、どう足掻いてもジオスに勝てませんので……せめて全盛期まで戻らないと」


 イリスは死霊女王ネクロクィーンの呪いを解かれたことで、半分もレベルダウンしてしまった状態だ。

 それでも、レベル34と僕達の中では一番高い方だけど。

 また元凶である魔王軍の幹部とされるジオスは嘗て彼女の弟子であり、裏切られる形で殺されて死霊女王ネクロクィーンにさせられた過去があった。

 僕との約束事もあるが、イリスもジオスへの復讐のため行動を共にしている。

 普段は僕の貞操を狙う痴女一号だけど……。


◇◇◇


 間もなくして獣人族の集落が見えてきた。

 ドス黒い煙がそこら中に立ち込めており、近づく度に焦げの匂いが鼻につく。

 至る箇所で家屋が炎を上げる中、逃げ惑う獣人族とモンスターらしき影が浮かび上がる。


 ゴブリンを筋肉隆々にしたホブゴブリン。

 二本角が生えた鬼のような巨漢のオーガ。

 また巨大ミミズのワーム。

 さらに獅子の頭と山羊の頭と鷹の頭を持ち、蛇の尻尾と背には蝙蝠の羽を持つ混合魔獣ことキマイラの姿もある。

 どれも強力なモンスターばかり、100体以上はいる相当な数だ。


「こいつら、やはり魔王軍か?」


 僕は馬から降りると、《収納》ボックスから『黒死鳥の仮面ペスト・マスク』を取り出し装着する。

 ネムも《使い魔》として女の子に変化した。


「……ぱっと見はそれっぽいっすけど、なんかモンスターの編成に統一感がないよう感じるっす」


「ヤンさんの仰るとおりかもしれません。どれも強力ではありますが、どこか寄集めのような感じがいたします。おそらく何者かに捕縛された野生のモンスターで、この村に放たれたのでしょう」


 ヤンとイリスの見解どおり、モンスター達は誰かに指示されることなく好き放題に暴れているような印象を受ける。

 確かに誰かに仕込まれ感はあった。

 まるで僕達が来ることを見越したように……罠か?


「ご主人様、このまま放っておくことはできないミャア!」


「獣人族のみんな助けよ、お兄ちゃん!」


 ネムと月渚の言葉に、僕は力強く頷いて見せる。

 どちらにせよ、僕達のやるべきことは決まっていた。


「ああ勿論だ! 僕達で奴らの暴挙を食い止めるぞ! 月渚とネムで獣人族の救出と避難誘導を! ヤンとイリスでモンスターを討伐してくれ! 僕は首謀者とする、例の四人の勇者とやらを探し出す!」


 僕の指示で、女子達は「はい!」と頷き迅速に行動へと移して行く。

 みんな個性的だけど、こういう場面での統一感と連携力は抜群だ。


 僕の方は、そろそろライブ配信を始めてもいいだろう。

 片腕を翳し、頭上に半透明のチャット板を出現させる。


「《配信》――こんちわ! 黒月チャンネルです! 皆さん元気してたぁぁぁ!?」」



:待ちくたびれたわ

:おっ、久しぶりやん

:ちわー

:ちわ

:ちわっす

:やっとキタ

:寝落ちしてたw

:黒兄、久しぶり

 


「いやぁ更新できなくてすみません。最近、立て込んでいたもので(特に女子達との相部屋の件)……只今、緊急のクエストで獣人族の村を襲撃するモンスターを討伐するために来ております! 現在、女の子達が対応し、僕は僕で首謀者とされる勇者を名乗る四人組を探して、いっちょヤキを入れてやりたいと思っています。名付けて――ドォン!」



【実況ライブ】勇者っぽい首謀者達を探し出すまで帰れません!


:勇者っぽいって何よw

:そもそも勇者じゃないんだろ?

:釣り感満載じゃん

:どんな配信だよ?

:顔しらないのに探せるのか

:しゃーない。これ使ってみ。


【スパチャ】

《検索》スキルを獲得しました



 おっ! 思惑どおりお助けスキルをゲットしたぞ!

 《検索》は幾つかお題を提示することで、目的の内容を探し出すことができるスキルか。

 欠点としてはお題の項目が少なすぎたり、異世界に存在しないモノ、別のスキルや魔力によって隠されたモノは検索に引っかからないようだ。


 よし、まずは使ってみるか!

 《検索》スキルを発動すると、目の前に半透明のメニューバーが浮かぶ。

 ここに検索したいお題を入力すればいいのか。

 僕は、ヒヨンが教えてくれた情報を入力してみる。


〔お題入力→勇者、偽物、四人組、黄土色、強面、チリヂリ髪、太っている、居場所、マップ〕


 ちなみに項目が多ければ多いほど、ヒットする確率が高くなるらしい。

 間もなくして、頭の中に四人組の居場所と思われる地図が浮かび上がった。


「……おっ、凄いスキルだ。下手に探し回るより余程早いや。視聴者さん、【スパチャ】あざーす!」


 神様疑惑のある視聴者さんにお礼を言い、僕は地図に沿って駆け出した。


 何やら偽勇者四人組は、とある民家の中で屯している。

 そこでさらったと思われる獣人族の娘達を連れ込み、今にもいかがわしい行為をしようとしていた。


「――そこまでだ、下衆共ッ!」


 僕は扉を蹴り破り、愛銃リベリオンを構える。


 が、


 ……ん?

 あれ?

 こいつらって……。

 何故、ここにいる?


「んだぁ、テメェ! 何モンだ!?」


「気味の悪りぃ仮面被りやがって、噂の魔族か!?」


「魔族!? やべぇよ、ジュンちゃん! 聞いてねーよ! しかも銃みたいなの持ってるぞ!」


「今よぉ、取り込み中だ! せっかく獣人族の女共とヤレるチャンスだってのによぉぉぉぉ!!!」


 間違いない。

 クラスメイトの三井、佐渡、鶴屋、須田の四人組だ。

 勇者を偽っている首謀者って……こいつらのことだったのか?


「……い、いったん休憩に入ります」


 僕はライブ配信を停止させ、被っていた仮面を脱いだ。

 晒した素顔を目の当たりにした、三井達の表情が一斉に強張る。


「「「「く、黒咲!!!?」」」」

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