第36話 急遽の護衛依頼
どういうわけか、ロルネロという商人にヤンがダークエルフだとバレてしまった。
なんか面倒くさいことになりそうだ。
まぁ、騒いだら無視して立ち去りゃいいだけの話か。
ロルネロは、僕の顔をチラ見して「失礼しました」と頭を下げる。
「ワイ、商売上、《鑑定》スキルを持ってますねん……白エルフ嬢はんにしては、そのぅ随分と育ってるなぁって……えろ~すんません」
どうやら、ヤンのむっちりしたボディに違和感を覚えたようだ。
流石に体形だけはどうしょうもないからな。
けど、ダークエルフを邪悪認定している人族にしては、それほど怯えてないように見える。
「おっさん、ウチがダークエルフだったら都合が悪いんっすか?」
「いいや、んなアホな。嬢はん魔王軍じゃなさそうやしワイの出身国、ラスタジアにも善良な黒エルフのお得意様がぎょうさんおられますぅ。あくまで興味本位で聞いたまでなので、どうか気になさらんといてください」
へ~え、大都市ラスタジアとはそういう国なのか。
君主制とは違い様々な種族が混在する分、人種差別とかないのだろう。
少し好感が持てるじゃないか。
「人族のみんながロルネロさんのような価値観をお持ちなら、わざわざヤンの肌を白く塗って見せることもないんですけどね……全て魔王軍が悪いのでしょうけど」
「ウチらは長生きしている分、気にしないっす。ただご主人様達の迷惑にならなければそれでいいっす」
こんないい子なのに……なんだか歯痒い。
月渚の件が片付けば、そっちの方にも力を入れるべきか。
どうせ魔王軍を斃さないと、元の世界にも戻れないようだしな。
「それじゃ、僕達はこれで……」
「ユヅキはん、待ってーな」
立ち去ろうとしたら、ロルネロに呼び止められてしまう。
「何か?」
「……そのぅ。ユヅキはんらは、どちらに向かわれとるんですか? そちらの方向やと、ワイと同じラスタジアじゃちゃいますか?」
「まぁ、そうですけど」
「せやなら是非にこのままラスタジアまで護衛をお願いしやす……勿論、お礼は弾むやさかい、どうでっか?」
なんでも生き残ったのは、ロルネロだけで彼一人では取り残された荷馬車を運搬するのに不安があるようだ。
う~ん、悪くない話か。
ロルネロと一緒に同行することで馬車にも乗せてくれるし、徒歩よりも断然早く到着するだろう。
本当なら素材を《錬成》して、《設計》スキルで車やバイクもどきなど作れなくもないけど目立つ行動はしたくなかった。
月渚の件もあり、下手にアナハールや魔王軍に目を付けられ兼ねないからだ。
奴らの得体が知れない以上、あくまで異世界のルールに則って自然に装うのが最良かもしれない。
それが僕たちの旅のテーマだと思っている。
幸いヤンにはわだかまりないようだけど、月渚が空腹を訴えてボロを出してしまわないか心配だ。
それに、かなり精度の高い《鑑定》スキルもあるようだから、何かの拍子でイリスやネムの正体を知られてしまっても厄介だろう。
「ロルネロさん、一つ条件を出していいですか?」
「なんでっか?」
「僕以外の仲間達に《鑑定》スキルを使わないこと。あと詮索も駄目です。何か聞きたいことがある時は、必ず僕を通してください。それが条件です」
「わかりましたわ。それじゃよろしゅうお願いしますぅ」
僕は「こちらこそ」と同意し、固い握手を交わした。
こうして急遽、商人ロルネロの護衛役を担うことになる。
馬車の運転は順番で行うことにした。
僕は初めての運転で少しテンションが上がる。
異世界の住人であるヤンとイリスも問題ないが、ネムは正体が黒子猫だからか馬がバカにして言うことを聞かない。
あと意外な才能を発揮したのは、妹の月渚だ。
持ち主であるロルネロよりも上手に操作している。
考えてみれば《騎乗》スキルを習得しているからな。
まさかこんな場面で活かされるとは……。
けど案の定、時間が経つと月渚は空腹を訴え始めてくる。
危なく馬を食べようとする言動もあった。
僕達はロルネロにバレないよう、ちょくちょくと食べ物を与えなんとか乗り切る。
何も知らない商人のおじさんは「妹はんは食欲旺盛で結構ですわ~」と呑気に笑っていた。
◇◇◇
本来なら五日以上はかかる中間地点に位置する、トランの町。
馬車のおかげで、三日くらいで到着することができた。
「よく考えてみたら、人族が運営する町に来たのは初めてだ」
「ユヅキはん、ほんまでっか?」
「いえ、冗談です」
危ない。
つい感動して言葉に出してしまった。
ロルネロには女の子達の詮索はしないように約束しているとはいえ、肝心の僕がボロを出しては意味がない。
にしても如何にもファンタジーっぽい中世風の光景だ。
僕が生まれた近代社会とは違って娯楽は少ないかもしれないけど、逆に人々が賑わって活気に溢れているような気がする。
古き良きなんちゃらってやつか。
ロルネロの案内で、僕達は宿屋に泊まることになった。
お金も全て彼が出してくれるので何も心配がない。
ただ一つだけ、問題が生じる。
「皆はん、各自個室部屋なんで鍵なくさんといてや~」
「ひとつ不満を漏らしてよろしいでしょうか?」
珍しくイリスが挙手する。
「なんでっか?」
「ご主人様だけ、ルナさんと相部屋という点がどうも引っかかるのですが?」
「イリスさん何が言いたいの? あたしとお兄ちゃんは兄妹ですよ。別に可笑しい点はないではありませんか?」
「確かに血縁上は妹様でしょう。ですが体は立派な女性……そうですよね、ヤンさんにネムさん」
「うぃす! ルナ殿はあと二年もすれば、もっと凄いことになるっす!」
「ルナ様のお体、ふわふわのぷにゅぷにゅで気持ちいいミャア!」
「……皆さんの言っている意味がわかりません。特にネム、そういう意味で聞いているんじゃないわ……どうせ、あたしとお兄ちゃんが一緒にいると妙なことができないと思っているんでしょ? イリスさんの魂胆は見え見えです!」
月渚の指摘に、イリスは微笑んだまま穏やかな口調で「そんなことなど考えてませんよぉ」と言いつつ、背を向けた途端軽く舌打ちしている。
思惑はどうあれ、月渚も年頃なのは事実だ。
最近、妙に大人びたところもある。
特に《捕食》スキルで満たされた後の賢者モードは妙に艶っぽい。
現実世界では部屋こそ別々だったけど、ずっと同じ屋根の下で暮らしていたんだけど。
だから僕は別に気にしないのに……(鈍感)。
「ほな、こうしましょう。ワイが大部屋を取り直しますんで、皆はん方は、一緒に休まれたらええっとちゃいます? 勿論、ワイは個室でええですぅ」
ロルネロの妥協案に、女子達は「わかりました」と了承する。
特にネムは「みんな一緒ミャア!」とはしゃいでいた。
「すみません、ロルネロさん……うちの子達が我儘言って」
「ええですよ、ユヅキはん……今晩、頑張ってや」
はぁ? 何を頑張るって?
僕はいつも頑張って生きているんですけど!
ロルネロに妙に勘ぐられ「ええなぁ、ユヅキはん。お盛んでっせ~」と言われながら、食堂で夕食を共にすることになった。
そこで旅の冒険者らしき人達が話していた内容を耳にする。
なんでも近くに存在するムウワ王国で、同盟国であるグランテラス王国から流れてきた、冒険者達が他種族達の集落を襲い悪さをしているという。
そいつらはレベル20代にもかかわらず、かなり強力なスキルを持つ四人組らしい。
グランテラス王国?
四人組?
まさか……な。
「……花音さん、大丈夫だろうか?」
因縁深い国名を耳にして、つい心を交わした大切な子の顔が浮かんでしまった。
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