第35話 助けた商人

 僕達は旅を続けている。

 月渚の《捕食》スキルを消去可能な賢者セージを探すためだ。

 

 とりあえず大きな都へ行き、情報収取していきたいと思っている。

 消去できるという魔法の方法がわかるだけでもいいのだ。

 そうすれば新しく仲間になった、死霊魔法士ネクロマンサーのイリスが再現してくれる。

 

 魔王候補という理由で、アナハールとミザリーから追放を受けてしまってから二ヶ月くらいは経つだろうか。

 あのダンジョンで過ごしてきた時とは比べモノにならないくらい、僕と月渚は強くなった。

 さらに信頼できるネムとヤンも仲間に加わったことで、僕達は確実に一歩を踏み前に進んでいる。


「ヤン、この道を真っすぐ通れば、大都市ラスタジアに辿り着くのかい?」


「その通りっす、ご主人様。ただ結構な距離があるっす。徒歩だと10日は覚悟するっす」


 そうなのか。

 こんなことなら、ダークエルフの村で感謝のお礼として馬を二頭ほど貰えば良かった。

 荷台なら《再生》スキルで作れるからなぁ。


 ダークエルフと言えばヤンは今、白エルフの格好をしている。

 僕が《調合》と《錬成》で作った、肌を白く見せる特殊ファンデーションを露出した皮膚に塗っているからだ。

 雨でも降らない限り、メイクは落ちることはないだろう。


 何しろ人族の間じゃ、ダークエルフは邪悪な種族だと根強く浸透しているからな。

 道でばったり会った冒険者に敵とみなされ襲われたら厄介だ。

 可能な限り余計なトラブルは避けたいところでもある。


 そして僕達が向かっている、大都市ラスタジアは商業が栄える商業国家で君主制ではない共和国らしい。

 様々な種族達が暮らしており、中にはダークエルフやダークドワーフ、魔王軍に所属していない野良の魔族も共存して生活しているとか。

 また色々な国を行き来している商人達が溢れているため情報の宝庫だと言う。

 大都市だけに期待が持てる。


「ラスタジアに辿り着くまで野宿というのは些か辛いですね。確か中間地点に、トランの町がある筈です。そこで羽根を休めながら行かれてもよろしいのではないでしょうか?」


「イリスの言うとおりだね。そこで二、三日ゆっくり休んでから向かうのもありかもしれない」


「はい、ご主人様。そこで収集して不要な素材を売ることで旅の資金にもなりましょう。そして宿を取るのです。できれば個室が良いでしょう」


「なんだかぐいぐい進めてくるね……何か意図があるのかい?」


「決まっているではありませんか……ご主人様と夜伽のため、私がお邪魔しやすいためです」


 頬を染め、豊かな胸の谷間を揺らして見せる金髪美女のイリス。

 骸骨姿から肉体を得た反動なのか、やたら僕の貞操を狙ってくる。


「イリスさん! また、あたしのお兄ちゃんに妙なこと吹き込まないでください! みんな相部屋ですからね! あとお兄ちゃんの隣は譲りません!」


「そうだミャア! ご主人様の独り占めは駄目ミャア!」


「まったく、とんでもないビッチ・ザ・ガイコツっす!」


 月渚とネムとヤンが厳しい口調で指摘している。

 イリスも大人の余裕なのか「あらまぁ」とはぐらかしていた。

 うん。最近、すっかり賑やかになったもんだ(他人事)。


 すると。


 ぎゃああぁぁぁ、助けてくれぇぇぇ――。


 遠くの方から悲鳴らしき声が聞こえてくる。

 僕は《収納》ボックスから『黒死鳥の仮面ペスト・マスク』を取り出し被った。

 《千里眼》機能を駆使し遠くの前方側を見据える。


 大きな荷馬車の前で、人族らしき身形の良い商人風の男性がモンスター達に襲われている。

 隆々とした体躯に緑色の皮膚と豚の顔を持つ武装した20匹の『オーク』だ。

 地面には護衛と思われる傭兵達の亡骸が幾つも転がっている。


「あのままじゃ、男の人が危ない――《神速》ッ!」


 僕はスキルを発動する。高速化して突進した。

 移動しながら腰のホルスターからリベリオンを抜き銃口を向けトリガーを絞る。

 発射された銃弾が真っ先にオークの頭部を被弾し粉砕した。


「オグ!?」


 オーク達の注意は男性でなく、迫って来た僕に向けられる。

 連中が攻撃態勢を取ろうとした瞬間、僕は既に距離を縮め『三日月の死神大鎌クレセント・デスサイズ』に武装を切り替えていた。

 《会心撃》と《貫撃》スキルで攻撃力を上げる。

 そのまま大鎌で薙ぎ払い、オーク達の首と胴体を両断して斬り飛ばした。


「オゥゥゥグゥゥゥ――!」


 残ったオーク達は悲鳴らしき咆哮を上げ一斉に逃げ出している。

 奴ら厳つい見た目の割には賢い方で、敵わないと思ったら逃げ出す習性があるらしい。

 僕は深追いをせず、片手に握ったリベリオンを発砲して逃げるよう誘導させた。


 こんな連中をいくら斃しても僕の経験値にならないからな。

 あっ、《配信》するのを忘れていた……まぁ、この程度の相手との戦闘ライブ配信じゃ、逆に「黒兄、マンネリ化しとるw」とか揶揄されそうだしいいか。


 周囲に敵がいなくなったことを確認し、男性の方に視線を向ける。

 身なりの良さそうな商人風の中年男性だ。

 恰幅の良い丸みのある体形に口髭を生やしていた。

 男性は腰を抜かした様子で地面に座り込み、酷く怯えている。


「あのぅ、大丈夫ですか?」


「ひぃぃぃい、魔族だぁぁぁ!!!」


 魔族? 僕のこと言っているのか?

 ああ……『黒死鳥の仮面ペスト・マスク』を被っているからか。

 他所から見たら、確かに不気味で悪魔っぽいか。おまけに大鎌を持っているから余計だ。


 僕は仮面を取り《収納》ボックスに入れる。


「人間ですよ、黒咲 佑月といいます」


「……ニンゲン? 人族の方でっか? こりゃ勘違いしてすんません。ワイはロルネロちゅう旅の商人っすわ」


 何故か関西弁っぽい訛り口調で自己紹介してくる、ロルネロ。

 彼は安心した表情を向け、差し伸べた僕の手を握り立ち上がった。

 聞くところによると、大都市ラスタジア出身であり国に戻る際にオーク達に襲われたそうだ。


 間もなくして、月渚達が合流してきた。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


「ああ、見てのとおりさ。半分くらい逃がしてしまったけど、みんなの経験値のために残しておくべきだったかな?」


「いや、ご主人様。あんな雑魚、狩っても大した経験値にはならないっすよ」


 ヤンが言葉を発した途端、ロルネロの表情が険しくなる。


「あのぅ……そこのエルフの嬢はんは、ひょっとして黒エルフの方でっか?」


 あっ、速攻でバレてしまった。

 肌を白く塗っているのに何故だ?

 豊満な胸やナイスバディの体つきだからか?

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