第31話 新たな仲間達

「ユヅキ殿、ヤンを無事に連れ戻して頂いありがとうございます。なんとお礼を申して良いのやら」


 カレフ族長から感謝の言葉が述べられる。

 あれからダンジョンを出た僕達はダークエルフの集落に戻ってきた。

 

 ヤンが仲間の戦士達と合流し、互いに無事だったことに安堵している。

 月渚とネムも仲良くなった黒エルフ達と話し込んでいた。


「いえ、お世話になったお礼です。もう、あのダンジョンからモンスターは全て消えたので被害に遭うことはないでしょう」


「はい。まさか死霊女王ネクロクィーンたる者が『ぬし』として潜伏していたとは……それ故にそっち系のモンスターが多かったのですね。しかしユヅキ殿が斃して頂いたおかげで脅威が去りました。何から何まで本当に感謝しきれません」


「いや、こちらこそ……(すっかりダークエルフの見方が変わってしまったからね)」


 僕が頷く中、カレフ族長は隣に立つ長い金髪美女に視線を向けた。


「ユヅキ殿、そのお美しいご婦人は?」


「え? ああ……彼女はイリスと言います。なんでも名のある魔法士ソーサラーのようで、『呪界死霊の魔窟』ダンジョンで死霊女王ネクロクィーンの生贄にされそうになっていたところ、僕が助けたんです」


「その節は大変ご迷惑をお掛けいたしました」


「ご迷惑? 失礼ながら貴女様とは初対面ですが?」


 バカ丁寧に頭を下げて見せるイリスに、カレフ族長は「はて?」と首を傾げている。

 僕は慌てて彼女の前に立った。


「ははは、ヤンに対してですよ。彼女も貢献者ですからね」


「なるほど、確かにそうですね。ではイリスさん、どうかごゆっくりくつろいでください。その身形もよろしければ服を用意させましょう」


 カレフ族長は優しい口調で納得すると、村の黒エルフ女性を呼び出しイリスのために服を用意させるよう指示している。

 

 良かった……とりあえず上手く誤魔化せたな。

 操られていたとはいえ、まさかイリスが元凶の死霊女王ネクロクィーンだったとは口が裂けても言えない。

 罪悪感はなくもないけど、こればっかりは仕方ないだろう。


「それと、カレフ族長。ヤンのことですが……」


 僕が切り出すと、族長はわかったかのように頷いて見せた。


「はい、既に本人から聞いております。魔王軍に連れて行かれた兄を探すため、ユヅキ殿達と旅に出ると……これも運命でしょう。どうかあの子をお願いします」


「わかりました。僕が責任を持ってお預かりします」


 そう伝え一礼して、カレフ族長から離れた。

 僕はイリスを連れ、月渚達と合流する。


 今日は一晩泊めさせてもらい、明日の朝に旅立つことにした。

 すれまで疲れを取りながら準備を行うつもりだ。



 翌日の朝。

 僕達はカレフ族長に温かく見送られた。


「そんじゃ族長にみんな、さらばっす! 次に会う時は、兄貴を連れて必ず村に戻るっす!」


 ヤンは満面の笑顔で大きく腕を振り、村の人達と別れを告げている。

 彼女のキャラと人望もあり、仲間達から別れを惜しまれつつ「元気でなぁ、頑張れよ~!」と激励されていた。


「みんなと別れて少し寂しいんじゃないか、ヤン?」


「ええ、みんな家族みたいなもんっすからね……ご主人様ぁ、ウチがホームシックになったら、一緒に寝てくれないっすか?」


「え? まぁ隣で寝るだけならいいよ」


 預かった身としての責任ってやつかな。

 ついドキっとしてしまったけど……。

 けど僕を見る月渚の視線がどこか痛い。

 兄ちゃん、別に変なことしないぞ。


「フフフ、どうやら皆さんも想いは同じようですね」


 イリスは僕の隣で歩き、優しげな微笑を浮かべ見せてくる。

 彼女は新しい魔道服に身を包んでいた。


 戦闘の中、僕が斬り裂いてしまった魔道衣を素材に頂いた黒エルフ族の衣類と《錬成》して《再生》させ、さらに《刺繡》スキルで編み込んだ衣服だ。

 以前のボロボロだった魔道衣とは違い、清潔感溢れる生地に鮮やかな金色の刺繍が所々に施されている。

 一応、職業は死霊魔法士ネクロマンサーらしいので黒色を基調にしているけどね。

 それと本人の要望もあり、豊満な胸の谷間がぱっくり開いているなんとも刺激的なデザインだ。


「何が言いたいんだい、イリス?」


「いえ、独り言です。どうか気にならないでください」


「そう? ならいいけど」


 うっむ……つい年上のお姉さんに弄ばれてしまいそうな雰囲気を感じてしまう。

 イリスってぱっと見は育ちの良さそうなお嬢様風だけど、所々で妖艶さがあるんだよな。


 ともあれだ――。

 これからの旅は、当初の予定通りに大きな町で情報収集をしていこうと考えている。


 まずは月渚のこと。

 一日でも早く《捕食》スキルを消去する賢者セージと、その方法を調べなければならない。

 そうすれば月渚は魔獣化することもなく魔王候補からも外れ、これまで通り普通に生きていけるからだ。


 あとはグランテラス王国やクラスメイト達の現状も知りたいと思っている。

 特に花音さん……今でも彼女のことが気になって心配で仕方ない。


 流石の僕も同時に別々のことを行うのは無理だ。

 月渚を優先しつつ他の課題をクリアしなければならない。


「――やるべきことは山積みだ」


「そうですね、ご主人様。そのための私達従者です。これからはお一人で抱え込まれずになんなりと申し付けくださいませ」


 イリスがニッコリと笑い、とても従順な姿勢で見せてくる。

 長い黄金色の艶髪が風に流れとても美しい。

 視聴者さんからビーナスと称えられていたけどガチだと思った。


「ありがとう。僕にはイリスの力が必要だ……月渚のためにも」


 万一、《スキル消去》できる賢者セージが見つからなくても、その魔法さえわかればイリスなら術式コピーできると言う。

 つまり彼女さえいれば、条件さえ整えれば即行で問題解決できるとうことだ。


「勿論、ルナさんの《スキル消去》には尽力いたしましょう……ただご主人様とは、そのぅ一人のとして尽くしたいと存じます」


 急に頬を染めて両胸と上半身を揺らして見せてくる、イリス。


「ん? どういう意味だ?」


「……夜伽よとぎのご所望があれば、是非に私をご指名して下さいと申しているのです」


 えっ! よ、夜伽!?

 それって寝屋に誘えよ的な……いや駄目でしょ!


「ちょっとイリスさん、聞こえてますよ! あたしのお兄ちゃんに変なこと吹き込まないでください!」


「ご主人様はみんなのご主人様ミャア! みんなで一緒に寝るミャア!」


「いやネム殿、そういう可愛い意味じゃないっす! イリス殿はお淑やかに見えて、実はとんでもねぇ淫乱女っす! ウチの目の黒い内はご主人様の純潔は守るっすよ! てか奪われる前にウチが貰いたいっす! ちなみにウチも処女っす!」


 ヤンまでなんちゅうことを! 何故そーなる?

 てか誰もそんなこと聞いてないぞ!


 普段、温厚な月渚でさえ「もう、ヤンちゃんまで! もう油断できないんですけど!」と声を張り上げブチギレている。


 なんなんだ、これ? 所謂ハーレム展開ってやつ?

 賑やかになったのは嬉しいけど、色々な意味で前途多難になってきた気もする……。

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