第30話 呪解された洞窟

「ご主人様、無事だったすね? そこにいるセクシーな淑女は誰っすか?」


「ミャア! ヤンと同じくらいバインバインで羨ましいミャア!」


 ヤンとネムが、僕の隣に佇むイリスに視線を向けて訊いてくる。

 今更ながら説明しづらいが、義務としてしなければならない。


 僕はイリスとやり取りし《眷属》として仲間にした経過を正直に話した。

 ネムは良しとして、きっとヤン辺りは不満を言うに違いない。

 その覚悟をした上でだ。


「……そっすか。複雑な心境ではあるっすけど、魔王軍に操られ利用されていたのなら仕方ないっすね。イリス殿、よろしくっす」


「ヤン、いいのかい?」


 僕の問いに、ヤンは間を置かず首肯する。


「ご主人様が決めたのであれば、眷属のウチがとやかく言う話じゃないっす。それにイリス殿、ご主人様に仕えながら必ずルナ殿の《スキル消去》に協力するっす! それがウチからの条件っす!」


「ネムもそれでいいミャア!」


 二人の言葉に、イリスは赤い瞳を潤ませる。


「……皆様、本当にご迷惑をお掛けしました。これからよろしくお願いします」


 そう真摯に深々と頭を下げて見せた。

 よし、これでイリスを正式に仲間に迎え入れることができたぞ。


 月渚も着替えを終え、イリスと握手を交わしている。


「よろしくお願いします、イリスさん」


「はい、ルナさん。共に運命と戦いましょう」


 戦場から一変して微笑ましい光景。

 みんな性格が良い子ばかりだから本当に助かるな。

 なんだかいいパーティになりそうだ。


 そうだ……《配信》を再開しなきゃ。

 僕はチャットを再起動させる。



:おっ、再開したw

:イリスたん、黒兄のコート着とる

:逆にエロい

:パフパフ~

:パフパフ~

:上の奴ら、うぜえマジきめえ

:黒兄、下品な奴はBANしていいぞ!



「ははは。まぁ、落ち着いて。視聴者さんに紹介しまーす! 新しく仲間になった、イリスでーす!」


「イリス・ログワイヤーと申します。以後、お見知りおきを」


 彼女は配信者ライバーのことをどこまで知っているのかわからないが、チャット板に向けて丁寧にお辞儀をしている。



:よろー

:よろー

:よろしく!

:セクシー系が増えて良き

:大人の色気だわ

:黒兄、羨ましい

:いっそ代われ! ガチで!

:草

:ルナたん、いつの間にか戻っておる

:みんな乙



 うん、イリスにも好意を示すコメントが多い。

 また三人と違った華があるだけに、これから期待が持てるだろう。


 そういや眷属になったから、イリスのステータスは自由に見られる筈だ。

 確か死霊女王ネクロクィーンでなくなったので、レベルダウンしていると言っていたよな?

 どうなっているんだ?


 僕は《鑑定》を発動して観てみることにした。



【鑑定結果】

名前:イリス

レベル:34

職業:死霊魔法師ネクロマンサー《眷属》

体力:550

魔力:4600

攻撃:220

防御:200

命中:250

魔攻:4500

魔防:4600

敏捷:220

固有スキル:《百鬼》《白夜》《蘇生》《自己再生》《不死》《不老》《魔力増強》《速唱》《闇波動》《MP吸収》《HP吸収》

魔法:死霊魔法、闇系魔法、黒系魔法、炎系魔法、土系魔法、水系魔法、雷系魔法

状態:正常



 なるほど、確かにレベルと能力値アビリティ全般が半分になっている。

 まぁ、それでも僕達の中では一番数値が高いのだけど。

 イリスが言った通り、固有スキルと魔法は何も変わっていないのも幸いだ。

 職業は死霊魔法師ネクロマンサーか……おそらく月渚同様、固有スキルの影響だろうか?


 さらに他のみんなも今回のダンジョン制覇で爆上がり的なレベルアップが見られている。

 ネムはレベル25となり、ヤンはレベル29となった。

 彼女達は《使い魔》と《眷属》ということもあり経験値が獲得しやすく、さらに能力値アビリティの上昇率も高い。

 きっと今では、転移したクラスメイト以上の実力を持ってしまったのかもしれない。


 そして月渚もレベル28と大幅のアップが見られ、さらにモンスターを《捕食》したにより、新しいスキルを習得している。


 まずはスパルトイ軍団から奪った《剣撃》スキル。

 約5分間、剣撃の威力が30%上昇する。


 それとスリーピーホロウから獲得した《標的》と《騎乗》スキルだ。

 《標的》は一つの標的を定めてどこまでも追跡していく能力で、《騎乗》は軍馬や魔獣などに乗って戦う際に、戦闘力が30%上昇するらしい。

 

 う~ん、月渚は剣を使って戦うわけじゃないし、馬に跨って戦うというイメージもないよな。

 魔獣化したら、よりその機会は少ないだろうし、《標的》以外は不要スキルっぽいぞ。

 まぁ、あって損はないかもしれないか。


 最後に僕となるが、イリスとの戦闘や加入もありフォロワー数が30000人とバズる(特に今回はお色気シーンが多かっただけに余計だろうな……)

 したがってレベル30となった。

 確か冒険者で言えば、エース級の実力を持ったとこに相当する。


「視聴者さん、フォロワーあざーす! 皆さんの応援のおかげで、無事にミッションをクリアすることができましたー! 今回の《配信》はここまで! 次回をお楽しみにーっ! 最後にぃ、チャンネル登録よろしくぅぅぅ!!!」



:おつやま~お疲れさん

:おつやま

:おつやま

:みんな頑張った

:楽しかった

:仲間も増えて次回も楽しみ

:黒兄、これからも応援しとる。これやるわw


【スパチャ】

・《媒介》スキルを獲得しました。



 おや? チャットを閉じようとしたら新しいスキルを貰ったぞ。

 《媒介》か……なんでも仲間が不要となったスキルを別の他者へと移動させる、橋渡し役を担う能力のようだ。

 つまりパーティ間で習得したスキルを移動させ合うスキルなのか?

 ぱっと見は《譲渡》に似ているが、僕を仲介に挟んで仲間内でスキルを譲り合うことが可能となるという点は明らかに異なっている。


 また欠点なところは、その者の職業で備わった固有スキル(配信者ライバーの僕で言えば《配信》スキルに該当する)は《媒介》できないか……。


 けど、これって凄いスキルじゃね?

 ってことは、月渚が《捕食》して得た不要なスキルを他の子達に移動できるってことになるじゃないか!?

 さっきの《剣撃》や《騎乗》も月渚にとって不要なら、ネムかヤンかイリスに渡せばいいってことだ! なんなら僕でもいい!

 まぁ当然捕食スキルの移動は無理だけど、パーティの強化には繋がるぞ!


 ライブ配信を終わらせて沢山の収穫を得た僕達は、悠々とダンジョンから抜け出した。

 イリスが死霊女王ネクロクィーンでなくなったことで、これまで散々現れていた幽霊系ゴーストモンスターも現れなくなり、禍々しい雰囲気も通常の洞窟内へと一変する。


 ようやく長きに渡る呪縛が解かれた。

 そう思っていいだろう。


 こうして全ての脅威が去った今、もう誰からも『呪界死霊の魔窟』と呼ばれることはない筈だ。

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