第29話 絶世のイリス

 イリスの話によると《スキル消去》は太古より存在する究極の秘術だとか。

 固有スキルの中には、月渚のように所有者本人あるいは周囲に害を及ぼす能力があり、それら能力を因果戒律から消去させて無かったことにする魔法があるのだと言う。

 

 まさに僕と月渚が望む力じゃないか――。


「それで、《スキル消去》できる賢者セージはどこにいる!? なんでもいい、教えてくれ!」


『……詳しくはわかりません。ただ生前、それを生業にする者がいたという話です。もう500年以上前のこと。おそらく途絶えた可能性もあります……が』


「が?」


『方法さえわかれば、私なら再現が可能です』


「なんだって!? 本当なのか!?」


『ええ、最初に言いましたよね。私は嘗て名のある魔法士だったと……一度、目の当たりにするか、魔導書があれば魔法のコピーができます。まぁその能力のせいで、ジオスに目を付けられ殺され、このような姿にされたのですが……』


「そいつ魔王軍の幹部だったな? おま、いやあんたとはどんな関係だったんだ?」


『ジオスは私の弟子でした……有り余る才能があったばかりに禁断の魔法に触れ、師としての責任により私は彼を封じようと試みたのですが、返り討ちに遭いこの有様に成り果てたのです』


「それで僕にジオスを斃せと……なるほど、わかった」


 どうやらイリスはジオスって奴に殺された後、操られる形で死霊女王ネクロクィーンをやらされていたようだ。

 現に時折、魔王軍の何者かが洞窟からスリーピーホロウや死霊系モンスターを連れ出していたという証言もあった。

 案外、モンスター兵の生産的な役割を彼女は担わされていたのかもしれない。


 であればイリスも十分な被害者だと言える。

 けど犠牲が出ている以上、これまでのことが全てチャラということにはならない。

 さらに魔力だけなら十分に魔王級の力を持つ存在だ。

 このまま放置していいとは思えない。

 

 しかし……月渚のため、僕にはイリスの力が必要だ。

 この先、旅を続けて行く中で《スキル消去》できる賢者セージが見つかるとは限らない。

 それより手掛かりや方法を探して、イリスに魔法を再現させた方が可能性は高いんじゃないのか?


 当事者のヤンやダークエルフの民達には悪いけど……僕は月渚を優先したい。


「イリス……条件づけで、あんたのこと助けてもいい」


『え? 条件でしょうか?』


「――僕の《眷属》になること。そして、償いとして弱者を守る立場であってほしい。これからは共に戦おう」


『ラ、配信者ライバー様……』


「佑月……黒咲 佑月。それが僕の名前だ」


『わかりました。このイリス・ログワイヤーは、ユヅキ様の眷属として永久の忠誠を誓いましょう』


「決まりだな――《眷属》スキル!」


 僕は骸骨の破片に掌を翳し、スキルを発動させた。

 するとバラバラだった骨の破片が一箇所に集まり、逆再生するかのように組み合わさっていく。

 元の骸骨に戻ると、額に『眷属紋章』が刻印された。


 これでイリスは僕の眷属になったことを意味する。

 もう誰かに操られたり悪さをすることは二度とない。

 今後は僕と月渚のために力を貸してもらう。


 すると骨に異変が起こる。

 全体がぶくぶくと泡立って、何かが膨れ上がり増殖し始めた。

 これは細胞なのか? 

 次第に筋肉や臓器のような形へと変わり、グロい感じで構成されつつある。


「おいイリス、何をしている?」


『本来の肉体を《蘇生》させています。ご主人様・ ・ ・ ・に敗北したことで、私はもう死霊女王ネクロクィーンではなくなってしまったので……資格を失った結果、大幅なレベルダウンが予想されますが、習得したスキルや魔法はそのままなのでご安心ください』


 何に安心していいのかわからないけど、要は意識以外の封印も解かれ生前の状態に《蘇生》されようとしているのか?


 次第に筋肉組織が形成され真っ白な皮膚に覆われる。

 血液が全身を巡らせ、血色の良く張りのある艶肌へと変わっていく。

 黄金色の長い髪が生え揃い、美しい女性の裸体となった。


 女性は、ぱちっと瞼を開いた。

 むくっと起き上がると、若干目じりが垂れた赤色の瞳を僕に向けた。


「イ、イリスだよな?」


「はい。ご主人様。《蘇生》が終わりました。これから何なりとお申し付けください」


「わかったよ、うん……まずは何か服を着てくれないか?」


 僕は目を背け、もじもじと体をくねらせる。


 何せ彼女は生まれたままの姿で真っ裸だ。

 形の良い二つのたわわな果実がブルンと弾けている。

 凄い……胸の大きさだけで言えばヤン以上だ。


 おまけに顔立ちも凄く綺麗で優しそうな年上風のお姉さん……見た目は二十歳代くらいの正真正銘、絶世の美女と言える。

 とてもさっきまで僕と死闘を繰り広げていた、骸骨の死霊女王ネクロクィーンと同一人物とは思えない。


「しかしご主人様、肝心の衣類がございません。纏っていた魔道服も貴方様に切り裂かれてしまったので……申し訳ございません」


「なんだって? そうか……あっ、ちょっと待って!」


 やべぇ、まず先にライブ配信切っておかないと。

 案の定チャット欄はコメントの嵐で流れている。

 僕は慌てて「一旦、停止しまーす!」と告げみた。


 が、



:切るなよ! おまっ配信切るなよ!

:黒兄、もう少しだけ!

:美しい……イリスたん。いやガチで

:エロスを通り越して芸術だわ

:イリスたん、実は超ビーナスだった件w

:草

:草

:草

:悪いこと言わん。はよ切った方がええ、炎上するで

:そうそう炎上したら一週間は配信できなくなるからねw

:草ァァァ!



 なんだって、やばいぞ!

 炎上したら一週間も《配信》スキルが使えなくなるってマジかよ!?

 それって、配信者ライバーにとって生命線が絶たれてしまうってことじゃないか!


 僕は視聴者さんに「失礼しまーす!」と告げ、ライブ配信を停止させた。

 とりあえず溜息を吐いて気持ちを落ち着かせる。

 視線を背けたまま自分が羽織っているコートを脱いで、イリスに手渡した。


「……と、とりあえずこれを羽織ってくれ。服は後でなんとかするよ」


「わかりました」


 イリスは従順に頷き、コートを着用する。

 一応は膝上から裸は隠せるけど、彼女の場合大きな両胸のおかげで谷間だけは隠し切れず露出されたままだ。

 まぁ、一応は目のやり場に困らなくて済むかな?


 一方で、月渚達も少し前に決着がついていたようだ。

 月渚は元の姿に戻っており、瓦礫と化した石床に座り込んでいる。

 ネムとヤンがそんな妹に寄り添い介抱していた。


 当然ながら月渚も裸の状態だった。

 魔獣化してしまうと、どうしても着衣が破られ失ってしまう。

 こればかりは仕方のないことだ。

 破られても再生する衣服が作れればいいんだけど。


 僕はイリスを連れて、月渚達に近く。

 《収納》ボックスから予備の服を取り出し、妹に渡した。


「……ありがとう、お兄ちゃん」


 もう慣れたのか、虚ろな表情でお礼を言ってくる、月渚。

 魔獣化が解かれた後の妹は賢者モードに入るのか、どこか大人びて艶っぽく見えてしまう。

 兄である僕以外の男には絶対に見せてほしくない表情だ。


「とにかく服を着てくれ。兄ちゃんはそっぽ向いているからな」


 ペスト仮面を被ってなければ、きっと顔中が耳元まで真っ赤であるに違いない。

 イリスといい、身近にいる女子達の裸率が高くて正常な男子として困ってしまうんですけど……。

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