第25話 斬新の武器

 怨霊の黒犬ことバーゲストが怯んだ隙に、僕は開かれた真ん中の空間に割り込んだ。

 大鎌を縦横無尽に振るい斬撃を与え、さらに周囲の数を減らしていく。


「30秒経過、魔力チャージ完了! これで終わらせる――《乱風》!」


 僕は大鎌を回転させ、新たな風系魔法を発動させた。

 《乱風》は《風牙》を連続して放つ斬撃だ。

 打ち出された飛燕の刃が地面と壁を這うように流れ、バーゲスト達を追っていく。

 誘導性はなく命中率はそれほど高くはないが、ダンジョンの中では逃げ場ほ限定されるので狙いやすい。


「グギャァ!」


 大半のバーゲストが餌食となり、体を引き裂き消滅していく。

 残りの敵はリロードを済ませたリベリオンで撃ち抜き決着をつけた。


「レベルも上がったおかげで、多対戦でも無傷で対応できるようになったぞ。ひょっとして勇者ブレイヴの速水より強くなったんじゃないか?」


 自惚れかもしれないが、これだけ快勝だとそう思えてしまう。

 全能力値も平均:1250で三桁を超えているからな。

 配信者ライバーは特殊なレベル上げをする分、上がった時の恩恵が半端ないんだ。


「ユヅキ殿~!」


 勝利を収めた僕に、ヤンが駆け寄り両腕を広げ飛びついてくる。

 思いっきり抱きつかれてしまう。

 

 初めて妹以外の女子との抱擁。

 しかもスタイルが良い分、ボリューム感が半端ない。

 特に柔らかくて張りのある胸が落ち着けられ凄いことになっている。

 『黒死鳥の仮面ペスト・マスク』を被ってなければ、両胸の間に顔を埋めさせられ窒息しているかもしれない。



:結局、幸せやん

:まさに男の願望www

:寧ろ天寿全うだわ

:黒兄、ラッキースケベ回w

:黒エルフっ子ええなぁ

:白エルフとはボリュームが違うからね

:兄キ羨ましい

:草

:今すぐ代われ

:黒兄、背後に注意w



 え? 背後に注意?

 おわっ! なんで月渚とネムが殺気立ってんだ!?

 二人から見たことのない危険な視線が、僕にだけ向けられているじゃないか!

 ちょい、僕は悪くないだろ!


「ヤ、ヤン……恥ずかしいから離れてくれよ」


「おっと、つい感動してしまい……しかしこのような場所で、ユヅキ殿に会えるとは思わなかったっす!」


「何、天然なこと言ってんだ? ヤンを探しに来たに決まっているだろ? 村のみんなも心配しているぞ」


 僕は、呑気に笑っているダークエルフの少女に向けて経緯を説明した。


「……そうだったっすか。確かに族長の予想どおり、この有様っす。けど決して方向オンチとか迷ったワケじゃないっす」


「どういうことだ?」


「全てダンジョンの罠っす! この『呪界死霊の魔窟』、どうやら必ず一人は抜け出さないようにしている意図があるようっす……きっと『ぬし』の仕業っす!」


「主? ダンジョンのボスって意味か?」


 僕の問いに、頷いたヤン詳細を説明してきた。


 討伐中に仲間のダークエルフ戦士を拉致し逃亡したという、スリーピーホロウ。

 そいつを追って、ヤンは『呪界死霊の魔窟』のダンジョンに入ったまでは良かった。


 スリーピーホロウの目的はただ人質を取って逃げるのではなく、ダンジョンの奥に潜んでいる『主』に生贄を捧げる役割を担っていたと言う。

 危なく生贄にされそうなところをヤンは助け、スリーピーホロウを斃してから、そのまま仲間の戦士をダンジョンから逃がしたらしい。

 ヤンも追手のモンスターを斃しながらダンジョンから出ようとするも、何故か出口は消失して抜け出せなくなり彷徨う羽目になったそうだ。


「ダンジョンの奥は何かを祀る祭壇のようになってたっす。『主』の姿は見てないっすが、生贄とする仲間を逃がしたことで、今度はウチが生贄とされ脱出できないようで出口を見えなくしたっす」


「僕達は普通に入れたぞ。てことは、誰か一人だけは残されるルールのような法則があるのかもしれない。ヤンを追っていたバーゲストという黒犬達は?」


「ウチがスリーピーホロウを斃したと同時に地面から生えてくるように出現したっす。きっと『主』が差し向けた連中っす! 数体程度なら問題ないっすけど、あんな大勢じゃ逃げるしかなかったっす」


「それじゃ、僕達と合流するまでずっと逃げていたってわけか?」


「そのとおりっす。まぁちょびちょび斃していたっすけどね。でも矢を全て使い切るわ、自慢の大剣はへし折れるわで散々だったっす。だからユヅキ殿達が来てくれた時はどんなに嬉しかったことか……ガチ感謝っす」


「別にいいよ。寧ろ武器無しで良く逃げ切れたもんだ」


 そういや、ヤンは精霊魔法を使えるんだったな。

 精霊達の力を使って頑張れたのかもしれない。

 ピンチには変わりなかったようだ。


「本当、ヤンちゃんが無事で良かったよ……」


「ミャア、まったくだミャア」


 月渚とネムも無事だったことに安堵している。

 ヤンの人柄もあってか、すっかり仲良くなったもんだ。


 しかしだ。


「生贄のため、ダークエルフを拉致するなんて放置できないな……これまでの事柄から、その『主』って奴は魔王軍と何かしら関与している可能性もある。その祭壇に行き、『主』を斃す必要があるだろう」


「ユヅキ殿、やる気っすか?」


「ああ、どうせ誰かが残らなければここから出られない仕組みなんだろ? だったら僕が残って『主』と戦う。無論、負けるつもりは微塵もない」


「お兄ちゃんが残るなら当然、あたしも残るよ!」


「ネムもミャア!」


「月渚、ネムありがとう。ヤンはダンジョンから出た方がいい。村のみんなも心配していたしな」


「ユヅキ殿、お言葉っすが嫌っす!」


「ヤン?」


「こうみてもウチはダークエルフの戦士っす! 仲間を置いて自分だけ逃げるほど誇りを失ってはいないっす! それに武器なら、まだこれがあるっす!」


 ヤンは言いながら、腰裏に隠していた短剣ダガーを取り出して見せた。

 護身用の短剣で特に付与効果とかはなさそうだ。


「……わかったよ、なら一緒に戦おう。大剣が使えるのなら、僕が試作で作ったモノがあるが使用してみるかい?」


「ユヅキ殿が? 実は鍛冶師スミスだったっすか?」


「そうじゃないけど、それ以上の能力スキルを持っていると自負している。これを……おっと」


 僕は《収納》ボックスから、一振りの大剣を取り出して見せた。

 結構、重量のある武器なので取り出すのに少しばかりもたついてしまう。

 

 それは巨大なチェーンソー型の黒剣であった。

 剣身の刃が『魔狼ガルフ』の牙で構成され、握り部分グリップに取り付けたレバーを引くことで鍔に内蔵された魔力石を循環させ、アダマンタイト鉱石並みの硬質を誇る牙が剣身に沿って高速に回転するという仕組みだ。


 この機能で軽く触れただけで、どんな硬質だろうと両断することができるだろう。

 また反り部分にガード板を備え付けることでキックバック対策を施されている。

 ちなみに本体は先日斃したスリーピーホロウの大剣であるため、幽霊系ゴーストでも強力なダメージが与えられる優れモノだ。


 欠点としては重量があること。大人のヒト族でも使い勝手が難しい。

 ダークエルフは人族より身軽で敏捷性が高い分、力は並み以下だと聞く。

 僕でさえデッドウェイトを危惧して、使用場面を迷ってしまう武器でもあった。


 ちなみにこの大剣を『チェーンソード』と名付けている。


「素晴らしいっす! 是非に使わせてもらうっす!」


「しかし結構重いぞ。大丈夫か?」


「問題ないっす! ウチ、《軽量化》スキルがあるっす! どんな思い武器でも通常武器として扱える能力っす!」


 なるほど、それであんな大剣を背負っていたにもかかわらず軽快に木に登っていたのか。

 僕は納得し、ヤンに『チェーンソード』を手渡した。


◇ ◇ ◇


【補足:武器紹介】

〇チェーンソード

 タイプ:大剣

 攻撃力+3000

 防御力+1000

《魔力付与》

・実体のない幽霊系でも相応のダメージを与える。

・相手の防御力を無視し相応のダメージを与える。

《補足》

・闇属性を持つスリーピーホロウの大剣と魔狼ガルフの牙を素材に《錬成》させ《再生》させた魔剣でもある。

・本来は超重量武器で筋肉隆々の戦士が持つに相応しい武器だが、ヤンは《軽量化》スキルを習得しているため通常の剣として扱うことができる。

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