第24話 呪界死霊の魔窟

【ビビリ視聴禁止!】潜入、恐怖の心霊ダンジョン! ヤンを見つけるまで帰れません!


「こんちわ、黒月チャンネルです! 只今、僕達は『呪界死霊の魔窟』の中に潜入しております! 果たしてダークエルフ少女のヤンは見つかるのでしょうか!? 気になる、応援したいと思った方はチャンネル登録お願いします!」



:ちわー

:ちわー、兄w

:予告から楽しみにしてた

:黒兄、日々サムネとトークが巧みになって草

:ところでヤンって誰?

:先日の黒エルフっ子だぞ

:おお、あの子か。結構バインバインしてた

:妹ちゃん達と違ったボリューミー路線でいいじゃんw

:確かにwww

:白エルフと違い黒エルフ雑食性だから出るとこ出てる子が多いよ

:登録しました!

:登録したよん!

:はじまた



 フォロワー数、24000人に達しレベル24となる。

 前回のライブ配信から500人増えたってところだ。

 うん、自分で言うのもアレだけど鍛えて成長するわけじゃなから、妙な背徳感を覚えてしまう。

 こんなレベリングで良いのか的な……今更だけどね。


 僕達はダンジョンの中を進んでいく。

 つい最近まで暮らしていた『試練の魔窟』とそう変わりない洞窟内部だが、仄かに明さがあり視界も良い。

 微力ながら岩々に魔力が宿されているようだ。

 

 最初は随分と配慮されていると思ったが違う。

 おそらくこの明るさは演出するための舞台装置の役割であると気づく。

 そう、僕達のような侵入者に恐怖を煽るための仕掛けだ。

 

 不意に岩壁から三体の『幽鬼ファントム』が浮き上がり、僕達に襲ってきた。

 ぶっちゃけ鬼のような形相をした幽霊なのだが、物理的攻撃が効かない癖に向こうから攻撃を当てられるという理不尽な特性を持つ。

 ただし低級モンスター扱いされ、殴られてもさほどのダメージもない。

 なので通常なら、逃げてやり過ごすのが一番なのだが。


「こっちもライブ配信中だ。ネムの経験値稼ぎもなるし、迎え撃つぞ!」


「ミャア! 任せるミャア!」


 ネムは僕が新調した、新しい二本の短剣を逆手に持ち身構えた。

 以前の『雷撃ダガー』に前回斃したスリーピーホロウの鎧を素材にして《錬成》させ《再生》で構築させた武器だ。

 鎧は闇属性の魔力を帯び、物理攻撃が不可能な幽霊系ゴーストタイプにもダメージを負わせる効果を持つ。

 加えて雷撃効果も付与されているので、強力な魔剣ダガーとして作ることができた。

 さらに以前より攻撃力が倍くらいほど増している。

 僕はこの短剣を『雷魔ダガー』と名付けた。


 ネムは幽鬼ファントムに飛び掛かり、『雷魔ダガー』を巧みに操り斬撃を与えた。

 相手が三体だろうと《連撃》で確実に仕留める。


「ご主人様、勝ったミャア!」


 褒めてくれと言わんばかりに愛嬌を振りまいて見せる、ネム。


「うん、よくやった。偉いぞ」


「ミャア~」


 僕はネムの黒髪を撫でてやる。

 元が黒子猫だけに気持ち良さそうに喉を鳴らし、嬉しそうに顔を綻ばせた。


「……いいなぁ、ネム。お兄ちゃん、あたしも頑張るからね」


 何故か嫉妬する、月渚。

 子猫の時は別に何も言わなかったのに。

 ネムも今じゃ美少女の姿だけに、もう一人の妹として認知した上での焼き餅なのかもしれない。

 僕は「わかったよ。あと空腹になったら教えてくれ」と頷いて見せる。



:ネムたん超有能w

:オイラも頭ナデナデしたい

:オイラもルナたんにヤキモチ焼かれたい

:黒兄、羨ましすぎるだろ

:妹ちゃん祭りw

:草

:ネムたんにあげて


【スパチャ】

・《雷網》スキルを獲得しました



 ん? 《雷網》だと?

 なんでも一定の領域に雷撃系の網を張り巡らせ、相手を攻撃しながら拘束する強力なスキルか。

 弱点としては場所や狙いによっては味方を巻き込むので使用する際は注意して確認する必要がある。

 正直、僕が欲しいスキルだな。

 けどネムに渡さないと視聴者さんが怒りそうだ。


 僕は《譲渡》スキルで、《雷網》をネムに移行させる。

 

「視聴者さん、ありがとうミャア!」


 ネムは弾けるような満面の笑みをチャット板に向けた。



:ネムたんカワユス

:やべぇ、ホラー回なのに超癒されるぅ!

:反則だろ

:笑顔いだだきました!

:黒兄の策士ぶりよw

:美少女の笑顔というインフレ

:それな

:それだ

:それや



 別に意図してなかったのに、フォロワーがいっきに伸びて25000人となる。

 レベル25か……僕ぅ、まるっきり戦ってないのになんだかなぁ。


 それから先に進む度、モンスター達が出現して襲い掛かってきた。

 幽鬼ファントムは勿論、骸骨幽霊の『怨霊スペクター』に、B級ホラー定番の『腐屍鬼ゾンビ』と『喰屍鬼グール、さらに呪帯ミイラ男の『マミー』に至るまでだ。


 まるで罠を設置したかのように、地中や天井から次々と現れ襲い掛かってくる。

 ネムは覚えたての《雷網》を使いモンスター達の動きを止め、僕と月渚が遠距離から拳銃と弓矢で攻撃を与え確実に討伐していった。


 どいつも低級から中級程度の敵だが、クソゲーRPG並みにやたらと出現率が高い。

 僕達なら決して斃せなくもない相手だけど、ちょっと進む度に現れてしまうのでついこんな疑念が過ってしまう。


「……ヤンはたった一人で大丈夫なのか? 実はもう――」


 考えたくないけど、実際に探索して思ってしまった。

 彼女は相当腕が立つ戦士という話だが、これほどの敵に数では流石にっというやつだ。


 すると。


「おーい、ユヅキ殿ぉぉぉ!!!」


 遠くの方で、こっちへと走りながら誰かが手を振ってくる。

 見覚えのあるシルエット。明らかに女性のものだ。

 抜群のスタイルといい、あれは間違いない。


「ヤン! 無事だったのか!?」


「ユヅキ殿ぉ、どうかお逃げくださいっすぅぅぅ!」


 逃げろだって?

 よく見ると、ヤンの背後に大勢の何かが迫っている。


 首に巻かれた鎖を引き摺り、鋭い角と鉤爪を生やした紅の双眸を持つ黒い犬。

 実は怨念の集合体とする、『バーゲスト』だ。

 しかも相当な数、ざっと見て30匹以上はいる。

 まるで大波の如き怒涛の勢いで、こっちに向かってきた。


 僕はリベリオンをホルスターから抜き、ヤンに食らいつこうとするバーゲストの眉間を撃ち抜く。

 《貫撃》効果もあり、バーゲストの頭部が散開し胴体も霧状になって消滅する。

 怨念体だけあり、攻撃さえ通じれば泡のように脆い。


「ヤン、僕の背後に回れ! こんな連中、逃げるまでもない! 一人で殲滅する!」


 僕は銃を連射させながら、《神速》スキルで向かってくるヤンとすれ違う。

 瞬時に武器を『三日月の死神大鎌クレセント・デスサイズ』に切り替え、突進してくるバー数体を薙ぎ払った。


「ユヅキ殿!?」


「大丈夫だ! くらえ《風牙》!」


 僕は軽々と大鎌を振るい、備わっている風系魔法を発動させた。

 《風牙》とは疾風の曲刃を出現させ、近距離から遠距離の敵を直線状に斬撃していく攻撃魔法だ。

 射程にいたバーゲストの数十匹が出現した曲刃によって斬り刻まれ、次々と消滅していった。



:いきなり黒兄がイキり始めたw

:まぁ潜ってから、ほぼ何もしてへんからな~

:もっぱらネムたんとルナたんに戦わせてた

:ネムたんを強くするためだ。しゃーないだろ?

:黒兄、草

:頑張れ、兄キ!

:正直、黒兄のガチバトルが観たいです



 視聴者さんが盛り上がっているぞ。

 ヤンとも合流できたし、こりゃ期待に応えなきゃいけないようだ。

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