第23話 ヤンの捜索
少し経ってから僕も露天風呂に入り、久しぶりにまともに汗を流した。
《洗浄》スキルで体の保清を保っていたとはいえ、日本人だけあってかやはり気持ちが違う。
温泉に浸かりながら、ふと考える。
「王立図書館で読んだ本じゃ、ダークエルフは魔族同様、邪悪な一族って書いていたのにまるで違うじゃないか……お詫びとはいえ、みんないい人ばかりだ」
どうやら闇属性の体質というだけで、この集落に住むダークエルフのように魔王軍に所属していない者は普通に暮らしているようだ。
僕が思うに光と闇は表裏一体であり絶対に悪ではない。
勿論、僕の知らない異世界の歴史はあるにせよ、紆余曲折して捻じ曲げられている部分もあると思った。
温泉から上がり、僕はさっぱりしながら宿に向かっていると、道端に武装したダークエルフの人達が一ヶ所に集まり神妙な表情で話し込んでいた。
その中にヤンとカレフ族長もいる。
「どうしました?」
「これは佑月様、またダンジョンからモンスターが何体か溢れ出た様子でこれから討伐に向かうところでして……」
ダンジョン?
ああ、ヤンが言っていたスリーピーホロウが出てきたとされる洞窟か。
カレフ族長の説明によると『呪界死霊の魔窟』と呼ばれるダンジョンであり、500年前から特に
それまでは近づかなければ特別害はなかったので放置していたが、魔王軍が出没してモンスターを捕縛するようになってから、スリーピーホロウのように地上に出て被害をもたらすようになったようだ。
「魔王軍のせいでウチらの生活は滅茶苦茶っす! 本当なら奴らを捕えて、兄貴の居場所を聞き出したいっすけど……族長から止められているっす」
「当然です。こちら側から仕掛ければ、奴らは必ず報復に出てくるでしょう。確かに村の若い者や子供をさらうのは我慢なりませぬが……相手が相手だけにどうしょうもない。下手に抵抗すればこちらが追い詰められ、この村と森を失う事態となってしまう。それだけは避けねばなりません」
彼らダークエルフ達はこの集落を捨てることはできないのだと言う。
それは白エルフと違い、人族を始め他の種族から忌み嫌われている存在なので簡単に次の森を見つけることが困難だからだ。
誰も助ける者がいない中、多少苦渋を飲まされても耐えるべきところは耐えなければならない。
それがこの村の生き残る術なのだろう。
したがって本来なら閉鎖的な種族であり、とても僕達のような見知らぬ人族を招くことはあり得ない筈だ。
予めヤンから説明があったにせよ、少なくてもこの村のダークエルフ達は本で書かれているような邪悪な妖魔族で決してないのだけはわかる。
「ヤンも討伐に行くのかい?」
「勿論っす! この村を支える戦士っすから! ユヅキ殿はどうかゆっくり休んでくださいっす!」
ヤンはニッと白い歯を見せてくる。
確かに僕は部外者だからな。しゃしゃり出る話でもないか。
僕は「わかったよ。気を付けてな」と言葉を残し宿に戻った。
しばらくぶりに屋根のある部屋で寝ることができる。
用意されたベッドも快適だし、来てよかったと思う。
だけど……。
(やっぱり気になる……ヤンは大丈夫だろうか?)
今日会ったばっかりなのに、つい彼女が気になってしまう。
きっと彼女にも兄がいて、ずっと探したい気持ちを堪えている有様を見てしまったからか。
そう考えてしまい、結局あまり眠れなかった。
翌朝。
「――ヤンが戻ってないんですか?」
「ええ、ユヅキ殿。出没したモンスターを一掃後、『呪界死霊の魔窟』に行ったっきり……ヤンだけ戻ってない様子でして、どうしたものやら」
カレフ族長が難色を示しながら説明してくる。
広場ではダークエルフの戦士達が集まっており、「どうすりゃいいんだ?」と騒然となっていた。
なんでも殲滅寸前でスリーピーホロウの一体が、他のダークエルフの戦士を人質にしてダンジョンの中へと逃げてしまい、ヤンは単身でそいつを追って行ったそうだ。
幸い人質に取られたダークエルフの戦士は無事に戻ってきたものの、ヤンだけが戻って来てないとか。
「脱出した戦士の話だと、ヤンはまだダンジョン内にいるようです。ああ見えても、あの者は村一番の実力を持つ戦士……自力で脱出できる筈なのですが、何せドジというか……方向音痴なところがありまして、まったく困ったものです」
そういや出会った時からドジっ子の黒エルフだったっけ。
最初に僕達と遭遇した時も、実は討伐中に仲間の戦士達とはぐれてしまった経緯があったらしい。
どうりで一人で妙だと思ったら……。
憎めない子だし仕方ない。
月渚とも意気投合して仲良くなったことだし、これも何かの縁だ。
「カレフさん、僕達で良かったらヤンを捜索のためダンジョンに潜りましょうか?」
「おお、ユヅキ殿らが? よろしいのですか?」
「ええ皆さんにはお世話になったことですし、彼女に何かあったら妹も悲しみますから」
「うん、お兄ちゃん! 一緒にヤンちゃんを探そうね!」
「ネムも行くミャア!」
そんなわけで、僕達はヤンを捜索するために『呪界死霊の魔窟』ダンジョンに乗り込むことになった。
カレフ族長から洞窟の内部マップを受け取り探索の準備し、馬に跨り戦士達に近くまで送ってもらう。
「ユヅキ殿、我らも共にダンジョンに赴きましょうか?」
ダークエルフの戦士が、申し訳なさそうな表情で訊いてくる。
部外者の僕達だけ危険な場所に行かせるという後ろめたさが、彼らにある様子だ。
「いえ、僕達だけで十分です。ヤンは必ず見つけて連れて帰ります」
本当なら仲間は多いに越したことはないクエストだけど、月渚が心配だ。
万一空腹で魔獣化したものなら大変なことになる。
寧ろ僕達だけの方が安全だと判断した。
洞窟の入り口前。
ぱっと見は特に何もなさそうだが、空洞内がやたらと冷ややかな風が吹いている。
僕は《収納》ボックスから『
《魔力眼》を発動させ確認して見る。
「曰くつきのダンジョンだけあり、負の魔力が漲っている……きっと強力な『主』がいるに違いない」
「それってボスってこと?」
「ああそうだ。月渚、ネム、二人には《索敵》スキルがあるだろ? 常にアンテナを張って周囲に注意してくれ。僕も《予見眼》で先々を見据えながら対応するよう心掛けるよ。
僕からの指示に二人は素直に頷いてくれる。
あと
現実世界に例えるなら、ちょっとした心霊スポット、あるいはお化け屋敷って感じか。
「では行くぞ――《配信》ッ!」
僕は
頭上からチャット板を出現させた、ライブ配信したままダンジョンの入り口から侵入した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます