第19話 クラスメイトのチーム➁

「チッ、雑魚ばっかだな」


 身の丈以上の大剣を振るう、久賀の周囲には沢山のモンスターの残骸が散らばっている。

 あれからダンジョンに入り、僅か1時間程度で10階層まで到達してしまった。


「レン、オメェ飛ばしすぎじゃねぇのか?」


「自分だけ経験値上げてどうすんだよ?」


 同じチームである、鬼頭と門田が呆れた顔で近づいてくる。


「いいじゃん、レンは強いしぃ。流石はアタシのレンだわ」


 影山 舞はうっとりした表情でその武勇を眺めている。

 彼女は自称「レンの彼女」と言っているが実際そのような関係ではない。


「こんな雑魚モン、いくら斃したって経験値にならねーよ。クソゲーだな、この世界」


 そう言い切る久賀に、銀色の鎧を纏う速水が駆け寄ってくる。

 彼の背後には同じチームである、来栖、凛、花音が追いかけてきた。


「久賀君、何をやっているんだ! 単独行動は危険だと言っているだろ!?」


「うっせぇエリート。テメェらがちんたらしてかったるいからだろうが。いちいち面倒くせぇんだよ」


「戦えない白石先生だっているんだ! みんなだって初陣だし、ここは力を合わせて確実に進むべきだろ!?」


「知るか。俺は最初からイカれたテメェらに背中を預ける気はねぇ……こうして一緒にいるのは今だけだ。力さえをつけりゃ後は好き勝手にやらせてもらう。テメェは一生朴念仁のいい子ちゃんしてろ」


「久賀ァ!」


 勘に触った速水は掴みかかろうとした瞬間、来栖が止めに入る。


「総司、ここで彼と揉めても仕方ないよ。僕達は僕達の役割を果たすべきだ」


「……わかった、すまない。つい熱くなってしまった」


「ケッ」


 久賀は地面に唾を吐き捨て、とっとと前方へと進んでいく。

 仲間達は普段みられないリア充達の動揺ぶりに気を良くし、「やっぱレンだ。そこにシビて憧れるゥ!」「リア充共がざまぁだな」「文句あんなら、レンくらい強くなりなよ、ざーこ!」と捨て台詞を吐いて共に立ち去った。


「相変わらず抑制の利かない身勝手な連中だ。だから好かん」


 凛が吐き捨てる一方で、花音だけは思いが違っていた。


(……久賀くんの気持ちわかるよ。ひょっとして彼も黒咲くんを探すため、強くなろうとしているの?)


 決して正しいやり方ではないにせよ、貪欲に強さを求める姿勢に同調し共感を覚えていた。



「せいぜい潰し合えばいいさ……お気楽共め」


 その様子を遠くの方で、三井が眺めて呟いている。

 奴は魔法戦士マジックファイターという魔法と剣を併用、あるいは混合して使いこなす希少職業だ。


 中学の頃は名を馳せた不良だっただけあり他の生徒より戦う度胸が備わっているのか、そこそこの活躍を見せている。

 現に先走り暴走する「不良チーム」とそれを諫めようと場を離れる「勇者チーム」の間に入り、前衛としての役割を果たしていた。


「……ジュン、いつになったら実行するんだよぉ?」


 傍らで三井と仲が良い、『佐渡さど 友則とものり』が囁いている。

 見た目は普通の青年で細い双眸が印象的であるが、時折見開く眼光は鋭く悪相に思えた。

 職業は双剣士ダブルセイバーであり、近距離戦闘において攻防一体の戦い方を得意とする。

 佐渡もまた中学時代に三井とコンビを組んでいた不良であり、三井同様に久賀からヤキを入れられ一般人バンピーと化した過去があった。

 

「ん? 少なくても今じゃねーよ。せめて騎士団長のバルハルド以上の実力を身につけねーと、ただのイキリで終わっちまうぞ」


「ジュンちゃんの言うとおりじゃね? せっかくの異世界だ。ラノベばりに『超余裕』って感じで楽しまなきゃ損だぜ、なぁ?」


 三井に同調したのは、『鶴屋つるや 宏太こうた』。

 天然パーマに目の下にクマがある典型的なオタクだが、横暴な性格が三井達と同調し一緒にいることが多い。

 職業は槍術士ランサーで《穿通》という強力な固有スキルを持つ。


「早く強くなりてぇよ……一ノ瀬、壬生屋、芝宮、影山……力ずくで手に入れてぇ! クラスの女共ともヤリてぇ! どいつもエロゲーばりなことしてやんよぉ!」


 ひたすら下品なことを言う、『須田すだ 丈範たけのり』。

 卑猥な言動とは裏腹に、芸人のような愛嬌のあるひょうきん顔であり背が低く小太りな生徒だ。

 その見た目に反し職業は盗賊シーフで、なんでも凌辱系のエロゲーにハマっていると言う。

 

 そんな性欲旺盛な仲間の言動に、三井は首を横に振るって見せる。


「須田、悪いことは言わねーっ。あの四人はやめとけ。どいつも俺ら以上のレベルばかりバケモノ女だ。下手に手をだしたら逆に返り討ちに遭うのがオチだぜ。かと言って他の女達も職業やスキルは侮れねぇ……つまり『転移組クラスメイト』は触らぬ神だ。けどよぉ、それ以外の奴らは雑魚だな。ちょいと努力すりゃ、どいつも負ける気がしねぇ」


 女神の恩恵を受けた転移者達は実戦経験こそ浅いも、レア職業と強力な固有スキルを持ち全体の能力値が高い者ばかりだ。

 たとえレベル差があろうと能力値が勝っていれば負ける要素はない。


 しかもこの「下衆チーム」、何故か連携だけは他のチームより図れている。

 類は友を呼ぶと言ったところか。それ故にチーム間で揉めることもなかった。


(異世界の連中が俺らを利用するならよぉ。俺らも奴らを利用してやるぜ……まずは力をつけてやる。それから城を抜け出し天下を取ってやんよぉ。ぶっちゃけ怖ぇのは久賀だけだ。今にそれも克服してやる……ぜってぇ中学時代に返り咲いてやんよぉ!)


 三井は下衆らしい野望を秘めながら着々と任務をこなしつつ、周囲と同調する素振りを見せていた。


 ◇◇◇


 一方でグランテラス王城ではダンジョン探索に行かなかった「居残りチーム」では。


「今頃、速水くんはダンジョンの中かなぁ? 無事に帰ってくれればいいけどぉ」


「優実、そんなに心配なら、あんたも行けばよかったんじゃない?」


「やーよ。それとこれとは別ぅ。戦うなんて意味わかんなぁい。刈谷だってそう思って残っているんでしょ?」


「まぁねぇ、ボクは平和主義者だから野蛮なことはしたくないのさぁ」


 自慢の茶色に染まった前髪を掻き揚げ、『狩谷ありや 夏哉なつや』が微笑を浮かべる。

 涼しい雰囲気を持つ整ったイケメンで自分に酔いしれる陽キャのチャラ男、そんな印象だ。

 けどクラスメイトの大半は知っている。

 彼のチャラさは嘘で、本当は真面目で心優しい青年だ。

 職業は魔物使いテイマーであり、テイムした魔獣達を溺愛し戦わせたくないと理由で残っていた。

 またギャルである「新井 優実」に好意を寄せ、彼女に合わせてチャラ男を演じているのは割と有名な話である。


「あっそ。まぁ気持ちはわかるよ」


 優実の親友である『森脇もりわき 千尋ちひろ』は軽く流した。

 派手な金髪ギャルであり、少しぽっちゃりとして胸が大きい。顔立ちも悪くなく、一部の男子にウケがいい体つきをしている。

 職業は精霊術士エレメンタラーで、実は久賀のようなワイルド系が好みだとか。


「ねぇ、泉ちゃんもそう思うしょー?」


「……」


 優実は端っこのテーブル席に座るウェーブが入った黒髪少女に声をかける。

 少女は無言で頷くだけで一切言葉を発さない。


 『黄江おおえ いずみ』という少女だ。

 クラスで最も小柄で、色みのない蒼白な肌。顔立ちは西洋人形のように整っており、どこか神秘的な雰囲気を感じてしまう可憐な容姿。

 佑月と同様にクラス内では特定の友達がおらず、ああしていつも隅っこにいる。

 ただ綺麗な顔立ちと無害であるため、孤立しているわけではない。


 泉の職業は占星術士アストロジストだ。太陽と月、星々といった天文学の知識であらゆる未来を知る能力であり、それらを応用し奇跡を成す「占星魔法」を行使する希少職であった。


 そして、泉の手には固有スキルで作り出した「天球儀」が浮遊し回転を続けている。


(わかる……近いうちに黒咲君は戻ってくる。怪物の妹と使い魔を連れて……そして――)


 泉には見えていた。

 漆黒の鳥に扮した佑月が大鎌を掲げ、次々とクラスメイト達の首を刈り狂喜乱舞する姿が……。


 フッと泉の小さな唇が吊り上がる。


「――黒咲君、早く殺しに来てね」


 微かな声でそう呟いた。

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