第16話 ダンジョン脱出
『――いたぁいたぁだぁぁぁきまぁぁぁぁぁす!!!』
気がつけば、月渚が一角の魔獣化していた。
長く鋭利な爪を生やした大きな黒い手が、ケルベロスを軽々と鷲掴みにして持ち上げている。
そのまま三つの頭からバリバリと食べ始めていた。
最初は抵抗を見せた地獄の番犬だったが、結局成す術なく餌と成り果て《捕食》されてしまっている。
「ミャア! ご主人様ぁぁぁぁ!」
ネムが両腕を広げ駆け寄ってくる
僕の胸に飛び込んできた。
ちょっとぉ、傷だらけで痛いんだけど!
子猫の癖が抜けてないのか!?
「痛てて! ネ、ネム、悪いが離れてくれよ! それよりどうしたんだ!?」
僕の指摘にネムは「ごめんなさいミャア!」と慌てながら離れてくれた。
「そ、それが、魔力を消耗した月渚様が空腹を訴えて、またあのような姿に……最初は危なくネムが食べられそうになったミャア!」
ネムの話だと僕が以前やったように《軽快》で身を躱しながら、月渚をケルベロスのところまで誘導したらしい。
突如現れた漆黒の巨大魔獣を前に、ケルベロスは威嚇し果敢に攻めるもあっさりと返り討ちにあい、あのような末路を迎えたようだ。
さ、流石、魔王候補……いや、そこ感心するべきなのか?
それにしても、以前より体が大きくなっているような気がするぞ。
食事を終えた月渚は元の姿へと戻っていく。
満足したのか上気した大人びた表情を見せていた。
勿論、服は全て破かれて艶のはる肌を晒している。
僕は慌てて《配信》スキルを中断させ「休憩モード」に切り替える。
月渚の下に駆け寄り、《収納》ボックスから予備の制服を彼女に手渡した。
「月渚、大丈夫か?」
「う、うん……お兄ちゃん」
食後だからか、意識は戻るもまだ頭がボーっとしているようだ。
《鑑定》スキルで確認すると、月渚はレベル18となっていた。
またケルベロスを特性である《保存》《自己再生》《猛毒》を習得している。
《保存》は一定の間、自身や触れた物体の状態を保存できる能力で防御などに特化している。
そして《自己再生》は欠損した部位を元の状態に再生させ、《猛毒》はその名のとおり敵に毒効果を与え、または毒性に変えてしまう恐ろしいスキルだ。
さらに
《斬水》は水の刃を飛ばす攻撃であり、《暗闇》は敵の視界を一時的に奪い状態異常にさせる魔法らしい。
僕と同様、月渚も相当強くなっている。
いずれ自分の身は自分で守ってくれそうだ。
あとは《捕食》スキルで魔獣化さえ抑えられるか、あるいは消去さえできれば……。
シャドロムの口振りだと方法はなくもないらしいけど。
僕は頭を軽く振るい思考を切り替える。
ネムに月渚の着替えを手伝うよう指示し、彼女達から離れた。
シャドロムから言われたとおり部屋の奥側に地上へと昇る階段らしきものを発見する。
また近くには治癒用の
そして後回しにしていたシャドロムから譲り受けた戦利品を《鑑定》スキルで確認してみる。
【装備品】
〇
タイプ:大鎌
攻撃力+1500
防御力+500
《魔力付与》
・重さを感じさせず自在に操ることができる。
・最上級の風系魔法を使うことができる。ただし一度使ってしまうと次の魔力チャージまで30秒~60秒ほど費やしてしまう。
〇
タイプ:仮面
防御力+500
《魔力付与》
・あらゆる毒素と悪臭や微生物など完全防護できる。
・酸素のない空間でも10分間は空気を吸うことが可能。
・他種族の言語が翻訳化され、さらに知能のあるモンスターと意志疎通できる。
・尚、以下の魔眼機能が備わっている。
《予見眼》:数秒後の未来が見える。
《千里眼》:遥か遠くまで見通すことができる。
《魔力眼》:魔力を感知し見ることができる。
おおっ、二つとも凄いぞ!
『
しかも最上級の風系魔法が使えるなんて制限はあるにせよ、魔力値:0の僕にとっては感動の武器だ。
『
多方面の活躍が期待できる。
ん? 《予見眼》は《予見》スキルと能力が被っているぞ。
なら《予見》スキルの方をネムに譲渡するか。
僕は有難く、二つの装備品を譲り受けた。
早速、『
「皆さん、休憩終わったのでライブを始めたいと思いまーす!」
:ふわっ!
:誰だ、お前!?
:やべぇ、鳥人間!
:まさか兄キか?
:てかそれ敵のマスクじゃんw
:びっくりしたわー
:黒兄、ちーす
不気味な鳥の嘴仮面を被る僕を観て、視聴者さんから驚きのコメントが荒れたかのように流れていく。
「これは大変失礼しました。これからの戦闘する際、黒月兄はこのマスクを着用してライブ配信を盛り上げていきたいと思いまーす!」
あんた達の一部が、僕のこと「地味」とか「華がない」ってディスるからだよ。
これなら迫力を増して、コンプレックスも解消できるでしょ?
:うん、素顔よりいいかも
:イケメンになったw
:そっちの方がいいわ
:寧ろ映える
:草
:黒兄、必死すぎてワロタ
:色々と乙
:ルナたんどうしたの?
:オイラのネムたんは?
思いの外、受け入れてもらったけど複雑な気分だ。
フォロワー数も伸びて、いっきに20000人とバズっている。
ついにレベル20となった。
「大丈夫でーす! 二人とも元気です! 視聴者さんが応援してくれたおかげで無事に勝利することができました! あざーす!」
:無事でよきかな
:うん、頑張った
:その格好もイケてるw
:こちらこそあざーす!
:いいね
:お疲れさまでしたー
:パチパチパチ
:黒兄、これで癒してね
【スパチャ】
・《治癒》スキルを獲得しました
やった! 回復系のスキルを貰ったぞ!
本家本元の
「【スパチャ】感謝ッ! では、これにてライブ配信は終了します!! チャンネル登録よろしくぅ、まぁたねーっ!!!」
僕は《配信》スキルを解除させ、着替えを終えた月渚達と合流した。
「……お兄ちゃん、そのマスクは?」
「シャドロムが僕に残してくれたんだ。かなりの高性能でね……素顔を隠す上で都合がいいし、戦闘メインに被るって活動すると決めたんだ」
「そう……どんなお兄ちゃんでも、あたしは大好きだからね」
「うん、ありがと」
なんだ? 月渚には不評なのかな……大好きって言われたのは嬉しいけど、やたらと強調されてしまったぞ。
兄ちゃんだって、どんな月渚だろうと大好きだからな。
「そうだ、ネム。お前に《予見》スキルを渡すから、こっちに来てくれ」
「うにゃ。ご主人様、嬉しいミャア!」
僕は彼女の額に手を触れ《譲渡》スキルを発動させ、《予見》を移動させる。
これでネムもより回避能力に磨きがかかったことだろう。
それから三人で出口に向かい、地上へと続く階段を上って行く。
ようやく外へ出られそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます