第14話 試練の番人

 ネムの案内で、僕と月渚は階段のある通路へと向かった。

 結構な距離を歩かせられる。

 よく戻ってこれたもんだ。猫ならではの帰省本能だろうか。

 複雑に入り組んだ迷路でありこれまで探索したことのない場所だ。


 しばらく歩くと、とある空洞の前に着いた。


「ここですミャア!」


 ネムはドヤ顔で両手を広げ、ジャーンと言わんばかりに指し示している。

 確かに空洞には階段がみえるが。


「下り階段か……地上に出られるわけじゃないか」


 寧ろ下層へ降りてしまう階段だ。

 期待していただけに、少し残念な気持ちになった。

 勿論、ネムに責任はない。勝手に期待した僕の早とちりだ。


 けど確かに、これまでゴツゴツとした洞穴とは違っている。

 妙に整備された石床の階段、それに壁や加工された天井といい、明らかに誰かの手が加えられていた。


「大抵のゲームなら宝物庫とか何か重要なアイテムが保管されているかもしれないな……」


 せっかく来たことだし行くだけ行ってみるか。

 そう思っていると、月渚が服の袖を引っ張ってきた。


「……お兄ちゃん、《索敵》に反応があるよ。向こう側に異様な気配を感じる」


「なんだって? そういやネムも似たようなこと言っていたっけ……つまり何か潜んでいるってことだな。けどこのまま引き返しても仕方ないし、行ってみよう」


 僕達は階段を下りて行く。

 突き当りの奥には鉄製の扉があり、両脇には松明が灯されていた。

 如何にも何か潜んでいる雰囲気だ。


 扉を開けると中から明かりが漏れていた。

 中に入ると広々とした部屋になっている。

 天井も高く壁一面には蝋燭が灯り、部屋全体が照らされていた。


「――よくぞ参られた、追放されし者達よ」


 目の前に奇妙な格好をした男が立っている。

 鳥の頭を模したくしばし仮面、確か『ペストマスク』だっけ。とにかく、異様な形をした漆黒の仮面を被っている。

 鎧を着込んでいるも、細身で手足が細長く明らかに人間じゃない。

 魔族か?


 男の背後には巨大の体躯で三つの頭部を持つ猛獣がいる。

 確か地獄の番犬と呼ばれる超強力な魔獣モンスター、『ケルベロス』だ。


「あんた誰だ? どうして僕達が追放された者だと知っている?」


「我が名は『シャドロム』。ここはそういうダンジョンだからだ。汝らがここを脱出するには、我らの屍を越えるしかない。そういう決まりである」


 つまりこのシャドロムって奴は、『魔窟』ダンジョンのボスってことか?

 こいつを斃すことで、僕達は地上に上がれるとも言っている。


 シャドロムは腕を翳すと掌から異空間が発生した。

 奴も《収納》ボックスを持っており、そこから柄が長く大きな曲刃の武器を出現させ手にする。

 死神が持っていそうな大鎌サイズだ。


「では追放されし者達よ! 戦いという名の宴を始めるとしようではないか!」


 重量がありそうな大鎌を軽々と振り回し構える、シャドロム。

 背後のケルベロスが戦闘の合図と言わんばかりに咆哮を上げた。


「あっ、ちょっといいですか?」


「なんだ?」


 僕は静止を呼び掛け、《配信》スキルを発動した。

 頭上に半透明のウィンドウが浮かび上がる。



【バトル実況】ダンジョンのボスに勝利しろ!


「こんちわ! 黒月兄妹チャンネルです!」



:おっ、何それ?

:開設したチャンネル名なの?

:ほのぼの系のタイトルかわいい

:こんちわー

:はじまた

:ついにボス戦かよ

:どんな配信になるか楽しみだわ

:頑張れ

:あれ、なんか兄キの衣装変わってね?

:ほんとだ、カッコイイ

:けど顔は地味だなw



 少しでもライブ配信を盛り上げようと寝ずにチャンネル名を考えて、わざわざ衣装を着てハイテンションを演出して頑張っているのに、「顔が地味」とか超酷いんですけど。

 匿名だからって好き放題に揶揄しやがって……視聴者ムカつく。


「いきなり何を言っているのだ? 汝の頭は大丈夫なのか?」


 僕がショックを受けていると、シャドロムが呆れた口調で問い首を傾げて見せる。


「……気にするな。これが配信者ライバーの戦い方だ」


「そうか理解した――」


 刹那、シャドロムの姿が目の前から消える。

 すると僕の首元に大鎌の曲刃が不意に迫ってきた。


「フン!」


 僕は上体を後ろへ大きくそらし躱し切る。

 そのままジャドロムの背後に高速移動し、奴の背中を目掛けてハンドガンの『リベリオン』を抜きトリガーを絞った。

 威力が高いだけに、この手の拳銃は射撃時の反動が非常に大きいけど、強化した僕のレベルなら片手でも容易に扱うことができる。


 だがジャドロムも高速移動で躱し、弾丸は虚しく鉄の扉を撃ち抜くに至る。


「……ほう、汝も《神速》を持っておるのか? それにその武器、まるで見たことがない中々の威力だ」


「まぁね……月渚にネム、こいつは僕が相手をするから二人はケルベロスの方を頼む、《統率》ッ!」


 僕はスキルを発動し、月渚とネムの能力値を二倍に高める。

 二人は頷き、その場から離れて行った。


「……それは助かる。我も追放された身とはいえ、『主』となる方とは戦えない」


「主? 誰のことを言っている?」


 まさか月渚のこと言っているのか?

 こいつ、自分も追放されたと言っていた……何者なんだ?


「知りたければ、まずは我に勝て! 配信者ライバーとやら!」


 シャドロムは喜悦の声を発し畳み掛けるかのように大鎌を振るってくる。

 レベルの差なのか。同じ《神速》使いでありながら躱すのが精いっぱいだ。

 僕はリベリオンを何度か発砲し、奴との距離を空ける。

 そのまま《鑑定》を発動して見定めた。



【鑑定結果】

名前:シャドロム

レベル:75

職業:死神魔族リーパー

体力:1000

魔力:1000

攻撃:850

防御:850

命中:850

魔攻:850

魔防:850

敏捷:850

固有スキル:《神速》《軽量》《収納》《軽快》《跳躍》《威圧》《低下》

称号:試練の番人



 見なきゃよかった。

 めちゃ格上じゃないか……。

 けど、あれ?

 能力値は僕とそんなに変わらない。

 いや寧ろ僅かばかり、僕の方が高いようだけどなんでだ?


「我の力量を見る余裕が汝にあるのか?」


「ぐっ!」


 横薙ぎに振られた曲刃が、僕の腹部を掠める。

 じわっとした痛みが走り血を滲ませた。

 苦し紛れに銃口を向け発砲するも、シャドロムは「フッ」と鼻で笑い回避する。


「攻撃に覇気がない。しかも急所を外した攻撃ばかり……まさか、この期に及んで殺めるのに抵抗を感じているのか?」


 ずばりと言い当ててくる、ジャドロム。

 確かにそうだ。

 モンスターなら狩りや食べるためと割り切れたけど、こうして意志を交わせる相手だとどうしても人間として見てしまう。


 ここは異世界、しかも相手は殺しにきている。

 やらなきゃやられるってのに……。



:兄キ優しい

:甘すぎだろ?

:戦いは非情やで

:負けるなよ

:逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ

:負のスパイラル草

:これで勝ってください!


【スパチャ】

・《感知》スキルを獲得しました



 視聴者さんも同じことを言っている。

 ちなみに《感知》は直感力を極限まで高め勘を鋭くするスキルだ。


「ならば死ぬしかないな――《死の行進曲デス・パレードマーチ》!」


 それは風系魔法を組み入れた技だろうか。

 激しい連撃と共に風の刃が発生し、僕に襲い掛かる。


「《感知》ッ!」


 早速得たばかりのスキルを発動し直観で全回避するも、シャドロムはそれすらも読んでいたのか、既に《神速》で背後に周り射程に捉えていた。

 

「終わりだ――」


 振り向き様、大鎌の刃が容赦なく迫ってくる。

 僕は銃口を構えるも全弾撃ち尽くしていたことに今更ながら気づく。

 もうリロードする時間がなかった。


 駄目だ躱せない!

 このままだと真っ二つに斬られてしまう!


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