第13話 主力武器開発
「――お兄ちゃん、お腹すいた」
月渚の言葉に、僕はビクッと両肩が痙攣する。
空腹がピークを超えると妹が魔獣化してしまうからだ。
「ま、待ってろ、月渚! すぐに食べ物を出してやるからな!」
「ううん……あたし、アレでいい」
月渚は近づき、既に黒焦げ状態で絶命しているタランチュラに向け言い放つ。
その表情は虚ろであり、腹を満たしたいという欲求でしかない。
既に固有スキル《捕食》が発動されている。
やばいぞ!
「わ、わかったよ。《誘導》……」
念のため、タランチュラの亡骸に向けて《誘導》を施す。
すると、月渚の体が膨れあがり急激に巨大化した。
それは一角を持つ魔獣の姿。
以前、暗くてわからなかったが全身が漆黒色に染まった鎧のような強靭な装甲を持ち、普段の可愛らしい月渚とは想像つかない、激しく憤怒したような猛獣の形相だった。
『おニィちゃ~~~ん、いただきまぁぁぁぁぁぁすぅ!!!』
月渚は巨大にもかかわらず、《縮地》スキルで地響きを鳴らしながら高速に向かって来る。
僕とネムを通り過ぎると、そのままタランチュラを貪り食らっていった。
〇しばらくおまちください~うp主より
あまりにも凄まじくグロい食事光景に、ついライブ配信を中断させてしまった。
その配慮が功を奏したのか。
:流石にグロは勘弁
:うp主の英断
:当然の配慮です
:もうやばくね?
:引くわ
:嫌なら見んなや
:それでもルナたんへの愛は不変です!
視聴者からは前向きに捉えてくれるコメントが大半だった。
食事が終わり、満たされた月渚は元の姿へと戻る。
けど巨大化した時に服は破られ、やっぱり裸のままだ。
僕は駆け寄り、《収納》ボックスから予備の服を取り出して渡した。
「お兄ちゃん……ごちそうさま」
まだ意識が混濁しているのか、月渚は恍惚の微笑を浮かべて見せている。
なんだろう……妹の筈なのにどこか艶っぽく思えてしまう。
「そうか良かった。それより服を着てくれないか? 配信を再開しなきゃいけなんだ」
「うん……え? きゃあぁぁぁ!」
正気を取り戻し自分の肌を隠し始める。
もう遅いけどね。
また「お兄ちゃんのエッチ!」と言われなくてよかったけど。
しかしタランチュラを食らったことで、月渚も新たなスキルを習得している。
《拘束》《妖糸》《猛毒》の三つと
僕と同様、月渚も着実にレベルアップが図れている。
けど魔獣化した時点でも影響しているようで、より凶暴で強化されていると実感した。
そう思うと複雑な気分だ……やはりなんとかするしかない。
配信再開後、月渚より視聴者さんに向けて謝罪した。
「皆さん、この度はお見苦しいところを見せてしまい申し訳ございませんでした」
:気にしないで
:ええで
:ルナたん元に戻って嬉しw
:やっぱきゃわい!
:マジ天使、どうかこれを!
:お役に立てるかわからないけど、はい!
【スパチャ】
・《刺繍》スキルを獲得しました。
・《設計》スキルを獲得しました。
美少女からの誠意を込められた謝罪に、視聴者は気を良くして様子だ。
随分と奮発してスパチャを与えてくれる。
《刺繍》はどんなデザインでも簡単に裁縫してしまう技能系スキル。この能力さえあれば、月渚に可愛らしい服を作ってやれそうだ。
そして《設計》は頭の中に完成イメージを浮かべるだけで、詳細な図面やレシピなどが思い浮かぶという万能スキルらしい。
ん? 待てよ……《設計》スキルがあれば、アレが作れるんじゃね?
◇◇◇
やっぱりどこの世界でも美少女系ライブ配信は映えるのか。
ネムの擬人化により配信はさらにバズり、フォロワー数が17000人となる。
僕はレベル17となるが、
でも攻撃力:870と低級モンスターなら素手でも斃せるまで強くなった。
だから、そろそろ『魔窟』ダンジョンから抜け出さす方法を本気で探さなければならない。
このまま三人で過ごすという選択肢もあるけど、やはりどうしても確かめたいことがある。
僕達をここに転移させた、アナハールとミザリー。
奴らに真実を聞き出さなければ……。
そこで僕は自分の強化を図るため、より強力な武器を作ることにする。
どうも剣はしっくりこないので、色々と考えて近距離と遠距離の両方で攻撃できる武器が作れないかと模索した。
そんな折、《設計》スキルを手に入れたことで、ずっと思い描いていた現実世界におけるポピュラーな近代兵器の制作に勤しむ。
つい最近、探索する中で『硝石』を入手した――。
学校で白石先生から学んだ範囲だと、硝石は火薬の原料であり、硫黄と木炭で10%ずつ調合すれば「黒色火薬」という弾薬の素材となるとか。
木炭は既に手に入れている棍棒を活用し、月渚に頼んで燃やして《錬成》スキルで作ることができた。
問題は硫黄になるが、同じ硫化鉱物の黄鉄鉱でも火山活動地域でなければ入手できない代物だ。
せめてダンジョンに溶岩地帯があれば、なんとかなりそうだが生憎そういった場所は見つからない。
苦肉の策として魔力石を代用し粉末状に加工し《調合》と《錬成》で試してみると、ラッキーなことに『火薬もどき』が完成した。
「あとはもうひと手間を加えて爆発物にするか、拳銃の弾薬にするかけど……」
やっぱり拳銃かな。携帯も容易だし、何よりカッコイイ。
本来なら構造とか詳しくなけいど、《設計》スキルを駆使することで詳細な作り方が頭に浮かんできた。
あとは入手した鉄鉱石と魔力石などでフレームになる材質を《錬成》させ、《加工》で各パーツを作成し《再生》で組み立てる。
そういった作業を繰り返すことで、試作の拳銃が完成した。
全長30センチ、50口径のデザートイーグルをベースに僕専用のカスタムが施されたハンドガン。オリジナル・マグナム弾を7発装填可能にした逸品だと自負している。
異世界への反逆という意味を込め、『リベリオン』と名付けた。
それと配信のマンネリ化を防止するため、僕はライブ用の衣装を作ることにする。
視聴者さんから「兄、キャラ地味w」とかディスられているからな。
モンスターの皮を素材に《再生》して革にして、《刺繍》スキルで黒のレザー服とブーツを作った。
コスプレっぽい赤い線が入った白コートを羽織るようにする。
ちょっと厨二っぽいけど、ライブ配信を盛り上げるための演出だ。
そんな僕の姿を見て、月渚から「……あたしは中学の制服でいいからね」と何故か念入りに言ってくるので、それ風に似せた制服を作ってあげた。
せっかく魔女少女ヒロイン風のフリフリ衣装を考えていたのにな……。
ちなみに、どちらの衣装も防御付与+500が補正されている優れものだ。
◇◇◇
しばらく経過した頃。
一人で探索に出かけていた、ネムが戻ってきた。
この子もレベル6と確実に強くなっている。
「ご主人様、離れた通路に妙な気配と階段らしきモノを発見したミャア!」
「なんだって? まさかダンジョンの出口か!?」
おお、ようやくここから抜け出せそうだぞ!
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