第10話 モンスターを食べてみた
月渚の案内により、僕とネムはぼんやりと明かりが宿る場所へと辿り着いた。
それは魔力鉱石の光であり、周辺の岩々から発光された明かりであった。
王城から追放されてからまだ数時間程度だけど、照らされて浮き彫りとなる妹と子猫の姿にほっと胸が撫で下ろされる。
「まだちょっと薄暗いけど、暗闇より遥かにましだ。よし、ここを第一拠点としよう」
「拠点? 基地ってこと?」
月渚は可愛らしく首を傾げ、ネムは「ミャア?」と鳴いた。
「こうして歩いてわかったけど、この『魔窟』ダンジョンはそう簡単に抜け出せそうにないからね。なら逆にこの最悪な環境を利用して、ここを制覇するくらい強くなればいい。それからでも脱出は遅くないさ。ようやく《配信》スキルで強化するコツもわかったからな」
「うん。あたしもこんな恰好だし……せめて怪物にならないようにしないと。またお兄ちゃんに迷惑をかけちゃう」
不安そうな表情を浮かべる、月渚。
あれから移動しながら、これまでの出来事を正直に話した。
こんな状況で隠し事しても仕方なないし、月渚には自分と向き合う必要があると思ったからだ。
「あたし、なんてことを……お兄ちゃん、ごめんね……ごめんね、ううう」
思ったとおり泣かれてしまった。
何せガチで僕を食べようと追いかけ回していたんだからな。
けど僕はそんな妹を包み込むように抱擁する。
「大丈夫。月渚のおかげで兄ちゃん、少しは強くなったんだぞ。現にこうして無事だろ? ネムだってそうじゃないか」
「そうだけど……でも」
「大丈夫だ、兄ちゃんに任せろ。必ず月渚を守ってみせる」
幼い頃を思い浮かべながら、妹の頭を優しく撫でる。
昔から泣き虫だった、月渚。
けど常に僕を慕い傍にいてくれることで、いつも勇気を与えてくれる愛しい存在。
今だってそうだ。
「――それじゃ準備してから、ライブ配信だ。月渚も協力してくれよ」
「うん」
僕は《加工》スキルを使用し、魔力鉱石で構成された岩壁に穴を開ける。
かまくらのような構造物を作った。
大まかに六畳ほどの空間だ。
そして仄かに光る魔力鉱石同士の反射作用で、室内はより明るく灯された。
「これで照明はバッチリだな。難を言えば漏れた明かりでモンスターを誘き寄せてしまわないかだけど、それならそれで狩ってしまえばいい。月渚の《索敵》スキルがあれば簡単に不意を突かれることもない筈だ。念のため素材を揃え次第、相応の罠も作ってみるよ」
「なんか急にサバイバルだね、お兄ちゃん」
ようやく月渚は明るい微笑を見せてくれるようになった。
僕が前向きでいることで、妹の不安も解消されているようだ。
そして岩を《加工》しテーブルもどきを作り、その上に《収納》ボックスに保存していたモンスターの肉を並べた。
ヘイナス・ラビットはモフモフの毛と皮を剝ぎ取り、血抜きをした上で肉として予め加工している。
自炊しているので魚を捌くノリとテレビや本の受け売りでなんとなくやれた。
ちなみにモフモフの毛は《再生》により、現在は月渚の下着と靴にとして作り替えられている。
「よし、準備は整った――《配信》ッ!」
僕は
頭上にチャット・ウィンドウが浮かび上がった。
:おっ、何か始まったぞ
:キタキタ
:予告なしかよ
:随分と明るくなったわw
:兄キ誰よ、そこの可愛い子?
:まさか妹ちゃん? 嘘、マジで!?
:期待値以上!
:ガチかわゆす!
:ペロペロしたい
:ペロペロペロペロ
:下品なことゆーなや
:兄の一存で変な奴らはブロックしていいぞ
視聴者から次々とコメントが流れていく。
特に月渚の姿を見てテンションが上がっている。
流石は自慢の妹だ。僕と違い母親譲りの美貌は伊達じゃない。
「こんちわ! 黒咲兄です!」
「い、妹の月渚です! お兄ちゃんをお願いします!」
:ルナちゃんよろ!
:天使降臨!
:妹推し
:かわいい~
:かわいい~
:かわいい~
:お近づきの印にこれあげる!
【スパチャ】
・《鑑定》スキルを獲得しました
おっ、早速新しいスキルをゲットしたぞ!
《鑑定》は武器やあらゆる物質の真贋が判別できるスキル。
また相手のステータスもこっそり閲覧することが可能だとか。
うん、なかなか使えそうだ。
フォロワーもいっきに500人も増えている。
これも月渚の影響だろう。
てか視聴者さん、僕のこと無視してね?
まぁ、いいや。
「それでは今日のライブ配信は、これらの食材を使った料理ですぅ! 初めて使うヘイナス・ラビットの肉をどう美味しく作れるのか、視聴者さんのアドバイス待ってます!」
:モンスター食うんか?
:食当たり注意!
:面白そう
:食べれるモンスターとそうでない奴がいるで
:ヘイナスは大丈夫じゃね?
:《鑑定》スキルを使えば毒性かがわかりますよ~
:ルナちゃん、こっち向いて~!
やっぱり、モンスターの中は食べられない奴もいるのか?
どこの本に載ってなかったから心配だったんだよなぁ。
きっと人族の中じゃ好き好んで食べようとする奴はいないのだろう。
なるほど、《鑑定》にはそういった能力もあるのか……。
僕は《鑑定》スキルで食材肉を確認する。
【鑑定結果】
〇ヘイナス・ラビットの肉
・とても柔らかく脂肪分が少ない為ヘルシーな肉。
・味わいはどことなく鶏肉に似て淡白であり、かすかな野性味を味わえる。
《注意事項》
・歯と臓物に毒性があり食してはならない。
・必ずしっかり加熱した上で召し上がること。
おお! やっぱり肉は食べられるようだ!
しかも結構美味いらしいぞ!
僕は《収納》ボックスから、ミノタウロスが残した棍棒を引き出し《再生》スキルで薪を作る。
あらかじめ魔力石で加工したフライパンを用意し、積重ねた薪の上に置いた。
「月渚、火の方をお願いできるかい?」
「うん、お兄ちゃん。やってみる――《纏雷》」
月渚は指先を翳し、バチッと高圧の電流が走った。
《捕食》取り込んだとはいえ、無詠唱で高度な雷属性魔法を使用し完璧にコントロールしている。
指先が薪に触れると、火花を散らし薪は燃え始める。
僕は「フーフー」と息を吹きかけ火力を調整した。
まずはフライパンを加熱し殺菌を試みる。
いい感じに熱してきたので、ヘイナス・ラビットから絞った油をフライパンになじませ、食材肉を置いて焼いた。
うん、次第に香ばしくいい匂いがしてきたぞ。
:石焼風か、考えたじゃんw
:美味しそう!
:いい感じ!
:ワイも食いたい!
:妹ちゃん超有能!
「同時進行で、スライムを使って飲料水を作りまーす!」
:スライムだと!?
:そんな奴、初めてじゃね?
:兄キ、チャレンジャーだわw
:で、どうすんの?
視聴者が盛り上がる中、僕はスライムを取り出し風船膜のような体に
ドロっとした粘液が溢れて落ち、魔力石で加工した器に流し込む。
:うえ、グロ
:やめれ、兄
:なんか不味そう……
:腹壊すんじゃね?
:ルナちゃんに飲ませるのだけはやめて!
やっぱ視聴者さんはそう思うよな?
毒性はないと思うけど念のため《鑑定》で調べてみるか。
【鑑定結果】
〇スライムの粘液
・ドロっとしているが無味無臭で毒性はない。
《注意事項》
・加熱殺菌が必要。
・常温まで冷やすことをお勧めする。
おし! いけるようだぞ!
これで飢えを凌げて脱水も予防できる。
調理後、テーブルの上に料理を並べた。
フォークやスプーン、皿といった食器類も同様の工程で魔力石を加工したものだ。
そのまま焼いただけだけど、僕も空腹からか美味そうに見える。
「「いただきまーす!」」
「ミャア!」
僕と月渚とネムは、肉を口いっぱいに頬張る。
「うまっ!」
思わず声を漏れてしまう。
肉汁が溢れ、肉の旨味が広がっていく幸福感に満たされる。
やばい、なんか楽しくなってきた。
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