第9話 やるべきこと
「月渚ッ!」
僕は慌てて駆け出した。
妹はぼーっと虚ろのまま立ち竦んでいる。
だけど巨大化した影響で制服は破られたのだろう、真っ裸の状態だった。
目が慣れたとはいえ暗闇なので綺麗な体のライン程度しか見えないし、周囲には兄の僕と子猫のネムしかいないのが幸いだ。
僕は制服の上着を脱ぎ、月渚に羽織らせた。
「……お兄ちゃん?」
「大丈夫か……良かった、本当に。元に戻って……ううう」
つい嬉しくて涙が溢れてくる。
僕は月渚を強く抱きしめた。
月渚は自分がどうなっていたのか覚えていないようだ。
裸であることに気づき、「やだぁ、お兄ちゃんのエッチ!」と何故か僕のせいにされてしまった。
:兄キ、草
:ワイも妹ちゃんにエッチと言われたいw
:暗くてようわからん、妹の状態が超気になる
:ええ話やん
:感動した!
:おめでとう!
:おめでとう!
:おめでとう、これお祝いです!
:やったね兄、どうぞ!
【スパチャ】
・《生産》を獲得しました
・《錬成》を獲得しました
「お兄ちゃん……なぁに、この光っている板? いっぱい文字が書かれているよ? ステータスとは違うみたいだけど」
「これが僕の固有スキル《配信》だよ。なんて言うか……視聴者さん達のおかげで、僕と月渚は助けられたと言うか」
どう説明していいのやら。
視聴者さんが神様かもしれないって説は、あくまで僕の憶測だからな。
当人達に聞いても文句言われて教えてくれないし。
ん? そういや、また新しいスキルを貰ったぞ。
しかも二つもだ
なになに……《生産》は素材を消費し新たなアイテムを生み出す能力で、《錬成》は素材同士を結び付けて新たな素材あるいはアイテムを作り上げるスキルなのか。
す、凄いじゃないか!
これって白石先生と同様、
やっぱり使いどころさえわかれば凄いスキルだ!
僕は早速、獲得した《生産》スキルを使うことにした。
月渚に羽織らせた制服の上着を借り、ワンピース風に作り替える。
技能レベルが低いからか、少し歪な形となってしまったが露出が少なくなった分まぁいいだろう。
:兄、加工スキルがあれば好きなデザインにできるよん
:お裾分け、はいどうぞ
:これも必要になるんじゃね?
【スパチャ】
・《加工》スキルを獲得しました
・《収納》スキルを獲得しました
:お前ら兄キに甘くね?
:社会の厳しさ教えにゃあかんでw
:妹ちゃんの素顔、はよ見てみたいペロ
批判や煽りコメは無視するとして、またスキルを獲得したぞ。
《収納》か。任意で別空間を発現させ、大小問わず触れた物を自由に出し入れできる無限ボックスらしい。
うん、これから十分に使えるスキルだぞ!
《加工》スキルは後で試してみよう。
「まずはダンジョンから脱出しないと……」
とりあえず少しでも明るい場所に行きたい。
それ以前に喉が渇いてきた。
いずれ僕も空腹になるだろう……食料も確保しなければ。
脱出云々よりも、やるべきことは山積みかもしれない。
「お兄ちゃん、これ」
月渚は地面から何かを拾い上げ、僕に見せてきた。
暗いのでよくわからなかったが、手触りから察するに月渚が食い散らかした「ミノタウロスの角」のようだ。
「素材として使えそうだな……例えば剣とか」
「あそこにも9本くらい落ちているよ。あと斧が2本に棍棒が3本くらい転がっているかなぁ」
月渚は指を差して教えてくれる。
って、待てよ?
「月渚、暗闇でも見えるのか?」
「うん。気がつけば……さっきまで何も見えなかったのに」
言いながら自分のステータスを表示させる。
固有スキル欄に《捕食》の他に、《暗視》、《索敵》、《肉体強化》のスキルが習得されていた。
さらに全能力値+100ずつ上がっており、レベル3となっている。
「これって、ひょっとしてミノタウロスのスキルか?」
つまり月渚が持つ《捕食》は食らったモンスターの特性を奪うスキルなのか。
けど魔獣のような姿になったのはどういうわけだ?
そういや、昔遊んだRPGゲームのラスボスって大概、第二形態や第三形態に異形の姿に変わって強化していたよな?
じゃあ、やっぱり月渚は……。
僕は頭を左右に振るい、(今は考えるのはやめよう!)と割り切る。
せっかく《収納》スキルを手に入れたので、月渚の指示どおりに角と戦斧を回収して全て収納した。
「あとは《配信》スキルを解除するだけだな……視聴者の皆さん、一端ライブを終わります! チャンネル登録よろしく!」
:お疲れさまです
:さよなら
:またね!
:今度こそ妹ちゃんの素顔を!
:次回も楽しみ!
:ばいば~い
:お疲れ
etc
こうしてライブ配信は終了した。
フォロワーは5000人に増え、レベル5になる。
全能力値も+270と、さっきまで20程度しかなかっただけに爆上がり状態だ。
「ははは……予想以上のバズり効果だ。 ひょっとして
自惚れかもしれないけど、そう思えてしまう。
使い方次第だけど、僕の固有スキルは万能だと言える。
それから月渚の案内でダンジョン内を移動するになった。
彼女の《索敵》スキルでモンスターと遭遇しない場所を移動して行く。
分岐された道に着くと。
「お兄ちゃん、右のほうに行くと『スライム』と『ヘイナス・ラビット』が三匹ずついるよ」
「スライムは定番だけど、ヘイナス・ラビット? 確か図鑑では一角の兎みたいな奴だったな。どちらも初級冒険者向きの低級モンスターか……今の僕なら一人でも勝てそうだ」
「戦うの?」
「うん、試したいことがあるんだ」
僕は《収納》ボックスから、ミノタウロスの角1本と戦斧を取り出し、《錬成》スキルで組み合わせる。
結果、2本の
しかもただの短剣ではない。雷撃系の魔力を帯びた強力な魔剣だ。
「ミノタウロスの
グランテラス王国の王立図書館と書物庫で沢山の本を読み漁って正解だ。
大抵の知識は頭に入っている。
僕は月渚とネムをその場に待機させ、モンスターが潜む右側の通路に向かった。
すぐさまスライムとヘイナス・ラビットと遭遇し、《神速》スキルを駆使して斬撃と雷撃の即キルで瞬殺する。
そして戦闘後、僕はステータスを表示して「やはりな」と呟いた。
「モンスターを斃しても僕の経験値は上がらない……そういう制約というか、デメリットもある職業のようだ」
したがって
「ならばやることは決まったぞ――ライブ配信だ!」
僕は斃したモンスターの死骸を《収納》ボックスに入れる。
本来なら生き物はNGだけど、死んだ状態なら「物」として扱われ収納が可能のようだ。
さらにボックスに投函された状態であれば、永久に鮮度を維持したまま保存できるとか。
フフフ、確実に僕は強くなっているぞ。
見てろアナハール、そしてミザリー!
僕は必ず月渚と一緒に、お前達が放り込んだ『魔窟』ダンジョンを脱出してやるからな。
その暁には、お前達に真実を話してもらうぞ。
誰が本当の敵なのかはっきりさせた上でな。
月渚に害をなす者は誰であろうと僕が許さない!
せいぜい首を洗って待っていろ!
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